Wat00012 科学記者ガンバレ!

#0000 sci1082 8808121137

科学記者ガンバレ!
 ウォッチの方でやった方がよいというので,こっちに書き込みます.
 一般的に言って,(少なくとも朝日の)科学記者はよくやっていると思います.
 なぜかというと,よく学会での発表が記事になることがありますが,専門の近い
私でも,予稿集を読んでも発表を聞いても,要点がつかめないのに,翌日の新聞記
事で読むと「ああ,あの人はこういうことを言いたかったのか」と納得することが
よくあるからです.きっと,これは重要だというので,事前事後に本人から聞いた
りするのでしょうが,誰にでも分かりやすく噛み砕くという能力は,やはり専門を
勉強しすぎない方が,強いのかなと感心させられます.
 例えば,8月11日(木曜日)の科学欄(私の所は夕刊がないのだ)の,「ゾン
ビパウダー」について,実は私は偶然 ScienceのDr. Davis の反論というのを読ん
でいて,「いったい,これなんのこと?」と思っていたのでした.新聞記事を読ん
で,なんのことかやっとわかったという,情けない英語読解力の持ち主なのです,
私は.小森さんの「親切なマニュアルがほしい」というのも,なかなかよい企画だ
と思います.先進国では,システム設計者とは別にマニュアル作者というのがいる
そうですが,日本でもそうなってほしいと思っています.
 TRONについても,一面で扱うことがよいかどうかは別として,TRONって
なんだろう?というような素朴な疑問に答えるような企画が(賛成,反対,無視の
立場を越えて)科学欄に現われることを期待しています.(今までは,本などでの
一方的な賛美論ばかりが目立っていますから...なんとなく,「蛇と虹」に似て
るなぁ)

                       科学の辺境・高知より
                              菊地時夫




#0001 dando 8808122138


菊地さん わざわざウオッチまで、どうも
                    from 団藤

 皆さん、フリートークで話を続けているのに、ウオッチまでいらして
いただき、すみません。
  記者のありようについてなら、一言、話題を提供しておきましょうか。
科学部の記者は大半が理工系の出身です。でも、わたしは理工系が必ずし
もふさわしいとは思いません。実は、わたしは高知支局で実質的な記者
修行をした者ですが、地検の検事や、県警二課の刑事さんとかなりいい
付き合いをした、まあまあできたサツ回り記者だったと思っています。
工学部出身でしたが、法律のことは入社後に勉強しました。

この仕事に出身学部は本質的に関係ないと思っています。逆に、もし
医学部出身が医療問題を書くとしたら、不適当ではないか、と思ってい
るくらいです。一般常識と離れかねません。

 要は、取材した話の真偽、重要性の判断を誤らなければ、専門家であ
る必要はない、と思っています。そのためには、その話をタテ、ヨコ、
ナナメから吟味できるよう、いろんな人の意見を聴くことですね。

 取材対象からだけ聴いた限りでは、1面トップ、別に一人からウラを
取れば、3面3段くらい、もう一人専門家を探して聴けば、科学面のベ
タ記事−−科学部に伝わる警句です。

  忙しいと手を抜きたくなるのも、事実ですが・・・。




#0002 匿名 8808122231


御意見に心から賛意を表します.
某氏が言っていたように,企業が針小の成果を棒大にしてマスコミに売り込むのは
悲しいかな現実です.研究者達はマスコミの科学記事に極めて懐疑的です.自分自
身がしていることを知っているからです.信頼される記事にするためには,複数の
専門家の裏ずけをとるしかないでしょう.信頼できる専門家のネットワークを作っ
ておくことがぜんていでしょうが.
私もコンピュータに無縁では無いはずですが,はずかしながらTRONの意義はい
まいち理解できていません.本質が何かの報道を心待ちにしています.
もう一つ,企業に取っての基礎研究とはなんなのか?
一般受けはしないかも知れませんが,関心があります.




