Tec00018 企画記事シリーズ「ストレスにどう反応?心の内側」 #0000 dando 9203141431 ネズミだってストレスが引金で「過労死」する、ストレスを紛らわそう とアルコールに走ることも−−動物実験の助けを借りて、ストレスが心の 内に及ぼす影響を明らかにする研究が盛んになって来た。 過労死に追い込む実験手法を使うと、ネズミは本来なら眠っている時刻 にも活動し続け、やがて倒れてしまう。その脳を開いて調べると、睡眠時 間を削ってまで仕事に打ち込む企業戦士の脳内が見えてくる。ストレスに 負けない対処法にも研究の目は向いている・・・ (今回は、編集段階の手が入っていないオリジナル原稿を#1に入れま した。新聞のでき方について興味がある方は読み比べを!) #0001 dando 9203141450 ******************************************************* * ストレスにどう反応?心の内側・・・過労・飲酒・栄養 * * 〜〜ウイークエンドストーリー〜〜 * ******************************************************* (1992.3.14 科学面用オリジナル) 働き過ぎのサラリーマンを襲う過労死は、海外で「KAROSHI」で 通る。長い残業でストレスを感じた後で、家庭に戻るのではなく夜の街に 繰り出す姿も、外国人には不思議な光景と映る。社会に満ちるストレスに、 心の内側はどう反応しているのか。人の頭を開けては調べられないが、各 地の大学でネズミによる実験が、ストレスを受ける心の内を語ってくれて いる。 (団藤保晴) 《ネズミも過労死》 ネズミでのストレス実験は縛ったり、電気ショックを与えるなど簡単な 方法で始まった。胃かいようが起き、かいようの大小や個数を調べるとス トレスの強さが知れる。 一九七〇年代になって、ネズミ自身の意志で回転かごの中を走り続け、 死んでしまう過労死に似た特異ケースが米国のパブロフ研究所で見つかっ た。久留米大医学部の津田彰・講師(行動神経科学)が注目、留学して実 験手法を国内に持ち込んだ。 自由にエサを食べていたネズミに、一日一時間しかエサを与えず、エサ 場と回転かごだけの狭いすみかに押し込む。生命の危機を感じてエサを探 すためか、回転かごで走る距離がしだいに増え、最大で一日に二十キロも 走る。食べることも忘れ、狂ったように走ったあげく、数日で体がぼろぼ ろになり死ぬ。 ひどい胃かいようの発生は当然として、脳内でどんな異常が起きるか、 解剖してみた。脳の興奮ぶりは、神経の間で受け渡される物質の量で推定 できる。 結果はあちこちの神経ので通常の何割増し、ところによっては二倍半も の興奮で「ストレスに疲れ果てた高齢ネズミの脳内に似ている」と、津田 さん。若いネズミはストレスを繰り返すと慣れて興奮しにくくなるのに、 高齢ネズミは脳内で一度起きた興奮を抑制できず、繰り返すと高ぶる一方 になる。過労死したネズミにも正常な判断ができなくなる、感情の暴走が ありそうだ。 ネズミの過労死を止めるのは簡単だ。エサの時間を倍にするか、合計時 間は変えずに三十分ずつ二回に分けるか、回転かごを止めるだけでよい。 三度の食事に代表される健康な生活習慣、倒れる前に止める−−人間の過 労死とあまりに似た防止法だ。 《お酒を飲む理由》 ネズミは人間よりもアルコールに強い。また、濃度が一〇%を超すと嫌 うから、多量に飲ませて人間のようなアルコール依存症にするのが難しかっ た。 兵庫医大の磯博行・講師(心理学)は依存症のネズミをつくろうとして いるうちに、ウイスキーに近い濃度四五%でも何十回もレバーを押した末 なら飲むことを発見した。 「ネズミにいらいら感が加わったから飲んだ」と推理した磯さんは、実 験装置を工夫してアルコールを飲むこととストレスとの関係を追究し始め た。 ネズミはちょろちょろ動き回りたいものなのに、直径三十六センチの回 転かごに入れ、四分の一回転すると罰として足元から電気ショックを与え た。ネズミはすぐに慣れ、じっとするが、内心では動きたくてたまらない。 エサ、水、アルコールは目の前に置いた。 日ごろからアルコール好きなネズミは、この状態で水よりアルコールば かり飲むようになり、それも動くのを制限されている束縛時間中ではなく、 間の自由時間に多く飲んだ。 ストレスを紛らせたくて飲むのではなく、ストレスから解放されてほっ と一息つくのだろう−−と解釈されている。 《栄養不足の影響》 世の中、ストレスだらけといっても、胃かいようで入院する人もあれば、 平気な人もいる。