Wat00396 乳房温存療法は主流となりうるか

#0000 sci1902  9210031215

Modern Medicine10月号の特集の感想です。
           sci1902     つちねこ


#0001 sci1902  9210031216

modern medicine10月号です。
特集:乳房(「にゅうぼう」と読んでね)温存療法は主流となりうるか。
女性にとって乳房は子宮と並んで(あるいは外見でわかることもありそれ以上に?)、
女性であることの証しとなっているようです。私は男だからよくわかりませんが(以前
週刊朝日に連載がありましたよね。千葉さんでしたっけ。アメリカで切除、再建をされ
たのは。実は切除の方はあまりというか全く記憶に残っていないのですが、再建の方は
男の私にも強いimpactをもっていました。題名は「愛しの乳房よ、よみがえれ」だった
と思います)。
現在の職場には当病院で行われる手術検体(切除・摘出物)のほとんどが、病理検査の
ために送られてきます。手術検体の当番日というものがあり、全例をこの眼で見ている
わけではありませんが、おおよそ当院で行われる手術検体の1/3から1/2を担当していま
す。乳房も多いのですね。正確な統計を取っているわけではありませんが、ほとんどが
乳房を温存しません。大小胸筋は病気の拡がり具合により温存することもありますが。
つまり「出来上がり図」は15ページの写真マル3のごとくになるわけです。10代、20代
の患者さんで術前検査で癌細胞の広がりがごく限局していると明らかにわかったときの
み、腫瘤のみを核出し乳房温存を試みることがあるようです(この場合にも「術中迅速
病理診断」という方法で切除断端に癌細胞があるか否かを判断し、乳切に移行する場合
もあります)。
さてprospective studyで温存療法と乳切とに大きな予後の差がなければ、この方法は
これから主流となり得ましょう(もっともこのprospective study自体にも批判はある
と思いますし、問題も多々含まれていると思いますが)。
続く
                                        sci1902 つちねこ


#0002 sci1902  9210031217

慶応大学放射線科の話
厚生省助成「乳がんの乳房温存療法の検討」班の基準というのは概ね多くの人に受け入
れられるものであると思います。反面、言葉は悪いが「かなりのいいかげんさ」を持っ
て対処している慶応大学の方法にはちと危惧をおぼえます。
たぶん多くの場合に、癌細胞を生体内に残してくるのでしょう。それで5生率が94%、
再発率が20%で「普通の温存療法に比べて決して悪くない」そうです。想像してみるに
、放射線科が主体となって行っている治療法ですから、手術の前後(あるいは何れか)
にradiationを行うことを前提として、厚生省助成・・・の温存療法と比較しているの
ですよね?
この部分には幾つかの問題点を含んでいると思います。その一つは17ページに書かれて
いるように、まさに「外科医は・・・放射線医は・・・と考えて自分の技術のみに頼っ
てしまい」そのものでしょう。
もう一つは「普通の温存療法に比べて」の部分です。この部分をスラーっと読むといか
にもこの方法が優秀な成績を納めており「少ない侵襲で大きな効果」をあげているかの
ようにとられます。しかして、乳切(大小胸筋温存や、Halstedをも含めて)に比べた
予後はいかがなのでしょうか(いや実際知らないもので。これらに比べても予後が優る
とも劣らないのであれば、早急に乳癌のほぼ全例を乳房温存術に移行すべきでしょう)
。
最後の一つは、方法自体の危なさです。今でこそ、「5生率は・・・再発率は・・・」
と胸をはっていえるのでしょうけれども、この方法を始めた当初はほとんどの患者さん
を不幸な転帰に至らしめる可能性をかなり含んでいたのではないでしょうか(実際に不
幸な転帰を取らせてしまったことも多いのではないかと勘ぐってしまう。ほかの治療法
をとっていれば助かったのに温存療法をしたがゆえに死に至らしめた、あるいは再発し
てしまった、などなど。施療者にとっては5生率94%に入らなかった僅か6%、再発した
僅か ? 20%の患者さんでしかないかもしれないが、本人にとっては100%死ぬあるいは再
発することなのだが)。前項で述べたprospective studyの持つ問題点がここにありま
す。言葉は最悪ですが「モルモットにしている」と。もっともこういった「臨床試験」
的なことがないと実際の治療法には進歩はないし、こういう試験的なことをする使命を
持っているのが大学病院なのですけれども。
その点は十分患者さんに説明をしているのでしょう。(慶応大学のことを言っているの
ではなく)一般論ですが、日本の医者はインフォームド・コンセントは下手です。ある
程度の年齢と経験をつんだ医者ですと、ろくに説明もしません。説明したとしても形式
のみです。患者さんにすべてを説明して、患者さんに自ら選択させるなんていうのはか
なり希少な部類に入るのではないでしょうか。ひどい場合にはその方法しか治療法がな
いような形で話を持っていき、同意をさせ、インフォームド・コンセントだぁといって
るなんてのもあります(身に覚えあり(-_-;)。脳死問題もそうですが、一般の人々か
ら医療界が今一つ(いや、まったく?)信用されていないのはこの辺にあるのじゃない
かと思っているのです・・・っと、話がそれました。
今回の温存療法の試みが実際にそうではないとを信じています。
つづく                                 sci1902     つちねこ


