Tec00014 企画記事シリーズ「リニア中央新幹線ルート争奪」

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 十年もしたら走り出しそうなリニア新幹線について、関西では
ルートの争奪が起きています。ローカルな争いというより、開発、
国際化、21世紀の交通体系の話としてまとめてみました。


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* ザ・関西甲論乙駁 リニア新幹線ルート争奪戦 *
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      1992.2.15  大阪夕刊2、3面 にゅうす・らうんじ

 二十一世紀の初頭には東京−大阪間に二本目の新幹線が通り、時速五百
キロのリニアモーターカーが一時間余りで突っ走る・・・。その中央新幹
線をめぐって、奈良と京都、世界に知られた二つの古都の間で「ルートは
こちら」と、争奪の舌戦が続いている。JR東海、JR西日本の両社はそ
れぞれの思惑の違いから、別々の相手に肩入れしがちだ。一方で、大阪を
含めた三府県境に展開する「関西文化学術研究都市にこそ新駅がふさわし
い」と、交通工学専門家は唱える。論争の現段階を紹介してみたい。
                      (科学部・団藤保晴)

 《奈良側》 時間節約効果大きい  新天地にレールを

 ★今谷康夫・奈良商工会議所事務局長(62)
 −−リニア誘致運動で先行したのは奈良だが。
 全国新幹線鉄道整備法によって、一九七三年に決定された中央新幹線の
基本計画には「東京を起点に、甲府市付近、名古屋市付近、奈良市付近を
経て大阪に至る」と、はっきり書いてある。なんで横やりを入れるのか、
という思いがこちらにはあり、「いまさら何を」と、京都側に申し入れた。
七九年につくった建設促進期成同盟会(九都府県)に、京都側も入りたい
ようだが、それは断るようにしている。

 −−年間観光客は奈良の一千五百万人に対して、京都は四千万人。京都
側はこの差を強調する。
 それは現在、奈良には新幹線も空港もなくて、交通の便が京都に有利に
なっているからにすぎない。奈良は国際的にも知られているし、実際は文
化財にしても奈良の方が見てもらう物は多い。今の奈良にはホテルなど宿
泊施設が少なく、大きな会議場もないが、中央新幹線の開通に伴ってそち
らの受け皿を整備したら、京都には負けない。

 −−超高速だから大阪から十分間も走らないで止まる駅になる。停車す
る列車がどれほどあるだろう。
 現在の東海道新幹線でいう「こだま」型の列車は停車するだろうし、「ひ
かり」型にしても十本走るうちに、一本でも二本でいいから止まると思っ
ている。米原駅で止まる「ひかり」があるような形になろう。奈良には空
港をつくることが出来ないので、このまま十年たつと全国の都道府県庁か
ら東京・霞ヶ関までの時間が最もかかる県になってしまう。逆に、リニア
新幹線で東京に直行できると、時間節約効果が一番大きいのが奈良で、県
民の期待は大きい。

 ★土井利明・JR東海中央新幹線計画部長(45)
 −−ルート問題はどう考えているのか。
 今後の問題で何も決まっていないが、全国新幹線鉄道整備法による基本
計画で経由地ははっきりしている。それに基づき運輸省から中央新幹線を
運営するJR東海に指示があって、地質調査をしている。過去の例になら
いルート幅二十キロで調査しており、京都市までは入っていない。

 −−東海道新幹線で、京都は四番目の乗降客がある駅だが、外せるのか。
 中央新幹線は、旅客が増えてパンクしかけている東海道新幹線を救うの
が最大の目的で、必ずしも京都を経由する必要はない。また、東京を中心
にした一極集中を是正する効果も考えられ、その意味からも新幹線が通っ
ていない新天地にレールが敷かれて、国土の発展に役立つようにすべきと
考えることもできる。

 《京都側》 世界との交流に必要  地理的必然性ある

 ☆中西進・国際日本文化研究センター教授(62)=日本文学
 −−京都府知事の諮問機関「二十一世紀総合交通懇談会」で、リニア新
幹線を含めた京都の文化的展望を発表されたと聞くが。
 わたし個人は、東京との結び付きを第一には考えておらず、世界との交
流にぜひ必要だと思う。京都は国際文化都市として、技術・製品ばかり輸
出して国際的に摩擦を起こして来た日本が、文化を輸出する中心になる。
日本中で一番、海外からの文化的な視線を浴びており、精神文化を求めて
外国のビジネスマンもやって来る。
 国際会議の開催数は奈良に比べて圧倒的に多いし、国際観光振興会の出
国時アンケート調査によると来日外国人の四人に一人は京都を訪れている。
玄関口の成田空港から現在のように時間がかかり、リニア新幹線からも置
いて行かれてはたまらない。

 −−古都の景観問題で騒然としている京都に呼び入れられるのか。
 現在の京都市街地は「旧京都市」とし、公園、歴史、緑地都市として誇
り高い街づくりをする。南側の広い範囲に「新京都市」を建設して府庁な
ども移転、リニア新幹線の京都駅を設ける。JR京都駅あたりを北限に宇
治市にまでも広げて、過去の盆地型ではなく、平地に展開する巨大な都市
づくりをしたい。