「それを分けるのは、個人ごとの栄養状態の差では」と、 京大医学部の木村美恵子・助教授(衛生学)は考えている。 日本人に不足しがちなカルシウム、それと並ぶ基本ミネラルのマグネシ ウムが足りない飼料でネズミを育てると、体中あちこちで他の各種ミネラ ルも足りなくなる。栄養不足ネズミと正常飼料で育ったネズミの足を四十 分ほど縛り、頭に挿入した細いチューブから脳内物質を連続採取、神経の 興奮ぶりを追った。 正常なネズミはストレスで興奮が起きても、解放後は元に戻ったり、縛 る以前よりも押さえ込まれた。しかし、ミネラルが足りないネズミは解放 された後で興奮が何倍にも拡大し、持続してしまった。 「体に本来備わる防御機能が悪くなっている」と木村さん。カルシウム 不足の人は怒りっぽい−−栄養学で常識のようにいわれる現象の裏側に、 こんな脳内の変化がありそうだ。 写真1=過労死寸前のネズミ。目を細め、体を細かく震わせている。死 因は肺炎などが多い 写真2=ネズミを過労死に追い込む「活動性ストレス」の実験装置。回 転かごを回しているネズミも・・・いずれも津田講師提供 #0002 dando 9203141501 これが科学部での最後の仕事になるはずです。後は、企画報道室の 仕事としてそちらのデスクを通して紙面に出るはず。 一度書き上げてから、待ち時間が長かったので、例の「ゴマフ3原則」、 いや5原則かな、に留意してみたオリジナル原稿の方をアップしてみました。 脳の科学を新聞で扱うのは依然としてかなりの難題で、いろいろな点で工夫と 妥協が必要です。そのあたり、どうでしょうか・・・・・・・・dando #0003 sci1044 9203182202 ストレス、数年前までは関係ないと考えていたものでした。しかし、 転勤する事で自分の弱さというか、人間関係の難しさを思い知らされました。 長く勤めていくと、周りの人は自分を理解してくれ、自分は周囲の人を理解す る。それが転勤でぷっつんと人間の関係がきれることで、弱い人間は相当ストレス 感じるようになります。私も初めは頑張れると思いました。しかし、円形脱毛症が 出来た事で、無理をしない守りの仕事ぶりになってしまったようです。 人間は何故、(ネズミも何故)ストレスを感じるのでしょうか?何か悲しい ものを感じます。 「誤り人」 #0004 dando 9203191415 ストレスってのは外部刺激に対する体の自然なリアクションだと 考えられているようです。心理的なものでなく、肉体的なストレス もあります。刺激が加わったら、それと感じて立ち上がるか、大変 すぎるから逃げとこう−−とするか、その選択をするきっかけを与 えてくれる、大事なものと考えたら・・・。 原始、自然な状態の人間を考えたら健全な体に備わった健全な防御 機能ですよね。しかし、現在の社会状況は生物としての人間にとって かなり異常だから、いろいろな症状が発生する・・・・・・dando #0005 sci6407 9203191656 社会的なストレスは、あたりまえですが、動物の種類によってかか り方がちがうはずです。 もう20年も前のことですが、ぼくは、ニホンザルを観察していま した。毎日、明るいうちはニホンザルとして生活していると、夢に までニホンザルがでてきます。そこでは、人間の姿のまま、サルの 家族として受け入れられ、互いに触れあったりしたものです。現実 の世界では、もちろん、サルに触れることは厳禁だし、それほど仲 良くなってはいけません。 このころ、いちばん強く感じたのは、ぼくはニホンザルとしてはと ても生きてはいけない、ということでした。家族以外の相手だと、 相互の接触はものすごい緊張をもたらします。たえずびくびくしつ つまわりの様子を頭にいれておかなければ、どんなにひどい目にあ うのかわからないのです。ぼくは、観察しているだけなのに、その 緊張に耐えられなくなったものでした。 人間の社会関係は、ニホンザルと比べて、表面的にはずっと温和で す。しかし、職場では、陰湿な意地悪が心を傷つけます。それに耐 えているとき、ニホンザルの方がルールが明快でそれに従えばいい のだから、むしろ楽なのかもしれない、などと思うこともあります。 (ちなみに、ぼくの職場は、封建制度の支配する医学部です)。 ある霊長類学者は、サル類は、個体間の社会関係を調整する知能で は、人間より優れていると主張しています。そのぶん、人間では、 明快な解決策のないまま、心が傷ついていくのかもしれません。た ぶん、社会的なストレスも、それを緩和する機構が伴わず、強い生 理的な効果を与えるのでしょう。 