Wat00385 キーワード: 無限; その他(科学朝日9207) #0000 sci2596 9206100153 キーワード: 無限 (科学朝日 9207) 新聞 (朝日) の広告に科学朝日 9207 の広告を見,記事のタイトルに引かれ, 求めました(定期購読者でなくてすみません). Kennywell #0001 sci2596 9206100155 キーワード:(広告で引かれたタイトル) 1.無限 * 2.量子宇宙論 * 3.イリヤ・プリゴジン * 4.スティーブン・ジェイ・グールド (*:実際に読んでみて期待以上だったもの) 読まされた記事:(順不同) 1.若田光一さん 2.爆発的に数増す宇宙ゴミ 3.人はどうして同性愛に... 4.幻の腕 以下に簡単な感想と,少し大きな補足を. Kennywell #0002 sci2596 9206100157 <無限> 小島氏の解説は数学における「無限」の奥行きを,歴史を追ってたいへん興 味深く書かれてあると感じました.認識を新たにすることができました.上野 氏の解説は,最新の解析学に関する成果が,物理と不可分になってきていると いうことで,雰囲気を感じることはできました. <量子宇宙論> 宇宙の大規模構造の発見によりビッグバン説が怪しくなったと聞いていまし たが,背景輻射のゆらぎが発見され,ビッグバン説がまたまた復活したらしい. また,日経サイエンスに超弦理論とそれに関する日本人研究者の貢献が取り上 げられていたことなども連想しました.たいへん期待の大きい連載です. <イリヤ・プリゴジン> ホーキングへの批判がありましたが,ホーキングの「時間順序保護仮説」と いうタイトルの本を書店で目にしました.この考えとプリゴジン考えの異同は どうなのでしょう? インタビューでのプリゴジンの考えは直感的には受け入 れられますが. <スティーブン・ジェイ・グールド> 正統的進化論に対する異議が,創造論者に利用されたというグールドですが, アメリカの状況がよくわかりました.解説記事の趣旨からははずれてしまいま すが,このグールドの「断続平衡説」,実は正統的進化論で十分説明できると いう,根井正利氏 (テキサス 大教授) の批判に対して,グールドがどう答えられ るか,首を長くして(私は)待っております.(以下に,以前 Nifty Serve にアップした内容を再掲しておきます.No res でした.ぐすん) Kennywell #0003 sci2596 9206100200 S.J.グールド,N.エルドリッジらが唱えている,断続平衡説(あるいは区切 り平衡説,punctuated equilibria):地質時代的なスケールでみると,進化 はネオ・ダーウィニズムで仮定されているような漸進的な変化ではなく,かな り速く変化する,比較的短期間の時期の間に,何百万年もの,平衡的な停滞状 態を示す時期がはさまれている(*1,*2),に対する,コロンブスの卵的な解 答を知りました. この説が提出されて進化の解説記事に現れるようになった初期の頃,確か遺 伝研の太田朋子氏が,「こんなことを言っても仕方がない,・・・」と書かれ ているのを目にし,あとになってその論文を探しましたが見つけられませんで した.その後,グールドの一連のエッセイ集(*3,*4,*5,*6),エルドリッ ジ・クレイクラフト(1980)(*7)と読みましたが,一番の問題は,そのメカニ ズムが説かれていない,ということでした. グールドらの基本的な論点は,種の進化には,種内進化と異なるメカニズム が働いている(のではないか),ということです.それが,極めて速い進化の 時期,進化の停滞した平衡状態の時期,双方にあり,種内進化の漸進的変化の 研究からはそのメカニズムは解明できない,としています. 急速進化についての1つの可能性は,それは単に化石記録の不完全さによる ものではないか,ということでしょう.つまり,かなり短期間に突然変わって いる,ということが,この先もっと綿密な中間状態の化石の発見により,漸進 変化に他ならないことがわかるようになるのではないか,と期待されることで す. 河田(1989)(*8)はこの可能性を,三葉虫の化石の肋の数に見られる変化を 例にして論じ,断続平衡現象というのは見かけに過ぎず,急速進化は,ダーウ ィニズムで十分説明できると断じました. 平衡時期についてはどうでしょうか? これはダーウィニズムでは安定化淘 汰で説明されて然るべきですが,グールドらは,何百万年という長期間に進化 を必要としないような環境変化が起こらないとは考えられないため,その説明 を疑問視しています(*2). さて,問題の優秀解です.Nei(1987)(*9)の末章『進化論との関係』中で すが,1つの仮定を考えると,これが鮮やかに説明できるのです. 仮定:「高度に適応した形質,ないし形態的に際だった形質の変化は,一連 の特殊な突然変異(特定の塩基配列の変化)を必要とするために,それほど重 要ではない形質の変化よりもずっと低い頻度で生じている」 すると,進化は漸進的に起こることはあり得ません.突然変異の出現と固定 の過程は確率的であり,これに極めて低い突然変異率というのを加味すると, その様相は,自ずと急速進化,平衡・停滞状態の繰り返しになる,というわけ です. Neiが断続平衡説において問題としているのは,種の大きな進化的変化が断 続的に起こるという点と,かなり長期間にわたって停滞状態を示すという点の 説明についてです.グールドらが論じているのはこれらの点に加えて,比較的 短期間における急速進化と,環境が変化したであろうにもかかわらず,種が停 滞を示すことがあるという点です.ここの,急速進化については,Neiは特に 論じておらず問題視していません.つまり,急速進化は起こり得ると考えてい るようです(*10). 停滞状態については,Neiは,ネオ・ダーウィニズムの自然淘汰に重きをお く考えに対して,突然変異により大きな役割があると考えています.