 −−リニア中央新幹線を延長して構想される新国土軸は、紀淡海峡から
四国縦貫、豊予海峡と、従来より南寄りだが。
 京都は京阪神三市の中で唯一、日本海側と結ぶ位置にある。太平洋側の
軸が通っているうえに日本海側も見渡せ、いわばコンパスの針が立てられ
るところにあり、京都を千年以上も「都」にした地理的な必然性は現在で
も無視できない。

 ☆南谷昌二郎・JR西日本常務(50)
 −−奈良と京都と、どちらが有利と考えるか。
 双方とも当社の営業エリア内で、どちらかに軍配を上げるわけにはいか
ない。しかし、国際観光都市としての京都を全く無視した形で新幹線ルー
トは決められないと思う。京都を訪れる外国人のほとんどは新幹線を利用
している。超高速鉄道のルートだから、奈良や京都の都合よりも、利用客
の利便性と技術的な問題でおのずと答えは出る。経由地は「奈良市付近」
とされているが、「付近」は幅広く解釈できよう。

 −−山陽側へ、リニア新幹線延長の可能性は。
 東海道は飽和状態だから新線が必要だが、山陽新幹線にはまだ余裕があ
る。東海道よりも高速で走れる設計にもなっており、当面は開発中の最高
時速三百五十キロ型を走らせ、リニアはその次の課題だ。

 《学研都市へ》 しこり残さず一体で  空の「国際級」化に必要

 ◎天野光三・京大工学部教授(63)=交通計画
 −−中央新幹線のルートとして、京阪奈丘陵の関西文化学術研究都市を
推されている理由は。
 混雑がひどくなった東海道のバイパスなのだから、東京−名古屋−大阪
をなるべく真っすぐに結んで大量輸送するのが目的だ。大阪以西の客を考
え、山陽新幹線と接続するために新大阪駅に入るとすれば、自然に京阪奈
を通ることになる。これは全国レベルの問題だから、京都や奈良の都合で
曲げるのはおかしい。

 −−学研都市の発展には大きな助けになる。
 京都も奈良も学研都市のために随分、力を注いできた。しかし、現在の
ように交通の便が悪くては、結局はベイエリア側が繁栄して学研都市は生
み捨て同然になる。京都と奈良はこれから一体となって繁栄を目指すべき
地域だから、リニア問題でしこりを残すより、協力して京阪奈に新駅をつ
くる方向で動くべきだ。

 −−京阪奈でリニア新幹線を分岐させて、関西新空港まで延長させる構
想を唱えられているが。
 東京側も成田空港まで延長させると、沿線の人は二つの国際空港のどち
らも利用できるようになる。両空港とも二期工事が完成しても、国際的な
レベルからは大きく見劣りし、極東の空の中心は韓国になってしまう。日
本には何本も滑走路を備えた空港を造る土地が無いのだからやむを得ない
が、リニア新幹線で結んで初めて国際級になれる。

 《リニア新幹線とは》
 磁石を下敷きに載せ、下から別の磁石で誘導すると、下敷きの上を自由
に動かすことができる。同じように列車が前に進む力として、磁石が引き
合い、反発する力が使える。列車の場合は永久磁石では具合が悪く、電磁
石の極性を列車の進行に合わせてコンピューターで次々に切り替える。
 花博に合わせて建設された地下鉄・鶴見緑地線は、車輪をもつリニアモ
ーターカーで、推進力だけ電磁石に頼るが、リニア新幹線は超高速にする
ため地上十センチに浮上して走る。この浮上させる力も磁石で生み出すの
で普通の電磁石では足りず、極低温で電気抵抗がゼロになって大電流が流
せる超伝導磁石が使われる。浮上しているため、レール上を走って出す騒
音がなくなる利点もある。

 《開業はいつ》
 東海道新幹線で「ひかり」が運ぶ旅客は一日十万人に迫り、限界に近い。
JR東海によると「堅く見ても輸送量は年間二パーセントの割合で増え続
ける」といい、間もなくあふれてしまう。東京駅で折り返しているために
一時間最大十一本の列車しか走らせられないところを、当面は品川に新駅
をつくって一部折り返し、十五本に増やしてしのぐ。
 それでも輸送力が不足する時期が二〇〇三年ごろ。また、老朽化してい
る路線の若返り工事に年間十日の運休と百日の徐行までして、十数年かか
る見込みだ。耐久年数から逆算すると、やはり十年余り先には工事を始め
なければならないという。ルートを決める国は、九八年着工、二〇〇四年
開業で、建設費五兆円と試算している。

 《在来型の可能性》
 リニアモーターカーの開発は宮崎実験線で続けられてきたが、トンネル
内のすれ違いなど実用試験をするためにリニア中央新幹線ルートの一部に
なる山梨県内でリニア実験線(四二・八キロ)の建設が決まった。計画で
は三年間で建設、二年間走って実用化するかどうか、結論を出す。九一年
十月、宮崎で実験車が出火、全焼したが、事故原因は低速走行用タイヤの
パンクで基本的な安全性には響かないとされている。
 もしも実用化が難しいと判断されると、東海道の混雑が待ったなしになっ
ているため、在来型を高速化した新幹線を建設する。東海道新幹線で三月
から「のぞみ」が東京−大阪間を二時間半で結ぶが、その時速二百七十キ
ロを上回る次世代型車両が開発中だ。