ストレスは、dando さんがおっしゃるように、進化の過程で獲得し た生理的な反応かもしれません。ただ、現在の進化理論によれば、 ストレスが「個体の生存に有利だった」とは必ずしも言えないし、 だから、「むかし機能していた機構だ」とも言えないことです。つ まり、進化の過程で獲得された性質は、それが個体として「いいも の」であるとは限らないのです。 もし「いいもの」であったとしても、それは、たくさん子供を残せ るということでしかなく、「心地よい」ものであることを意味しま せん。サルで、社会的なストレスによってメスの妊娠が妨げられる 機構が仮定されていますが、これの説明は、こんなふうです。メス は、ストレスのせいで苦しむわけですが、たとえ流産しても、生ま れてすぐ死んでしまう子供への投資を少なくすることになるから、 そのメスにとって有利だ、というのです。 人間の悩みを、ストレスという生理現象で捉えるのは、たしかにひ とつの切り口です。でも、進化的な見方が問題解決に無力なように、 その研究から何かが言えるようになるとは思えません。(その研究 をなさっておられる方があったら、ごめんなさい。しろうとの、た だの感想です)。 Alopex #0006 sci1223 9203212258 この記事、新聞で読みました。「過労死寸前のネズミ」の写真がショッキングで、 記事を読んでみるとまたまたショッキングでダブルパンチでした。私の仕事がストレ スの多いと言われているものでして、アルコールも好きなので、よけい興味がわいた のでしょう。 団藤さんのお勧めなので、新聞の記事と読み比べをしてみました。オリジナルと比 べると表現など結構変わっているのですね。私個人的には、オリジナルの方が好きで すが、最終的にあの記事になったということは、新聞記事としてはあちらの方がいい という結論だった訳ですか。記事では「ストレスと心」の関係が全面的に表に出され ていますね。よりセンセーショナルになっていると言うか、断定的になっていると言 うか、確かに読んだときの印象は記事の方が強いような気はしますが・・・。 例えばということで、前書き(?)の部分を読み損ねた人の為に部分的にUPさせ てください。 【オリジナル版】 > 働き過ぎのサラリーマンを襲う過労死は、海外で「KAROSHI」で >通る。長い残業でストレスを感じた後で、家庭に戻るのではなく夜の街に >繰り出す姿も、外国人には不思議な光景と映る。社会に満ちるストレスに、 >心の内側はどう反応しているのか。人の頭を開けては調べられないが、各 >地の大学でネズミによる実験が、ストレスを受ける心の内を語ってくれて >いる。 (団藤保晴) 【新聞記事版】 > 働き過ぎの勤労者を突然襲う過労死は、海外でも「KAROSHI」と >呼ばれる。その要因は、疲れ過ぎ、睡眠不足、精神緊張、不安、興奮など、 >さまざまなストレスだ。現代社会に満ちあふれているストレスに、「心の >内側」はどう反応しているのだろうか。各地の大学のネズミによる実験で、 >ストレスが心に与える影響が少しずつ解明されてきている。 > (団藤保晴) こうやって並べてみると、確かに新聞記事のほうがストレートでいいような気がし ますねえ。毎日読んでいる記事も、新聞に載るまでは大変なステップがかかっている のが良くわかりました。記者でも一発で名文を作るわけではないのですね。 たいへん参考になりました。ありがとうございました。 ひらひら #0007 dando 9203232115 そうですね、新聞版の方がストレートですね。「ニュース」にし ている感じでしょうか。オリジナルの方は、実はコラムを書く感覚 でした。多少、断定を避ける趣きもあります。脳の科学を紹介する のはとても難しい、と承知しているので・・・。 ところで、予期はしていたのですが、ネズミをあんな目に遭わせ てけしからん−−と、動物愛護運動家の女性から抗議の手紙が来ま した。あんな研究には意味はないし、それを大新聞が紹介するのも おかしい、とのことです。ストレスがない社会をつくればよいのだ そうです。・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・dando #0008 dando 9204031216 この記事の筆者たちが最近、「動物実験心理学セッション」とい う本を出しました。二瓶社刊です。ストレス、飲酒のほかに、メチ ル水銀が起こす異常行動、子供の注意欠陥多動障害と海馬機能不全 などが「実証的」に扱われていて興味深いものがあります。さらっ とは、読めないかもしれませんが、本屋にあれば見て下さい。