#0003 sci1902  9210031218

とまあ、negativeな印象で書いてしまいました。
でも本心は乳房温存療法が主流になればいいなあと思っています。
私は外科の素養は全くありませんが、現在私の外来にも乳切後の患者さんがいます。以
前、入院で受け持った患者さんの乳癌を発見したこともあります。そういう意味で、内
科医といえどもこの問題に全く無関心でいるというわけにも行きません。
この雑誌は読者の殆どが医者でしょうから私ごときが感じる感想や危惧はきっとみなさ
んもって(あるいは解決して)いるのだろうと思います。ただ最近では患者さんの病気
や治療にたいする知識が増えてきており、この雑誌なども実際に乳癌の患者さんやその
家族に読まれるかもしれません。そういう場合に起こりうる危険性はあるのかもしれま
せん(お? なんかこの日本語変だぞ)。
ではまたいずれ。皆様および久保田記者のますますの御活躍を期待しております。
おしまい                  sci1902     つちねこ


#0004 ultra7   9210081326

 ああ,どうもまた拙い駄文について長い感想芋をありがとうございました。

 小生らの作っている『モダンメディシン』なる雑誌は,巷の本屋で売ってな
いし,乳房温存療法といっても,中には医者でも知らない人もいるくらいの話
題ですので,間違ってこのここコーナーにお入りになってしまった諸兄淑女の
皆さんには,「なんのことかいな」の世界かもしれません。ですが,せっかく
の感想芋ですから,おいしくいただかせていただきます。

 さて,ご疑問の慶応大学の乳房温存療法の生存率ですが,通常のハルステッ
ドや胸筋温存手術と比べても劣りません。というより,もともと乳房温存療法
の成績が,ハルステッドなどに比べて成績が劣らないということが,欧米の医
師が乳房温存療法に踏み切れた理由なのですから。
 通常の乳房温存療法がハルステッドに劣らず,慶応の成績が,通常の乳房温
存療法に劣らないならば,三段論法(?)で,つまりハルステッドにも劣らな
いということです。

