Wat00040 全国紙・東京紙・大阪紙・・・

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全国紙・東京紙・大阪紙・・・
                   by 大阪科学部・団藤
 次の関連発言は、 マスコミと地域土着問題
の続編です。できれば、ひとまとめでお読み下さい。ここでは、現
在の全国紙編集のありかたを、わたしの体験を通じて紹介しようと
思います。これは現状の姿ですから、いいも悪いもありません。歴
史的に随分の時間を経て、「ヒト」に染み付いている現状を変える
のは、新聞社の経営陣でもそんなに簡単なことではありません。
 東京の紙面には地方のニュースは事件、事故などたった5種しか
載らない−−と言ったのは堺屋太一さんでした(原子力発電ボード
のNo.19にそのサワリが引用してあります)。この関連発言は
それについての、マスコミの内部からの報告でもあります。No.
19も併せてお読みいただければと思います。




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地方紙に対して全国紙とは、本当に何だろう?
                   by 大阪科学部・団藤
 作家の堺屋太一さんの表現を借りると、地方のニュースで、東京
の新聞に載るのは、事件、事故、選挙、スポーツ、伝統行事の5種
がほとんどで、これ以外は、のぼり記事と言われて書くのが恥にな
る−−そうです。情報の発信機能が東京に集中して、地方が発信で
きない現状、それが東京にとっても地方にとっても不幸であると指
摘されています。
 わたしはこの5年間、大阪を拠点に仕事をし、記事を書いてきま
した。その体験からすると、堺屋さんの見方はちょっとオーバーで
はあっても、見当はずれではないと思います。わたしは、科学部な
ので、全国に通用するニュースが中心で、純粋な地方ニュースを書
く機会は少ないはずですが、東京の紙面に載らない経験をしました。
もちろん、載っているものが相当あるので5種しかないという意見
には組みしませんが、わたしの経験からどんなニュースが東京に受
け付けられないか、分析してみましょう。東京と大阪で、紙面扱い
が著しく違うケースも含めて考えてみましょう
 最近では、食べていると口の中の虫歯菌が減っていくキャンデー
発売の話が、大阪、名古屋の社会面をにぎわせたのに東京では落ち
ました。発売元の製菓会社は東京、虫歯菌を減らす物質をつくった
のは三重のベンチャー企業なので、むしろ東京がご当地もののケー
スです。筑波にある企業の研究所が新しい、物理学的にも面白いタ
イプの超音波モーターを開発して、東京で発表したケースも、大阪
のわたしが取材して大阪から出稿すると、東京では落ちてしまいま
した。こうした例を見てお分かりの通り、地方のニュースだから、
東京紙面から落ちてしまうのでないのです。どちらのケースも、な
ぜ載せてもらえなかったかまでは確認していないので、ここからは
推測です。
 東京には、大阪にない政治部、外報部を含めて、強力な、原稿を
たくさん出せる出稿部が揃っています。原稿が不足気味なときはか
まいませんが、紙面の大きさに比べて、溢れているときには、よそ
から送られて来た記事は、話題になる「面白さ」より、よほど「重
要」と考えられなければ、総合面のぶんどり合戦から振り落とされ
てしまいます。わたしの同期生も各部で中堅になっています。紙面
の割り振りに権限を持つ整理部の仲間が教えてくれたところでは、
こういうときに顔が利くのは、もし原稿が不足した際に、さっと、
引き出しから用意のストック原稿を持ち出してくれる有力な部とい
います。それも、最終折衝をする責任者同士の「顔」、つまり、人
間関係のようなものが大きいようです。
 また、東京の社会面は東京社会部が記事の選択に権限を持つので
総合面よりももっと、東京社会部以外の出稿記事が入り込みにくく
なります。心筋こうそくに及ぼす、高血圧、高コレステロール、た
ばこ、それに酒の影響を、大阪府立成人病センターが大規模な疫学
調査をしてまとめた結果を、社会面に出したことがあります。これ
も見事に東京では振られました。危険度が何倍と、内容が分かり易
いし、一般の関心が高いテーマですが、これが落ちた原因は、大阪
の地方機関がやった地方ネタと思われたからでしょう。ところが、
この種の疫学調査では、ここが国内で第一人者なのです。東京しか
知らないと何でも東京に中心的な機関があると錯覚してしまうよう
です。
 どうにも面白さが分かってもらえないケースもあります。関西電
力の原発で続出した、蒸気発生器の取り付け金具脱落事故の原因が、
日本側が製造元の米社の図面を信頼してぎりぎりの付加金具を付け
たためで、しっかりたっぷり溶接すればいいと考える米国側と、何
としても図面どおりに仕上げるのが当然とする日本側双方の職人気
質の差が遠因になった話は、東京に載ったべた記事では理解出来な
かったでしょう。米国のコピーから脱却し切れていない日本の原発
技術を知っていれば、単純なミスでは済まない示唆的な問題点を含
んでいます。明治時代の電柱を掘り起こして焼こうとすると燃えに
くかった経験から、京大木材研究所が簡単な処理で燃えず、腐らな
い木材を開発した話も、べた記事でつまらなくなってしまいました。
 それでも、大阪から出稿している分はまだいいようです。問題は
いわゆる東京圏の外にある東京本社管内で、ここのニュースは、堺
屋さんの指摘通りかもしれません。原発を例に取ると、東京の読者
には、関西電力や九州電力の原発ばかりで、事故、異常が起きてい
るように見えているのではありませんか。福島原発や浜岡原発は何
にも紙面に現れません。もちろん、各地方版では報じられているの
ですが、総合面には出ません。大阪本社が、原発の異常を総合面で
扱うのを原則としているのと比べて対照的です。大阪や九州が出し
た記事は東京にもかなり出るので、上のような印象になってしまう
のです。重要でない事故は載せなくてもとの議論もあります。しか
し、例えば、今年の浜岡原発での無停電電源の故障による再循環ポ
ンプの同時故障は、わたしには見過ごせない事故でした。原子力発
電ボードのNo.187に引用した科学面記事の通りです。東京本
社が、この事故を本格的に扱い始めたのは、わたしの記事が出てか
ら、というのでは堺屋さんのように言われても反論しにくいという
ものです。
 新聞記者になりたてのころ、地方で、「大阪紙」と呼ばれてどう
にも違和感がありました。わたしは「全国紙」だと思っていたので
すが、ここに述べた現状をみれば、「大阪紙」であり、「東京紙」
であるというのが適切なのかもしれませんね。お分かりになったと
思いますが、このシステム、単に地域の問題でなく、運営する人間
に染み付いたものです。しかし、結果としては、現在の「全国紙」
は往々にして、「重要」な中央官庁発表物、統計物が幅をきかせる
紙面になってしまうのです。
 では、地方というものは、全国紙にとってそんなに疎遠なもので
しょうか。少なくとも記者個人にとっては、そうではないと思って
います。朝日の記者教育の原則では、記者はまず地方支局でサツ回
りから始めます。次回は、その思い出話をしてみましょう。