Wat00108 89/1/11科学面=京大からMIT研究所長にほか

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 サイエンスネットについての議論をしていて、皆さんに科学面そのものを
議論の材料として見ていただく必要を感じました。
 
 実験的に夕刊の水曜科学(朝刊だけの地域は木曜です)をアップロードし
てみます。関連発言の1番に目次があります。
                         大阪科学部・団藤

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89/1/11 科学面目次=以下の関連発言に掲載
 
関連2◆京大からMIT研究所長に転進 ロボット工学の浅田春比古氏
          89.01.11  夕刊 4頁 みんなの科学 写図有 (全1691字)
 
関連3◆アジアと医学交流 13日、神戸で国際シンポ
          89.01.11  夕刊 4頁 みんなの科学 写図無 (全364字)
 
      ◆超伝導の商用化へ政府援助の強化を 米大統領諮問委報告
          89.01.11  夕刊 4頁 みんなの科学 写図無 (全0字)☆
 
関連4◆赤い琥珀はビルマ産? 正倉院の鏡
          89.01.11  夕刊 4頁 みんなの科学 写図無 (全518字)
 
関連5◆DNA合成酵素の大量生産に成功
          89.01.11  夕刊 4頁 みんなの科学 写図無 (全560字)
 
関連6◆越島哲夫教授著『木を科学する』(ほん)
          89.01.11  夕刊 4頁 みんなの科学 写図無 (全160字)
 
関連7◆旗手勲監修『大地への刻印』(ほん)
          89.01.11  夕刊 4頁 みんなの科学 写図有 (全277字)
 
関連8◆小谷正雄氏 生物と物理の水脈探す(昭和の科学者たち)
          89.01.11  夕刊 4頁 みんなの科学 写図有 (全850字)
 
   ◆2匹の鯨(変わる北極像)
          89.01.11  夕刊 4頁 みんなの科学 写図無 (全0字)
       【現在著作権交渉中の為、本文は表示できません】

#0002 dando    8901241806

◆京大からMIT研究所長に転進 ロボット工学の浅田春比古氏
          89.01.11  夕刊 4頁 みんなの科学 写図有 (全1691字)

  揺るがぬ米の頭脳基盤 生産技術研究に力注ぐ

 自動車や電気製品などに代表される日米貿易摩擦は、日本が生産技術分野で
優位に立ったからだと、米国では産学挙げて失地回復の動きが高まっている。
呼応してマサチューセッツ工科大(MIT)機械工学科に新設された情報駆動
型機械システム研究センターに、京都大工学部の浅田春比古・助教授(38)
=ロボット工学=が15日付で初代所長に招かれ、近く赴任する。浅田さんは
3年前までMITで助教授を務め関節直接駆動ロボットなどを開発、ノーベル
賞受賞の利根川進教授(免疫学)らについで今回、日本人として5人目の終身
教授の資格も与えられた。日本と異質な面が多い米国式の研究組織づくりや研
究活動の実際などを聞いた。                   (聞き手・団藤保晴記者)
 
 ――MITに研究センター新設のいきさつは?
 日本へ帰って向こうの研究者と共著をまとめながら、従来の制御工学の枠を
外したアイデアが生まれた。感覚的な情報まで駆使して人工知能へ近づくとと
もに、設計の枠内で制御する考えを捨てて、制御がうまくいくよう設計を広げ
る発想だ。機械工学科が長期に取り組む課題として学科長のウォームリー教授
が乗り出し、こちらの提案が87年夏に承認されて話がまとまった。初年度で
教授陣5人、大学院生以上の研究陣40人を目標にスタッフを集める。学科内
に14ある研究センターで中ほどの規模だ。
 
 ――部門の責任者には研究費集めも重要と聞きますが。
 全米科学財団などの公的資金と企業からを合わせ1億5000万円を得てス
タートする。京大で扱う年間研究費の2けた上で、正直なところちょっと緊張
ぎみだが、これだけもらえれば相当なことができると思う。大きな研究費獲得
は米国でもコネが無いと難しい。幸い財団に懇意な幹部がいるし、大物のウォ
ームリー教授も加わって心強い。
 
 ――具体的な研究計画は?
 (1)まず、組み立て作業の知能制御だ。細かい電装部品が多い小ロット生
産では、自動組み立てしにくい変わった形や、ぐにゃぐにゃ変化する部品、板
金などが生産性を上げる障害で、ロボットを使って解決したい(2)次に、室
温を保つだけのエアコンを調教可能にする計画もある。エアコンに利用者の使
い方を学習させ、どの温度でどんな風をいつ吹かせばいいか考えさせる(3)
半導体製造で超高速動作と精密な位置決めが求められる配線作業も。生産現場
は毎秒3メートルの配線速度を3倍以上にしたいと望むが、メカトロニクスの
頂点といえる高度な技術で、駆動機構など設計の大もとから見直す必要がある
(4)ほかに、電子制御で自動車の車体から車輪をつる機構の開発などもある。
 
