Wat00173 科学面(4月5日/6日)の感想コーナー

#0000 sci1902  8904110251

遅くなりましたけど、4月5日/6日の科学面の感想です。
                       つちねこ

#0001 sci1902  8904110252

ちょっと古い話にしてしまい恐縮なのですが。
「神経細胞支えるたんぱく質『キネシン』の姿捕らえた」

記事を読ませて頂きました。なんかよく分からないのですが、どうやら神経細胞中
にある物質を運搬する蛋白質のようですね。L−chainとか、構造の話は非常
に良く分かったのです。しかし、この蛋白質がどういう役目を生体中でしているか
が今ひとつ良く分かりませんでした。記事中には、「必要なものを運ぶ」と書いて
ありますが・・・
で、このコーナーの趣旨からは邪道になるのですけれど、今日の某M新聞の科学欄
に「キネシン」の記事が載ってましたんでそこからもちょこっと知識を仕入れまし
て考えたのですが。
神経は、骨格筋を栄養していると言われています。私が学校で習った時点では、そ
のメカニズムは不明で、単に「栄養因子」と教わりました。そこで推測その一。こ
の栄養因子に関係があるのだろうか。
記事をみますと、神経細胞のなかでの役割が重要視されているようです。他の種類
の細胞でも同様なのでしょうか? 推測(?)その二。微小管っていうのは神経細
胞独特の構造なのだろうか。他の細胞でも起こっている現象なのだろうか。
細胞内での輸送機関のようです。細胞間ではなく。とすると、専ら細胞が形成され
ていく時に重要な働きをするのでしょうか。例えば、その一に上げたような因子で
あるとすると、シナプスを介して次の細胞に栄養が渡るにはこのメカニズムだけで
は説明しにくく(もっとも輸送される物を核で合成される蛋白だけに限ればよいの
ですが)なります。