#0003 reader 8808151254


[あらまし]
   朝日新聞の科学記事は十分に評価に価する水準です,
   今回の非難は随分と的外れなものです.
   しかし,私は,現在の水準に留まることなく
   さらにいっそう高い水準を目指しての努力を期待します.

 花島氏(ペンネーム)が非難を投げつけたような現状
  『企業の誇大宣伝にマスコミが乗せられてお先棒をかつぐ』
は確かに存在するわけです(悲しいことです).
氏の誤りは,経験した様々なマスコミに関しての異常な(もしかすると不正
な)事例を挙げつつ(その中には朝日は含まれてはいないにもかかわらず),
それを基にして朝日新聞もけしからんと短絡してしまった点にあるわけです.
 非難の鋒先をどこへ向けたら適切だったのかを,氏はよくよく考え直すべき
です.

《花島》 says (in Free.Sci#30)

> 私も,コンピュータ雑誌や,新聞記者とコンピュータの話をしたことが
> 何度かあるが,嘘八百ならべたてて,いいかげんなことをさも,
> もうすぐ,実現するんですよ,これはすごいんですよ,と必死に訴えると
> ころっとだまされて記事になりましたもんね,,,
>
> その記事を読んだときの私の空しさわかりますか...
> もちろん,新聞記者と話をする前,専務が私の処へやってきて,
> ああ言え,こう言えと,いろいろと指示をしたんだよーだ..
> 私だってサラリーマンだから,上からの指示には,さからえんもんね,,,
>
> で,3年ほど前から流行しているのが,新聞記者をだまくらかして,
> とにかく,会社の技術力をアピールし,業界で,でかい面をしようと
> いうことなのです.
>
> 全部がそうとはいいませんが,非常に多いのは,感じています.
>
> 特に,すぐにだまされるのが,日経産業新聞の記者です.
> これは,話をしていて,私も唖然としました.
>
> なんにも考えてないんだもんね.ちょっと高い酒のまして,
> 車代をはずんでやれば,何でも書きますもんね,,,,

 花島氏は,この原因を記者の勉強が足りないからと考えたわけですが,
私は違った意見を持っています.まず最初に問題なのは,
  『記者と会社との良心と正義感の有無』
です.
 なぜそう考えるかについては,次のような例があるからです.

【専門性だけでは解決できない】
 あるマスコミは系列会社から電子工学/コンピュータ関係の雑誌を幾つか出
版していますが,そこでは専門の記者の手によるハイクォリティーの記事であ
ることを大いに宣伝しています.(個々の記者の経歴まで確認したわけではあ
りませんから本当かどうかは分かりませんが)少なくともその紙面上では,あ
たかも専門に精通している人材であるかのごとくに振る舞っています.
 それで素晴らしい記事が満載ということになりそうなのですが,ところがど
っこい問題が少なくないのです.

(1) 翻訳記事が頻繁に掲載されますが,これが原文に忠実ではなく,その
時々のその雑誌の論調に沿った風に色を付けられていることが多いのです.単
に誤りが多いと言うことならば英語力の不足かとも考えられますが,誤り方が
余りに都合がよいと不信感を感ぜざるには居られません.読んでいて意味が通
らないので原文と比較対照してみると,不思議な事に,一部が省略されてしま
っていることもあります; もし著者に了解を取っていないとしたら,これは著
作権法に違反する行為です.たとえ著者に了解を取った上としても,翻訳版で
は原文に変更を加えてあることを明示しない限りは,読者に対して正直とは言
えないのは自明の理です.

(2) コンピュータ関係の雑誌の方には,編集部自身の手になる,ソフトウ

ェアのベンチマーク・テスト(標準問題による性能評価)記事がよく現われる
のですが,適切な条件設定を行った場合に得られるはずの結果とは余りにも掛
け離れたものであることが時々見受けられます.これだけですと技術的能力の
不足との解釈も成り立ち得るのですが; しかし,どんな条件下/設定下でテ
ストを行なったのかをキチンと示さないと読者に思いがけない誤解をさせるか
も知れないことを指摘しても,いまだにそれが実現された試しがないのが実に
もって不可解な現象です.

