Wat00019 研究発表について

#0000 sci1082 8808161656


団藤さんは,高知にいたんですか.古巣に帰るようなことがあったら,ぜひ寄って
下さい.科学部に伝わる警句..いいですね.No. 14で,私が支理滅裂なことを書
いたら,みなさんでFOLLOWしていただき,ありがたいことです.:-)はCassandraさ
んですか.関連発言にしておくのはもったいないくらいですね.(なんのことかと
首をかしげたらわかりました.)ニコニコ.

で,また基調発言しちゃう.主題は「日本人の研究発表」

 気象学会の機関誌「天気」(1988年7月号)にこんな記事(要旨)がのりました.
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オゾンホール発見のプライオリティについて by 根本順吉

 オゾンホールの発見についてScientific American誌(1988年1月号)には,
”1985年,英国南極調査所(British Antarctic Survey)の大気物理学者たち
は,それまでまったく予測していなかった事実を発見した.それは,英国の南極基
地ハレーベイ上空の春期オゾン量が,1977年から1984年の間に40%以上
も減少したことである.他の研究グループもすぐこの報告が正しいことを確かめ,
オゾン層が減少している地域は南極大陸全域よりも広く,高度範囲もおよそ12
kmから24kmと下部成層圏の大部分を占めていることを明らかにした”という
記事が載った.これに対応して,今年の4月10日の日本経済新聞には”オゾンホ
ールは英国南極調査所の大気物理学者が発見した”という記事が載った.その他の
記事でも,オゾンホールを発見したのは,英国の大気物理学者(Dr. J.C. Farman)
ということになっているようである.ところが,「潮」1月号によれば,日本の気
象研究所の忠鉢繁氏こそが,第一発見者であり,”周囲が「データの誤りだ」「計
測器の故障だ」というのを委細構わず,昭和59年(1984)9月ギリシアのオ
ゾン・シンポジウムなどに発表.国際的反響もないままに孤軍奮闘していた.”と
いうではないか.学会員諸氏に聞きたい.
 1.忠鉢氏はファーマン氏に先だって何をしたか?
 2.オゾンホールを発見したのは,84年の忠鉢氏か,85年のファーマン氏か,
   それともNASAのニンバス7号衛星か?
 3.忠鉢氏の発表をディスカレッジしたのは誰か?

これに答えて,
根本氏へのコメント by 忠鉢繁

オゾンホール関連年表
1982/2 - 1983/1: 南極昭和基地においてオゾン総合観測を実施(忠鉢)
1983/10 : 気象学会において上記観測の速報を発表(口頭発表)
1983/12    : 第6回極域気水圏シンポジウムにおいて速報を発表(口頭発表)
1984/9     : ギリシアのオゾンシンポジウムにおいて,1982年2月から1983年
         1月までのオゾン総合観測の速報を発表(ポスタープロシーディ
         ングス印刷)
1984/11    : 上記内容を国際MAP(中層大気計画)シンポジウム(京都)
         において発表(口頭発表,プロシーディングス印刷)
1984/12    : 上記内容を極地研紀要に発表(論文発表)
1985/6     : ファーマンがネイチャーにハレーベイにおけるオゾンの減少を発表
1986/8     : ストラルスキーらがニンバス7号TOMSによる観測結果をネ
         イチャーに発表

というような,経過であるが,誰が発見者であるかというのは無意味である.シン
ポジウムへの参加は励ましこそあれ,ディスカレッジされるようなことは全くなか
った.この点で,「潮」の記事には不適切な表現がある.

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というような,主旨の記事がのったわけですが,ここで考えてしまうのは,忠鉢氏
が,論文を極地研紀要でなく,ネイチャーに投稿していたらどうだっただろう.と
いうことです.ハレーベイでも昭和基地でも(その他にも)20年以上にわたって
オゾンの連続観測を行なっているわけだから,すぐにプライオリティが認められる
とはいえないまでも,かなりの待遇の違いがあったのではと思うわけです.

 疲れてきたので,結論を急ぎます.

1.忠鉢氏はまじめで謙虚なよい人です.朝日でもオゾンを記事にするときにはと
  りあげて下さい.
2.研究者は,モラルの許す限りにおいて,自分の研究結果を最大限宣伝できるよ
  うな国際的媒体を選ぶほうがよい.
3.「天気」は学会誌としては(つまらない論文が載ることもあるけど)面白いほ
  うですから,科学部のかたもときどき目を通してみて下さい.

わー,また,まとまらなかった.一番言いたかったのは2なので,誰かFOLLOWして
下さい.
                              菊地時夫




#0001 reader 8808191014


[発言番号21 研究発表について]の関連発言です。

菊池さんのおっしゃることはもっともなことで、国際語でない日本語でいくら
すばらしい発表を行っても世界には通用しません。私は医工学の研究をしてい
る研究者ですが、日本ではおもに日本人工臓器学会、世界的には国際人工臓器
学会(ISAO)、アメリカ内臓器学会(ASAIO)に投稿します(口頭発
表付き)。日本人工臓器学会の場合は英文のアブストラクトが付きます。同じ
内容を日本語と英語の両方で投稿することは医学の世界では半ば常識です。も
ちろん、内容は多少変えますが。と言いますのも、国際学会誌に投稿した場合、
1) 語学の壁があり、査読に時間のかかることがある(速報性が失われる)。
2) まれに査読者がアイデアを盗む。
ことがあるためです。したがって、先手必勝の精神に乗っ取り、
1) まず、英文のアブストラクトが付く国内誌に投稿する。
2) 同様の内容、あるいはさらに進んだ研究結果を付加して国際誌に投稿す
   る。
また、口頭発表は記録性に乏しいのであてにしない。
の3本立てがよろしいかと思います。

 私も研究成果を国内誌へ投稿したにもかかわらず、後から別のグループが国
際誌に同じ内容で発表した研究が注目されたことは何度かあります。ですから
最近は国内、国際両誌への投稿を心がけています。とくに、アブストラクトが
文献検索データーベースに載る雑誌は有効だと思います。

横浜 竹沢真吾




#0002 dando 8808191823


 発表の場を選ぶことは非常に重大なことです。わたしたちは朝日賞とか
去年まであった朝日学術奨励金の選考で、たくさんの先生たちの意見を
聞いて回ります。そんな折に文部省の科研費の審査を多く頼まれる先生の
「採点方法」を教えてもらったことがあります。

 もちろん、自分が本当に専門にしている分野なら、自分の判断が下せま
す。しかし、依頼のかなりの部分はその範囲を外れているのです。では、
どうするか。これまでの発表論文が、どの雑誌に載ったか、論文リストで
見て、あらかじめランク付けしてある雑誌ごとの点数を積算します。採点
のかなりの部分は、この積算が占めるのだといいます。

 まるっきり、勝手な思い込みによるよりは、この採点方法はずっと優れ
ていると思います。しかし、一つ欠点があります。全く新しい仕事には、
無力なのです。日本の科学技術研究の現状を示すエピソードだと思われま
せんか。
                  (団藤)