 ――最近の米国は生産技術研究に力が入っていますね。
 全米科学財団は、工学が手薄な中堅の十数大学に技術センターを設けた。財
団の資金がそちらへ相当移っているようで、以前なら千数百万円を3年連続で
もらうのも容易だったが、いまは1000万円を2年間がやっと。MITは生
産関係の研究に大企業から60億円の寄付を集め、資金を使いたい研究者を募
っており私たちも加わる。
IBMもあちこちの大学院に生産技術を教える講座を寄付している。
 
 ――技術が日本に立ち遅れたとの雰囲気はありますか。
 昔と反対に、生産技術では「日本はこうして、うまく作っている」と紹介し
て納得されることが多い。でも、作る方が駄目なら設計で巻き返そうとの動き
がある。コンピューターを使う構造解析は日本より1歩も2歩も先を行くし、
組み立てやすさや加工しやすさとは何か、ノウハウの蓄積だけでなく学問の体
系に高める動きもある。
 
 ――日米の大学で3年余りずつ教えた感想は?
 日本は大学院が制度として確立していない。学部生活と同じ「バイト人生」
の延長で、サロン化しているとも言える。いい人材が企業へ流れ博士課程に進
まない。一方、MITの大学院生は盛んな知識欲で研究に打ち込み、機会あれ
ばベンチャー企業を興こすこともある。日本で米国の地盤低下をよく指摘する
が、米国の頭脳を生み出す基本線は揺らいでいないし、むしろ問題は、社会に
おける企業や経営者のあり方のようだ。

#0003 dando    8901241807

◆アジアと医学交流 13日、神戸で国際シンポ
          89.01.11  夕刊 4頁 みんなの科学 写図無 (全364字)
 
  アジア地域との医学交流や医療協力をどう進めていくかをめぐるユニークな
国際シンポジウムが13日、神戸国際会議場で開かれる。
 
 79年4月、神戸大医学部に全国で唯一の「医学研究国際交流センター」(
岩井誠三センター長)が設置された。アジア各国の医学研究者の日本留学や日
本人研究者の派遣窓口になっている同センターが満10年を迎えるのを機に、
各国の医学教育指導者を招き、将来のあり方を議論しようと、文部省と同医学
部が主催、日本学術振興会などが後援して実現した。
 
 外国からは、スユディ・インドネシア大学長、ナット・マヒドン大学長(タ
イ)はじめ、中国、韓国、フィリピン、シンガポールなど8カ国と、アジアと
の交流先進国オーストラリアを代表する計17人。日本からは全国の医学部、
医大、国などの約100人が出席、岩井センター長の司会で意見交換する。

#0004 dando    8901241807

◆赤い琥珀はビルマ産? 正倉院の鏡
          89.01.11  夕刊 4頁 みんなの科学 写図無 (全518字)
 
  奈良・正倉院の鏡にはめこまれている赤い琥珀(こはく)はビルマ産の可能
性が高いことが日本地学研究会館(京都)の益富寿之助館長(87)らの調査
で分かった。
 
 「平螺鈿背円鏡」(へいらでんはいえんきょう)と呼ばれる白銅製の鏡の背
には、貝殻や石で、花や鳥の文様が描かれている。益富さんは約30年前に鉱
物調査を担当、この鏡にペルシャ産のトルコ石、アフガニスタン産の青金石、
赤い琥珀が使われていることを報告したが、琥珀の産地は確定できなかった。
 
 鏡は唐で作られたことは確実だが、琥珀は日本でも産出するため、日本から
献上した琥珀との見方もあった。益富さんは84、85年に再調査を依頼され
たのを機に、琥珀の産地を何とか突き止めたいと考えた。日本産の琥珀は黄色
や褐色ばかりで、赤い琥珀はビルマや中米産に限られる。中米産とは一致する
ものがなかったが、ビルマ産が入手できず、入国も不可能だった。
 
 そこで益富さんは86年夏、ビルマに近い中国・雲南省を訪問、地質科学研
究所でビルマ北部産の赤い琥珀を見つけた。紫外線鑑識灯などの調査で間違い
ないことを確認。「鏡はちょうど玄宗皇帝と楊貴妃の時代のもの。周辺の宝石
を集めたわけで、唐の栄華をしのばせます」と話している。

#0005 dando    8901241808

◆DNA合成酵素の大量生産に成功
          89.01.11  夕刊 4頁 みんなの科学 写図無 (全560字)
 
  遺伝子本体のDNAを合成する酵素の大量生産に、愛知県がんセンター生物
学部の松影昭夫部長、山口政光研究員、金沢医大の伊達孝保・助教授(生化学
)らのグループがネズミで成功した。この酵素の遺伝子をネズミから取り出し
大腸菌に入れて作った。松影さんらは、酵素のどの部分がDNA合成に重要か
も見つけている。純粋な酵素の大量入手によって、立体構造や合成メカニズム
の解明につながると注目される。
 