今回の記事ではM新聞の方が同じくらいの大きさでしたが、分かりやすかった、と
思う(ごめんなさい。でも正直な感想なの)        つちねこ

#0002 sci1012  8905031951

 おひさしぶりです。元「駒短のOMEGA」です。覚えておいででしょうか? い
まさっき、愛用の「新松」の「普通のユーザーなら決して見ないであろうエンディン
グ画面」を見るという哀しい目にあってしまい、ついさっきまで入力していた数ペー
ジにわたる文書が消滅してしまった所です。
 さて、そんなこんなでひさしぶりに覗いてみた所、なんと「キネシン」が話題にな
っている。そこで、つちねこ氏の疑問にお答えすべく下手くそな解説など試みようと
いうわけであります。(古い話題で恐縮です)
 まず、簡単なことから。微小管とは、αチュブリン(分子量5万)とβチュブリン
(分子量5万)の2種類の蛋白質が共重合して出来るプロトフィラメントという細い
繊維が13本円筒状に束になって出来る直径26nmの中空のチューブです。
 細胞内には、細胞骨格と呼ばれる繊維状の構造があり、形態の維持・形態形成その
ほかに重要な働きをしていると考えられています。細胞骨格を構成する主要メンバー
には、この微小管のほかにアクチン繊維・中間径繊維などがありますが、ここでは、
つちねこ氏の疑問の核心である微小管に話を限定しましょう。
 一般の細胞における微小管の重要な働きのなかで有名なものとしては、細胞分裂の
際の紡錐体があります。細胞分裂の時に、染色体はきちんと一組ずつ嬢細胞に分かれ
ていきますが、これは微小管の働きに拠ります。簡単にいうと、染色体の真ん中にあ
る動原体に微小管の端がくっついて、微小管に引張られて染色体が分かれていくとい
うわけです。
 そのほかで有名なのは、絨毛・旋毛でしょう。例えば、精子のしっぽがそれです。
精子はそのしっぽをくねらせることで推進力を得るのですが、このしっぽは9+2と
いう独特の配列をもつ11本(中心に2本周囲に9本)の微小管が細胞膜をかぶって
いるという構造になっています。そして、この微小管と微小管の間で力が発生して、
それがしっぽをくねらせることになるのです。
 そして、つちねこ氏が問題にされているニューロンの場合では、樹上突起の形成と
いう形態形成における役割と、軸索流と呼ばれる細胞内での輸送における役割とが明
らかになっています。ここでは、前者については説明が面倒なので省略することとし、
後者の細胞内輸送について説明することとしましょう。
 神経細胞に限らず、ありとあらゆる細胞のなかでは、盛んに物質の輸送が行なわれ
ています。ある場合は、単純な拡散によって輸送が行なわれ、また別な場合には特別
なモーターと軌道に沿って能動的に輸送され、またまたある場合にはポンプで汲み出
すように膜の一方から他方へ輸送されます。そして、この細胞内で特別な軌道に沿っ
て能動的に行なわれる輸送が最も顕著に発達しているのが神経細胞の軸索なのです。
 神経細胞においては、蛋白質の合成は全て核のある細胞体という場所で行なわれて
います。従って、軸索の末端で必要な蛋白質は、細胞体から軸索の末端まで軸索のな
かを運ばれていかなければなりません。しかし、軸索は直径数μm長さ1m(運動神
経細胞の場合)というとんでもなく細長い代物ですから、単純な拡散に期待するわけ
にはいきません。軸索の中には物質の能動的な流れが存在するのです。これは、軸索
流と呼ばれ、軸索内の微小管に沿って、中に様々な物質をつめた小胞が運ばれていく
というものです。(この中で、特に重要なのは、シナプス小胞と呼ばれる軸索末端で
次の細胞に信号を伝えるために放出される神経情報伝達物質を中につめた小胞です。)
 なお、軸索流には、今説明したような細胞体から軸索末端への(主として細胞体で
合成された蛋白質の)輸送のほかに、軸索末端から細胞体への流れも存在します。こ
れは、例えばNGF(神経増殖因子)などの流れです。(NGFは、軸索末端で取込
まれて核に運ばれると考えられている。)
 こうした軸索内の物質の輸送のレールとしての役割も微小管はもっているわけです
が、この輸送のモーターに当るのがキネシンや細胞質ダイニンです。これらは、いず
れも分子量が40万弱の双頭の蛋白質分子で、根本の方で小胞と、頭の方で微小管と
結合するのではないかと考えられています。そして、頭の所でATPを分解してその
エネルギーで微小管にそって頭が移動していくのであろうと推測されています。(例
えば、ビーズ玉にキネシンなどを結合させて、微小管の上に乗せてやってATPを加
えると、ビーズ玉が微小管にそって動いていきます。この移動方向は、モーターの蛋
白質によって決っているようで、キネシンだと細胞体から軸索末端の方へ、ダイニン
だと軸索末端から細胞体の方へ移動します。)
 あと、ついでですが、旋毛などの動きの元になる微小管同士の間で生じる力も、実
は微小管と微小管の間にあるダイニン(このダイニンは、細胞質ダイニンと違って頭
が3つあり、分子量も50万程度と少し大きい)が、ATPを分解したエネルギーで
微小管にそって動くことにより微小管と微小管の間にずれが生じることに由来してい
ます。
 以上、簡単ながら、微小管の細胞運動における役割を中心に説明させて頂きました。
図が入れられないのでかなり分かりにくいかと思いますが、ご容赦下さい。なお、も
っと詳しく勉強されたい方には、”Molecular Biology of the Cell”(2nd ed.)を
お薦めします。あと半年〜1年もすれば日本語版も出版されることでしょう。私は、
この手の分野については、日本語の本は使っていませんので、日本語の参考図書につ
いては分かりません。微小管関係は、現在、分子細胞生物学の最もホットな話題です
ので、少し古い本にはほとんど触れられていませんので、興味をお持ちの方は最新の
専門的な本(たいてい英語です)や、雑誌(「細胞工学」や「蛋白質・核酸・酵素」
などで、時々特集が組まれます。[この場合は日本語です])を読まれるといいでし
ょうが、入門的なところから丁寧に説明してあるものは少ないように思います。

           以上、「駒短のOMEGA」改め「OMEGA」でした。