Tec00017 企画記事シリーズ「知らぬ間に多発、脳こうそく」

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 継続して取材してきた「脳のドック」で、いろいろなことが分かり始め
ています。最新版の続報と、まとめになっていた日曜版健康面の記事を関
連#1に収録。自分はどうか、ちょっと不安になる話です・・・・dando


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* 知らぬ間に脳こうそく 「微小3個以下」は41%に 脳ドック調査 *
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             92.02.23 東京朝刊3面  2.22  大阪夕刊1面

 自分では健康だと思う約1000人が「脳の人間ドック」を受けた結果、
脳の血管が詰まって、その先の組織が壊死(えし)する脳こうそくが、微
小なものを含めると約70%もあったことが22日、京都市伏見区、蘇生
会総合病院の診断集計結果でわかった。ほとんどが治療の必要はないが、
高血圧症や糖尿病が進行すると、こうそくが増えたことが確認された。こ
れだけ多数の「脳のドック」のデータはなく、厚生省の無症候性脳こうそ
く研究班は「92年度中にまとめる治療法のガイドラインの参考にしたい」
といっている。
 蘇生会総合病院は、突然の脳内出血死を予防するため、高感度の磁気共
鳴断層撮影装置を導入し、従来のX線断層撮影では見逃していた病変を検
出する「脳のドック」を始めた。91年4月から9月までに受診した、2
0代後半から80代前半の982人を調べたところ、数が3個以下で直径
2−3ミリ以下の微小こうそくは41%。数がこれより多いか、1センチ
くらいまでの多発こうそくが28.2%で、体にまひが出る数センチの大
こうそくも2.6%あった。異常なしは28.2%しかなかった。
 脳こうそくの発生率は、年齢が上がるにつれて上昇していた。微小こう
そくまで含めると、41―50歳で約60%、61―70歳は約90%に
のぼり、71歳以上では96%に達した。
 ドック時に医師が問診した結果では、微小こうそくだけの場合は、ほぼ
全員に、言葉のもつれ、手足のしびれなどの自覚症状はなかった。山形大
名誉教授の杉浦守邦・同病院副院長(70)は「多発型でも日常生活に支
障はなく、直ちに治療の対象とはいえないが、こんなに脳こうそくが発生
していたのには驚いた。ドックを半年間隔で3回受けた人のなかには、こ
の間に高血圧症、糖尿病の管理が悪くて、こうそくが増えた例がある」と、
健康管理の重要性を訴えている。
 微小こうそくが起きるのは、脳神経細胞の本体が集まっている部分より、
細胞から伸びた神経繊維が絡みあう場所が多い。こうそく部は小さな空洞
になるが、神経繊維が枝別れしバイパス路をつくって喪失機能をある程度
は補うから、一時的な異変があったことを忘れがちになる。

 ○微小な脳こうそく治療法に定説ない
 厚生省無症候性脳こうそく研究班長の米川泰弘・国立循環器病センター
脳神経外科部長の話 健康と思っている人たちの脳こうそくの状況を明ら
かにする多数のデータが集まったことは今後の診断のうえでも貴重だ。微
小な脳こうそくは治療法に定説がない。92年度中に研究班として、治療
法のガイドラインを作るので参考にしたい。

          《《脳こうそくの発生率》》

         0---10---20---30---40---50---60---70---80---90---100%
         ##############++++++++++++++++++++++++++*********@@
  全 体 #    28.2    #+          41.0          +* 28.2  *@@ 2.6
         ##############++++++++++++++++++++++++++*********@@
        健全       微小梗塞    多発梗塞 大梗塞

 〜40歳 ##################################+++++++++++++++**
              66.1                            30.7        3.2
 41~50歳######################++++++++++++++++++++++******@
              41.6                 44.9              11.6  1.9
 51~60歳##############+++++++++++++++++++++++*************@
              25.9        45.9                 25.3        2.9
 61~70歳######+++++++++++++++++++*************************@
          11.3    36.2              49.8                   2.7
  70歳〜 ##++++++++++************************************@@@
         3.8  18.9       71.7                            5.7


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* 広がる脳の人間ドック 意外に多数の「健康人」に異変 *
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             1990.12 日曜版健康面 