 この慶応の場合問題になるのは,適応の拡大ということだと思いますが,こ
れは一言でいえば,確かに「人体実験」だと思います。しかし,普通の医学上
の「人体実験」と多少異なるのは,医師が患者にお願いしてやってもらう治験
ではなく,こちらは,患者がわざわざ「人体実験」をされに,それを希望して
「直接」慶応大学放射線科を訪れている,という点です。
 大体乳癌になって,内科にも外科にも婦人科にもいかずに,その足で放射線
科を直接訪れるという状況判断は,ただものではない「患者」でしょう。勿論
どこまで,インフォームド・コンセントされた上での決定で,慶応を訪れてい
るのかという問題は残りますが・・。
 また,つちねこどんが,危惧されている部類のお話しとして,慶応に対する
「悪評」も取材のうえでかなり聞きました。しかし,それより痛ましい話とし
て,あつこちで聞いたのは,温存できるはずの乳房を,相談もなく急に医師に
切られてしまい,どこそこの病院で患者が自殺した,といった話でした。
 あの特集のため乳房温存療法の論文を数十編読み,専門医の話を聞いて回っ
た個人的な印象を書かせていただけば,慶応のケースが問題というよりは(確
かに問題はあります),その前に!やはり十分温存できるのに,それを患者に
つけず,自分の今までの流儀を守るためにひたすら乳房を切り続ける医師の古
典的態度の方に,大きな疑問を感じております。 

 乳癌の専門誌として『乳癌の臨床』という雑誌がありますが,母校の図書館
にでも入っておりましたら,89年10月号の『第50回乳癌研究会特別企画』
という記事を読んでみてください。乳癌研究会の歩みが書いてありますが,そ
の回顧談の中で,「今,こういうことをやられると叱られることは間違いない
のですが」と断りつつ,「前癌状態」の研究がお好きな某先生が昔おられ,こ
の先生が,乳腺症を癌の予防だと称して,「かなりの数」の乳房を切断して,
調べた,とあります(本文は実名入りです)。

 医師でも,まずは存在すら知らない専門誌ですからいいようなものの,この
話を当時の患者が聞いたらどう思うのか。私は,情けない気持ちになりました。

 最近の乳房温存療法では,10年生存率が95%と言われています。これだ
け生きる率が高いと,もはや巷の感覚で言うところの,「癌」とも言えない気
さえします。肝硬変や,心筋梗塞の方がよっぽど「死に至る病」なのではない
でしょうか。
 
 もちろん誰かが結果的には5%に入ります。しかし,それが誰かは,もう神
のみぞ知る世界でしょう。その5%が怖いという理屈で残りの95%の愛しい
お乳が病理解剖の材料に消えて行くこと(正確に言えば,乳房全切除をしたっ
て再発はあり,やはり誰かがこの5%に当たるのです)は,男の私にも,「社
会的損失」に思えてなりません。


#0005 sci1902  9210111550

ああ、かなりいちゃもんに近い感想芋にもかかわらず御丁寧なお返事をいただき、
たいへんおそれいっております。
そもそも私があんな感想をのうのうとアップできたのは、何しろ私が何も知らない
からであります。私は私自身を平均並みかそれ以下の内科医と考えています(一応
内科学会は私のことを内科医と考えてくれているようです)。で、病理というちっ
とは外科にも関連することをしておりましても、やっぱりよくわからない。出来上
がり図である切除標本には毎週の如くお目にかかっていても、なぜ手術にいたった
かどうしてその術式を選らんだのか、なんて言うことは依然門外漢なわけでありま
す。
言い訳はこれくらいにしましょう。
慶応の話がこれから「悪評」のままであるのか「勇気ある先駆者」になっていくの
かは、今後の慶応の対応次第となるのでしょう。前にも書きましたけれども、脳死
が世間の疑惑(?)をぬぐい切れていないのは、医師側に問題があると思うのです。
世間の疑問に明快に答えないで、あろうことか「われわれは専門家であるから専門
家に任せておけばいいのだ」的な態度がちらほら(堂々?)見られるのがその一因
であると思っています(だからって私が何をできるというわけぢゃないんすが)。
そういうわけで(どういうわけで?)慶応には広くないようを公開し、疑問に答え
ていただければ・・・と思います(本当は公開しているのだろうと思います。学会
かどこかで。私が知らんだけなのだろうなあ。ううむぅ。)
ところで、温存可能である乳房を切除してしまう、と言う話。きっと良くあること
なのでしょう。それが今までの流儀を守るためだけにされているのかどうかは、わ
かりかねますが、なにしろ「余分目に治療しておけばまちがいない」的な考え方は
どんな医者でも程度の差こそあれ持っているのだと思います。やはり恐いのは、十
分な治療を選択せずに死に至らしめる、あるいは再発させてしまう、と言うことだ
と思います。その背景にはもちろん患者さんのため、ということもありますが、少
なからず医師の保身や、QOL軽視があると思います。
現在私が主に従事している臨床病理でも、biopsy(胃カメラなどでの生検)はover 
diagnosisに傾きがちです。単なる変な再生上皮なのか異型を持っているのか迷うケ
ースはしばしばあるのですが、そういう場合には重目に診断を書き、所見欄で再検
を薦めています(ちょっと話のレベルが違うか・・・)。

