Tec00009 企画記事シリーズ「文明の盛衰と環境変動」

#0000 dando    9112071520

特集記事から、担当のサワリ部分を編集して#1に入れました。


#0001 dando    9112071522

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* 文明の盛衰は自然環境の変動に支配されてきた? *
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                (12/9 特集面から抜粋、編集)

 今年から、文部省の科学研究費・重点領域研究として「地球環境の変動
と文明の盛衰〜新たな文明のパラダイムを求めて」がスタートした。地球
環境問題が人類の生存にかかわって急浮上してきた時期に、過去の文明の
盛衰の背後にあった環境変動の問題を、科学的に実証し、新たな文明のパ
ラダイムを開こうとする。世界的にも同様な動きがあり、国内でも例が無
い、八十七の大学、研究機関が参加するプロジェクトが組まれた。
 京都市にできたばかりの文部省全国共同利用研究施設「国際日本文化研
究センター」がその中心基地で、同所長で哲学者の梅原猛さんが精神的な
バックボーンだ。比較文明論の伊東俊太郎教授ら人文科学者に自然科学者
が手を結んで、国内はもとより、世界各地での発掘、踏査による研究が進
んでいる。

◆ノアの洪水◆

 旧約聖書に書かれた「ノアの洪水」が、メソポタミアのシュメール時代
にあった大洪水伝承を反映していることは、19世紀の粘土板文書発掘で
明らかにされた。「文明と環境」プロジェクトでは、地層をボーリングし
て、含まれる花粉などを分析する方法で、その洪水がどうして起きたか、
実証を試みている。温暖・乾燥の状態から、五千年前に起きた寒冷・湿潤
化で、チグリス・ユーフラテス川の上流、トルコ・シリアの高原に大雪が
降るようになり、雪解け水が低地を水没させたのではないか−−とみる。
ノアの洪水が3月に起きたと伝承されているのと符号する。そしてこの気
候変動こそが各河川流域の低地へ人口の集中を引き起こし、都市文明を生
み出した。
 現地踏査によって、メソポタミア地域の森林破壊がこれまで思われてい
た以上に早く進み、五千年前には上流地域の森林が非常に少なくなってい
たことが分かった。洪水を引き起こす条件は整って訳で、ノアの洪水は人
災の側面すら見せ始めた。現存する高度な金属器などを造る燃料として、
神殿や船を造る材料として、森林は再生を考えずに切り出された。かつて、
中近東地方はレバノン杉の大森林で覆われた。ノアの箱船にも使われたか
もしれない、この杉の巨木は、現在ではレバノン国内に数十本しか残され
ていない。ギリシャまで広がる、はげ山は文明の所産だった。


◆気候変動と人類の歴史・・・環境考古学から見ると◆

 気候が安定していた時期に文明が進んだと一般に思われがちだが、安田
喜憲・助教授らはむしろ気候が大きく変動した時期に、変動をバネにして
人類の歴史を進める変化が起きたと考える。(下に添付の図参照)
 農耕の開始は、長かった氷期が終わる一万−八千年前ごろのことであり、
次いで歴史の進行を決定づけた都市文明の発生は五千年前の寒冷化による
という。
 日本では海岸線が沖に遠のき、縄文人はそれまでの海岸と森の両方に依
存した狩猟生活が難しくなり、クリ、ドングリが豊富な八ケ岳のふもとに
集まって縄文期のピークといえる高度な文化を生み出した。
 三千年前に再び寒冷化した際には各地で民族の移動を引き起こし、中国
では春秋戦国の動乱になって、流民が日本に稲作をもたらしたと考える。
孔子、シャカ、キリストら精神文明の高揚は、こうした社会不安の上で生
まれた。
 やがて温暖化すると地中海の気候は乾燥して塩害が深刻化、古代オリエ
ント社会の基盤を壊した。そうでなければ、アレクサンダー大王が瞬く間
に征服して大帝国を築くことはできなかったとみられる。
 日本で古墳時代に当たる寒冷期には、欧州で民族大移動があった。安田
助教授は「そういう時期だから、東アジアでも騎馬民族説が真実だったか
もしれない」とみる。
 中世の温暖期には北へ開墾が進んだが、十七世紀の小氷期には北に向かっ
ていた農耕前線が後退した。北米に移民が渡ったのは氷期による食糧事情
の困窮が背景があり、ニュートンらによる科学技術の飛躍的な進歩も始まっ
た。

       《現在との気温差》              《世界と日本の動き》
         +3  +2  +1   0  -1  -2  -3  -4  -5
         -|---|---|---|---|---|---|---|---|-
一万年前             |                    * 縄文時代が草創期から早期に
                      |               *
九千年前              |          *           西アジアで農耕・牧畜開始
                      |    *                 対馬暖流が日本海に入り
八千年前              |*                       日本列島の風土形成
                  *   |                      世界各地で農耕・牧畜が始まる
七千年前        *     |
               *      |
六千年前        *     |
                  *   |
五千年前              | *  ノアの洪水(?) メソポタミア・エジプト・インダス都市文明誕生
                      |     *                縄文文化は中期の隆盛に
四千年前              *
                    * |
三千年前              |  *                   中国で春秋戦国/稲作日本伝来
                      |         *            孔子、シャカ、キリスト、ソクラテス
二千年前              *                      古代オリエント崩壊/弥生稲作北進
                     *|
                      |  *                   民族大移動/日本は古墳時代
一千年前              *
                   *  |                      中世温暖期で欧日で開墾進む
                      | *                    小氷期で北米移民、科学革命
現在                  *
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◆文明と環境の共存・・・人類の生活革命を/梅原猛所長◆