従って, もし突然変異が起こらなければ(確率的な現象なので,何百万年にわたって, ある突然変異が起こらないということはあり得ます),平衡・停滞状態を示す のみです. ここには注目すべき進化観が述べられていると思います.つまりグールドら が自然淘汰には創造的な力があると述べるとき,自然淘汰に余りに大きな力を 与えすぎる嫌いがあります.そうではなく進化の主役は突然変異であり,生物 が環境の変化に適当な突然変異で十分に適応することができなかったとき,生 物は変化することができなかった. これは,ちょっとしたことですが,なかなか味わい深い説明と感心すること しきりでした. 種の進化には,種内進化とは違ったメカニズムが働いている,という考えは, ここのところ,小生に不安を感じさせるものになっていました. この点に関しても,Nei(1987)は,進化学者の縁の遠い生物種間の系統樹復 元といった研究分野と,集団遺伝学者の研究分野が近い将来には完全に融合す ると予想し,長期的進化は,本質的には連続した短期的進化の蓄積であると, 述べています. (*1)Eldredge & Gould 1972. Punctuated equilibria: An alternative to phyletic gradualism. In Schopf ed. Models in Paleobiology, pp.82- 115. Freeman. (*2)Gould 1982. Darwinism and the expansion of evolutionary theory. Science 216:380-387. (*3)Gould 1977(邦訳:『ダーウィン以来』1984,早川書房) (*4)Gould 1980(邦訳:『パンダの親指』1986,櫻町訳,早川書房) (*5)Gould 1983(邦訳:『ニワトリの歯』1988,渡辺・三中訳,早川書房) (*6)Gould 1985(邦訳:『フラミンゴの微笑』1989,新妻訳,早川書房) (*7)Eldredge & Cracraft 1980(邦訳:『系統発生パターンと進化プロセ ス』 蒼樹書房) (*8)河田雅圭 1989 『進化論の見方』紀伊國屋書店 (*9)Nei 1987(邦訳:『分子進化遺伝学』1990,根井監訳・改訂,五條堀 ・斎藤共訳,培風館) (*10)第13章 13.4.2-b.’突然変異と自然淘汰’(*9)の項で,新しい突 然変異(A')がもとの対立遺伝子(A)に対して淘汰上の有利性をもったときの固 定確率を分析しています.それによると,AA,AA',A'A'の適応度を1,1+s, 1+2sとしたとき,比較的弱い淘汰でも,A'の固定が相当に加速される結果が得 られています. Kennywell #0004 sci3588 9208282239 ( 突然お邪魔し、しかも間が抜けた Res で申し訳ありませんが・・ ) 確率的な現象を重んじる説では長期間突然変異が起こらないケースが あるとし、突然変異が起こらなければその期間は平衡・停滞状態である としているわけですね。またこの説では、偶然環境に有利な突然変異が 起こったとすれば集団に固定する時間はかなり短くなる、つまり遺伝子 頻度の変化は急速化し、よって急速進化は起こり得る、と説明するわけ ですから、従来の理論体系に余分なことを付加することなく断続平衡説 を導きだせるという魅力があります。環境に有利な突然変異を得たとし ても、それが小数であれば小数派の遺伝子の影響は集団全体へには浸透 しない、という伝統的なダーウィニズム批判の解答にもなっているわけ ですね。 残念なのは、遺伝子頻度の確率論的モデルの数学がワタシには難しす ぎて、急速進化が起こり得る理論的根拠を感覚的にも納得するにいたら ないことです (;;)。おそらく集団遺伝学の S.ライトらの立場を理論的 に補強することにもなって、種内進化のメカニズムで種の進化を説明す ることにつながるのであろうと思われるのに残念です。 グスン ところで、ここでは環境圧の問題は触れられずに、純粋に確率的無方 向性の突然変異率を考慮することによって種々の結論が得られているよ うですが、選択的・適応的な突然変異の報告結果が事実だとすると(*1)、 確率論的モデルが導きだす答に抵触してしまいそうな気がしました。ま さに不活性遺伝子が環境変化によって突然発現するようなものですから、 急速進化は確率というよりは仕組まれているという解釈も成り立つよう です。抵触しそうだとしても急速進化についてはこれを促進するわけで すから根本的矛盾はありそうにもないかなと想像するのですが、問題は 平衡・停滞の方にありそうに思われます。選択的・適応的な突然変異が 出現しないような環境変化が長期間起こらないとは考えられない、とい う問いが想像できます。ただし先の報告例は細菌に対しての実験・観察 結果でしたので、Nei の仮定:「高度に適応した・・」には当てはまら ず、よってかなり進化した生物の突然変異率は無方向性である、という 概念は無事であるという解釈も成り立ちそうですね。 (*1)「生物進化を引き起こす”隠れた遺伝子”のメカニズム」柴谷 篤宏(最新大進化論/学研) バリー.G.ホール,ジョン.ケアンズ らによって、増殖できない条件におか れた細菌が、増殖状態におかれている細菌に比べて桁違いに高 い突然変異率が観察されたとのことです。 (逆に培養液の中での生態学的相互作用による遺伝的変異のお もしろい報告例も見受けられます。(*2)) (*2)「微生物における群集の安定性」栗原 康(科学 VOL.61 NO.9) 大腸菌とその捕食者であるテトラヒメナを長期間一緒にして培 養すると大腸菌の突然変異体が多数出現し、テトラヒメナがい ないと変異体は出現しない、とのことです。 (断続平衡現象は見かけなのか実際に起こり得るのか、種の進化は種内 進化と同じメカニズムで説明できるかできないかなど、なかなか刺激に 富んだ話題を教えて頂いてありがとうございました。以前、分子生物学 にはまったく縁のなかったワタシにたくさんの知見を与えて下さったの も、やはり Kennywell さんともうひとかた、木元さんでありました。) 斑猫