 ここでこのような2つの例を挙げたのは,これらはいずれも編集者/記者が
自分自身で責任を負わねばならない性質のものであり,
  『取材先にまんまと騙された/乗せられたとの言い訳』
が通用する類の物ではないからです.

 これが世の中の一般的なコンピュータ雑誌となるともっとひどく(さらに凄
じいのはパソコン雑誌ですが),その雑誌に広告が出るようになると途端にそ
れまでの辛口の論調がコロリと変ってしまったり,誇大宣伝どころか明らかに
事実に反する記事が載ったりするわけです.何しろ,実際にはまだ動作してい
なくて書きようの有るはずがないソフトウェアの評価記事が出たりするのです
から.こうなると,それは記事ではなくて実質的には販売促進のための広告で
す.ここまで来ると,企業の提灯持ちどころか,もしかすると共同戦線を張っ
ているのではないかとさえ疑いたくなります.

 もちろん良心的で公正な雑誌も幾つか存在します.その双方の雑誌とも,あ
る程度の最低限の専門性(たぶん,新聞に要求されるよりはずっと高い専門能
力)を維持しなければ出版を続ける事が困難な訳です。
 こうしてみると,この両者を分ける違いは果たしてどこから生じて来るもの
なのでしょうか?

【朝日は新聞としては良くやっていると思います】
専門家あるいはマニア層を対象とした専門誌でさえこのような体たらくなの
ですから,それに比べて,事実報道が基本であり高度な技術的解説までをも標
榜しているわけではない新聞としては,朝日新聞はよく頑張っていると思いま
す.

【しかし,世の人々は〈朝日〉の名にそれ以上を期待しているのです】
 専門誌の読者の専門家/セミプロでさえ見破る事の難しい複雑怪奇なる事象
を,快刀乱麻のごとく見事に断ち捌いてみせよとの要求が,新聞記者にとって
は過重任務であることは解り切っています.「そもそも新聞の守備範囲を越え
ているよ」との声も聞えてきそうです.

 でもね,どうも世の中の人々は〈朝日〉の名前に,暗闇の中で行く先を正し
く指し示してくれる輝ける燈台のような役割を期待しているらしいのですよ.

 こうなると,記者の皆さんは,天を仰いで長嘆するしかないのかも知れませ
ん.「こんなことなら,朝日なんて入るんじゃなかった」とぼやくのも中々と
宜しいことでしょう.〈朝日〉の名前のイメージのせいでそんなにも期待を集
めるのだとしたら,いっそのこと〈落日新聞〉に改名してしまうと,少しは重
荷も軽くなろうというものかも知れませんね :-)

 何しろ,この期待が意味している事は
  『専門家の眼力と一般読者の心』
とを両方一人で兼ね具えたスーパー記者に変身する事を求められているのに他
ならない訳ですからね.しかも,そこらの名前だけの専門家では役不足と来て
います.そんな人間,一体全体どこにいるんでしょ?

 他人の事だと思って,余りに好き勝手な事をほざきやがって;と言われそ
うですから,無い知恵をふり絞って,少しばかり処方箋になりそうなものを考
えてみる事にしましょう.
 一人で全てを兼ね具えようなんて努力してみたっては,そう簡単には問屋が
卸さないのは当たり前のことですから,複数の人間の連携プレーあるいは外部
の知恵を活用するというのが効果的かも知れません.

 比較的簡単にできそうなのは,
《匿名氏》がおっしゃっていた(in Watch.Sci#14-2)
> 信頼される記事にするためには,複数の専門家の裏ずけをと
> るしかないでしょ
> う.信頼できる専門家のネットワークを作っておくことが
> ぜんていでしょうが.