そういや先週乳腺の部分切除の検体が出てきまして(あ、お年をめした患者さんで
したが)、標本を切り出しながら今回のこの話を思い出してしまいました(^^)。

こんじん様の最後に書かれた部分ですが、全面的に賛成は致しかねますが、QOLを考
えた手術選択という意味では大賛成です。今まで医者は「死ななきゃいい」と考えす
ぎていたのかもしれませんね。
                    つちねこ

*QOL:Quality of lifeの略語です。単に「死ななきゃいい」ではなく「いかに質の
高い予後(この場合術後の生活)を送られるようにするか」をも治療に際して考慮す
ること、と単純化すればいえるの・・・かなぁ?


#0006 ultra7   9210121149

 再び,愛の交換日記ならぬ,愛の交換感想芋と化してきましたが,まあいい
でしょう。他にも無言の読者がいるもしれないし・・・・。そういう方は,感
想芋の食べ過ぎによる「愛の握りっぺ」に,ご注意くさあああい。(うう。ま
た下らないことを書いてしまった)

 口が悪くて,すぐにお医者さまの悪口を言うのが好きな艮神でも,日本のお
医者様って,特に大学病院などにお務めの先生など,劣悪な環境の中で,皆さ
ん職務を一生懸命まっとうされておられると思っております。

 つちねこどんを筆頭に,斜めに構えるかのごとき姿勢を見せつつも,医療を
真面目に考え,憂えておられる他の頼もしい先生も,少なくありません。
 
 でも,お医者様って,なんで集団になると,ああ,わけがわからんなっちゃ
うんっでしょう。特に,臓器移植問題で強く思ったのですが,個人個人は悪く
ないのに,集団になるとわけわかんなくなるって,日本人の特質でしょうかね
え。つまり,すぐ集団としての動きが取れなくなっちゃうし,長い物にすぐ巻
かれちゃうというかなんというか 。

 乳房温存療法の細かいポイントの是非に関するディスカッションは,「横浜
中華街における,衣食同源のテーブル上における,お乳のもみもみなどなどの
臨床研究について」で,お話ししましょう。なかなか。横浜方面の仕事がなく
てお邪魔するのが遅れてますが,まあ,適当に口実を見つけて,遊びに行きま
す。


#0007 sci1902  9210132314

わはは、長芋のに負かれる(夫変換が亜ぁ)のは得意中の得意として
いるようなわたしですが、実際私も含めてそういう人(というかパターン?)
って多いですね。

まあ、相撲部屋とヤクザさん組織と大学医局、といわれるせかいですから、
(お相撲さんヤクザさんごめんなさい)なかなか巻かれずにすむのは大変
ではあります・。

横浜方面へのお出ましを心よりお待ち申し上げております。
                 つちねこ

追伸:私は斜に構えてカッコヨク?冷静に?鋭く?(あ、そこまでいわれて
いない)物事を見たりしません。目立たぬように後ろかつ下向きにぽそぽそ
とものをいうのが得意です。