 この酵素生産の遺伝子を入れた大腸菌の培養液2リットルから純粋な酵素0.
1グラムを得られる。これは大腸菌の全たんぱく質の20%にあたる。DNA
合成酵素の遺伝子は、大腸菌など下等生物では分離され、酵素も大量生産され
るが、遺伝子が袋に入っている動物細胞など真核生物では生産量が少なく、大
量入手はできなかった。
 
 松影さんらが大量生産した酵素は、紫外線などで傷つき一部が壊れた遺伝子
(DNA)を修復する。335個のアミノ酸がつながり、合成機能に重要な役
目のアミノ酸は182番目から183番目という。
 
 真核生物のDNA合成酵素は、松影さんらが大量生産した酵素の外に3種類
ある。
このうち2種類は細胞分裂に備えて遺伝子を2倍にするのに使われ、残り1つ
は細胞内のエネルギー生産機関であるミトコンドリア内の遺伝子を合成する。
いずれも大量生産に成功していない。

#0006 dando    8901241809

◆越島哲夫教授著『木を科学する』(ほん)
          89.01.11  夕刊 4頁 みんなの科学 写図無 (全160字)
 
  京大木材研究所の越島哲夫教授著。木材の液化やプラスチック化など、石油
に代わる資源としての木の性質や構造を解説。建材や紙パルプだけでなく、医
薬品、化粧品、食品添加剤、きのこ生育促進剤、繊維、フィルム、塗料など幅
広い分野の利用を探る。
思文閣出版(京都市左京区田中関田町2ノ7、電話075―751―1781)
刊、1800円。

#0007 dando    8901241810

◆旗手勲監修『大地への刻印』(ほん)
          89.01.11  夕刊 4頁 みんなの科学 写図有 (全277字)
 
  副題「この島国は如何にして我々の生存基盤となったか」。稲作による食糧
生産のため弥生時代から続く用水路づくりや開墾など、自然への働きかけと成
果を豊富な図や写真で紹介する。社団法人土地改良建設協会の設立20周年記
念出版で、農水省構造改善局職員らが中心となる農業土木歴史研究会の編著。
 
 監修した農学博士の旗手勲(はたて・いさお)さんは「外来技術の稲作を日
本に適応させていく農民ら人びとの苦労と、農業が産業や国土発達の基礎にな
ったことなどを、中学、高校生にも分かるよう工夫した」という。公共事業通
信社(電話03―814―7781)刊。3500円。送料350円。

#0008 dando    8901241811

◆小谷正雄氏 生物と物理の水脈探す(昭和の科学者たち)
          89.01.11  夕刊 4頁 みんなの科学 写図有 (全850字)
 
  学校の理科では、今も物理、化学、生物の間に一線が引かれている。だが、
これらは奥底で水脈が通じ合う。1926年にはじまる「昭和」は、科学者が
その水脈探しをした時代に当たる。「物理にとって、とてもいい時期だった」
――水脈をたどる先頭にいた小谷さんは、そう振り返る。
 
 水素原子2つが結び付いて分子を作る仕組みを、独の物理学者W・ハイトラ
ー、F・ロンドンが生まれたての「量子力学」で説明づけたのは昭和2年。「
欧州の最新論文が『シベリア鉄道経由』で届くのを待ち受けていた時代だった。
論文を見て、化学と物理の基礎は同じだ、と感銘を受けた」
 
 研究者として、まず関心を持ったのも、この分野だった。戦前から、分子の
中の電子の様子を知るための計算を体系的に積み重ね、戦後、金属イオンを中
心に持つ複雑な化合物の結合を理論的に解き明かしていった。
 
 この間、人間の血に含まれるたんぱく質のヘモグロビンが、鉄を中心に同様
の結び付きをしていることに気づく。「それまで壁の向こうの存在だった『生
物』への関心が芽生えた」。35年、日本生物物理学会が誕生し、初代委員長
に。生き物を分子レベルで調べる研究を進めた。
 
 が、科学者としてつらい時代もあった。戦時中、軍部に請われ、静岡県の海
軍技術研究所島田実験所で朝永振一郎博士らと強力な極超短波を放つ磁電管の
研究に当たった。「結局、兵器には役立たなかった。古典的な計算を使う理論
研究だったので、その後の私の仕事に生かされたとも言えない」
 
 戦争で、教授になる前に外国体験を持つ、という東大物理学科の慣例も果た
せなかった。
 
 25年に初の欧州旅行。これがきっかけで、28年、日本で国際理論物理学
会議が開かれることになった。「論文でしか知らない学者が、遠い世界の人で
なく、同じ世界の人だと実感した」。戦前と戦後の明暗に感慨深げだ。
   ◇
 こたに・まさお 分子物理学。
 明治39年生まれ。昭和4年、東大理学部卒。18年から40年まで同教授。
その後、東京理科大学長などを務めた。55年、文化勲章受章。