 高齢者の死亡原因の二割は脳出血や脳こうそくなど脳の血行障害による
ものだし、働き盛りの壮年世代が脳底部のクモ膜下出血で突然倒れるケー
スが、過労死などでよく話題になる。自分の頭の中は大丈夫なのだろうか
−−そんな心配に答えてくれる「脳の人間ドック」が各地で始まり、幅広
い年齢層が受診している。札幌、京都、千葉の三病院で、クモ膜下出血の
原因になる血管のコブ「脳動脈りゅう」がかなり発見され、自覚症状が無
い脳こうそくが非常に多くて将来の痴ほう症などにつながる恐れが指摘さ
れている。支えているのは、磁気共鳴装置(MRI)などハイテク医療機
器の進歩だ。
 最初に手掛けたのは札幌市厚別区にある新さっぽろ脳神経外科病院。一
九八八年三月に中川俊男院長(39)が開業を機に、札幌医大在職中から
温めて来た人間ドックの構想を実現した。脳の血管の中に造影剤を注射し
て撮影するため、非常に細かい病変が検出できる。この十月までに二百人
を検査し、十五人に脳動脈りゅうを発見した。エックス線断層撮影装置や
MRIによる断層撮影を含め、一泊二日の費用は十二万円かかる。
 九〇年七月になって、京都市伏見区の蘇生会総合病院=津田永明院長(4
1)=が新しいMRI活用法でドックを始めた。断層撮影に使われるMR
Iに、血液の流れを検出できる新技術が加わったので、造影剤を注射しな
くても脳の血管像が写し出せるようになった。造影剤注射による不快感や
万一の危険が無く、二時間、三万円の負担で検査が終わるため予約が殺到、
来年夏までふさがっている。
 続いて、千葉市の千葉脳神経外科病院=水上公宏院長(53)=も同じ
ようなMRIを使い、さらに血液が流れる量を測定する脳血流断層装置な
どを活用して半日コースのドックを始めた。八万五千円かかるが、予約は
やはり多い。京都、千葉ともに九〇年十一月までに約三百人が受診、それ
ぞれ二人に脳動脈りゅうが見つかった。
 三つの病院の間では、脳動脈りゅうを発見してからの処置に差がある。
札幌では全員が開頭手術を受け、コブに金属製のクリップをしてもらった。
血管の壁が変成して膨らんでいるのだから、クリップで止めてしまえば破
裂しなくなる。しかし、千葉では経過観察を続けるだけにしており、水上
さんは手術に慎重だ。京都では二人とも手術を受けたが、脳動脈りゅうの
疑いを持たれている別の二人には、小さそうなので血管造影までして精密
に調べず、経過を見る患者もいる。
 津田さんは「破裂した脳動脈りゅうの患者ばかり手術し、その半分は社
会復帰が難しい現実を見て、予防策を考えねばと思った」と言い、同じ動
機の中川さんは「未然に破裂を防ぐためとは言え、健康な人を手術するの
には非常に気を使う」と話す。一方、水上さんは「コブが見つかっても破
裂する方が少ないから、何らかの症状が出なければ手術をしない脳外科医
の原則を守りたい」と考える。
 九州大名誉教授で厚生省の脳血管研究班のリーダーを務めた北村勝俊・
新小倉病院長(67)によると、未破裂の脳動脈りゅうを手術すべきかど
うか定説は無い。「患者の年齢、コブの位置や大きさ、それに手術の難易
度とを総合的に考えざるを得ない。最終的には医師の説明に患者がどれだ
け納得できるかだろう」と指摘している。
 脳卒中全体の予防を目標に掲げている水上さんは、せいぜい五%くらい
と思っていた脳こうそくが予想外に多く、三二%にものぼることを重視し
ている。六・五%の人に実際に血流量低下が判明した。日本人は高血圧の
ために動脈硬化から血管がつまることが多く、脳の奥深いところで細かな
脳こうそくを頻発させているようだ。「将来、大きな脳こうそくや血管性
の痴ほう症を起こす予備軍が想像以上にいた」とみる。
 受診者は五十歳代を中心に二十歳代から八十歳代までで、若い人にも脳
こうそくは広がっている。本人が自覚しないだけで何らかの影響を及ぼし
ているかもしれず、ドックの普及で新しい事実が分かるのではと期待がか
かる。このほか、脳の委縮、脳腫瘍、もやもや病と、いろいろな異常が見
つかり、京都で「全く異状無し」とされた人は、二割しかない結果になっ
た。
 どの病院も、検査結果をもとに医師との面談や保健婦による食事や生活
の指導に力を入れている。脳内の写真を見せられて摂生を勧められると、
説得力は大きい。
 造影剤なしで脳の血管像を写す仕組みは高価な超伝導MRIにしか組み
込まれていないが、磁場が弱い永久磁石MRIに付け加える技術開発が進
んでおり、来年発売を計画しているメーカーがある。こうした技術の進歩
で、多くの病院で脳のドックが開かれることになりそうだ。