でしょうね.それ位ならもうとっくにやっているよと言われてしまいそうです
が,ここで大事な事は〈本当の専門家〉を確保する事です.肩書とか世間的な
地位とかに眩惑されていはしないでしょうか? いわゆるハイテク関連の場合
には,そのセクションの全員の飯の種を稼いでくれているのは実はたった一人
のキー・パースンで,上の方で大言壮語している偉いさんは何一つ解っちゃい
なくて若い人の伸びる芽を摘んでいるだけなんてことがよく有ります.こうい
う場合には,偉いさんは御進講を既に受けている部分にしか適切なコメントが
出来ませんから,それ以外に対してはいかにももっともらしい受け答えでお茶
を濁すしかなくなります.こんなのを信用した日には悲劇です.

 もう一つ考えられるのは,外部の人間にその人間の名前と責任の下に解説を
書かせてはどうですか? 論檀時評なんてのは,そうなっていますよね.科学
記事にそれが出来ない理由が,何かしらあるのかしら? 人物の見極めに自信
が持てないので,選定を間違えて,大ウソを書かれてしまって看板に傷が付き
かねない万が一の事態を考えたら怖くって手が出せないって事かな?

これは新聞の伝統的なスタンスである確実な事実の報道と一貫した立場とい
う趣旨からは離れてしまうので採用することは難しいかも知れませんが,その
時々で論調が変ってしまっても気にしないというのも意外と有効な策かもしれ
ません.こう書くと,ずいぶん変なことを言い出したとお思いでしょうが,そ
れには次のような理由が有るからなのです.
 計算機科学関連の分野では,それまでは純粋の基礎研究だったものが数年後
には世の中に出てきて使われるということが既に起きていますし,これからは
もっとどんどん起きることでしょう.何しろ発展途上なのですから,専門家の
間での評価自体が時とともに大きく変ってしまうことが有ります.以前のよう
に,評価が完全に確定した上で,やおら世の中に送り出されるというのとはペ
ースがすっかり違ってきてしまっているのです.こういった対象に対しては,
色々取材した結果を元にして導き出した結論の部分を記事として綺麗に描いて
みせるという伝統的なスタイルはこれから難しさを増して行くでしょうし,無
理にそれをやってしまうと数年後には正反対の結論になったなどと言うことが
生じかねません.そこで,手持ちのカードを読者にも全部広げて見せてしまっ
て,今の時点ではこういう状況に有って,それに対して様々な意見がこういう
風に有ってその中ではこれが一番有力だという形で書き進めるわけです.

もっと長期的な視点では,新聞の伝統的な守備範囲から踏み出してどうして
もスーパー記者養成計画を推し進めざるをえないだろうと思うのですが,それ
については稿を改めて記すことに致しましょう.




#0004 host 8808161316

 もう一つ、議論の材料を提供します。

 新聞の科学記事に対し、「内容の評価はいいから、どこの企業がいつ、どんな発表を
したか、を報道してくれればいい」という意見を聞きます。主に企業の方の意見です。
その内容の真偽、発表した企業の意図については、自分の企業が独自に持っている情報
と照らし合わせ、判断するから、というのです。
 団藤記者が書いていることでお分かりのように、私たちは、この立場は取っていませ
ん。しかし、日本では技術報道に関してかなり根強い意見です。

 新聞の科学、技術記事の読み方として、企業の方には「事業に関係した分野につ
いては、当然のことながら既知のことが多い。それでも新聞の記事をみるのは、社
会がその技術をどうみているか、アセスメントの一つとして考えているからだ」と
いうのがあります。この話をしてくれたある会社の開発担当重役は、さらに「アセ
スメントとなると、科学部記者は単に自然科学が分かるだけでなく、人文科学、社
会科学の素養がいる。朝日新聞科学部には文科系出身の記者が何人いるか」との質
問しました。この質問を聞いた五年前の時点では、文科系出身の記者は一人もいま
せんでしたが(過去に一人もいなかったという意味ではありません)、現在は二人、
東京科学部にいます。逆に社会部、経済部などほかの部に、理科系出身の記者がか
なりいることはいうまでもありません。
                     by T.Sakamoto




#0005 匿名 8808161329