 国際日本文化研究センターは、世界から見て日本の文化がどうだったの
かを研究する趣旨で設立された。さらに人文科学者に自然科学者も加わっ
て協力する態勢で、民族学の狭い範囲ではなく、人類が直面する普遍的な
問題を扱っている。「文明と環境」という世界規模の問題と取り組む研究
の基地として、これほどふさわしい組織はないと思う。
 キリスト教や近代合理主義に見られる人間中心主義は人類の富を短期的
に増すのには有効だったが、最近の地球環境問題に見られるように、とみ
にマイナス面が目立ち、人類を長く支える論理ではないことがはっきりし
て来た。自然との付き合い方をわきまえていた旧石器の文化の方が健康だっ
た。
 わたし自身、九、十月にギリシャ、トルコを回り、西洋文明の源流とし
て栄えた地方の自然破壊のすさまじさにショックを受けた。文明が繁栄す
ると森林資源が食いつぶしされ、荒廃すると森が豊かなところに移動する
ことを繰り返し、自然が滅びていった。これを手本にした文明では世界全
体が同じ経過をたどることになる。
 欧米に対する我々の強みは、座標軸を西洋近代の思想に限らず、日本、
中国、インドといくつもとれることだ。五十年先、百年先のことを見通し
た人類の生活革命を考え、解決の具体策まで提示できないにせよ、新しい
展望を開きたいと思う。 (談)


#0002 sci5111  9112080321

うわっ!力作だ。
職業柄、これは真剣に読まねば。
なんか、なつかしい曲線のグラフまであったりして。
dandoさん、続きを待っています。

                  ゴマフアザラシ


#0003 dando    9112091605

 個人的にも、ハネムーンで旅したギリシャで、ミケーネの遺跡
までバスで行って見て、あまりの緑の薄さ、ミケーネははげ山
そのものだったのに、驚きました。もう十年前のことですが、今も
変わりないようです。

 あのあたりでは、森林を切った後は、牧畜してしまい、本当に
緑を根こそぎにしてしまうのですね。ミケーネからは独特の土器か
各地に輸出されました。あの土器を焼くのにも大量の緑が消費され
たのだと、後で考えました。

 熱帯林も再生は難しいと先日、専門家に聞きました。熱帯のように
微生物が豊富なところでは、役に立つからとチークなど植えようものなら
たちまち害虫の餌食になるというのです。どうにも使えないアカシア
の林ならばもつということでした・・・・・・・・・・・・dando


#0004 sci5111  9112092257

先日の団藤さんの記事で気になったのは、梅原さんも、安田さんも、
あまり「正統派」とはみなされていないということですね。
梅原さんはもともと哲学のひとだし、実証や文献解題をとばして、
感性と直感から歴史や国文学の分野を論じてしまったため、どちらの
分野からも黙殺されているような状態で、それ以外の分野や、学問と
離れた一般向けの教養として、はやったと考えます。

安田さんの場合も、文献の引用という著作権的な問題から、大御所と
もめてしまい、学会でお見掛けしても、ひとりで歩いています。
考古学に進出した当時は、若い学生は少し騒ぎましたが、結局
歴史学の範疇からいえば、単純な環境決定論だということになってしまい、
一見ジェネラルだけれど、そうでもない。本職の自然科学では、
ジェネラリストはあまり、評価されないようですし。

そういう、いわば傍流の人達が研究をして、それぞれの分野の本流?の
人達からどの程度の支持や支援を受けられるのか、また、成果が正しく
理解されるのか、不安があります。

確かに「一般受け」するかもしれないけれど、それは必ずしも正しい
理解や評価に結びつくわけではないし、一般にうけることが、すぐに
ジェネラルなものだとも言いきれないし。

                     ゴマフアザラシ


#0005 dando    9112101750

 ゴマフアザラシさんの指摘、よく分かります。国際日本文化
研究センターに拠っているメンバーが正統でないことは、書き添えて
おいた方がよいでしょう。

 それは、認めておいて、地球環境問題での自然科学の立場が完全に
行き詰まっていると思っているのです。なにせ、日本政府の「対策」は
最終段階には核融合の実現まで入れて、エネルギーを使い続ける
シナリオになっているのですから。・・・わたしは核融合エネルギーを
使う日は来ないと考えていますが・・・。

 さて、どんな新パラダイムを築いてくれるのか、注目しておきましょうよ。
梅原さんは、脳死臨調でも実質的な方向を動かしています。地球規模では
どうなるか・・・限られた医療資源を臓器移植に使わなくても、もっと別の
ところに使う道があるでしょう−−という点で、わたしは意見が一致しました。

 環境決定論のついでに、中世奥州の藤原三代の栄華も、中世温暖期
の所産だったというのがありましたね。記事にまでは書けませんでしたので
補足します・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・dando


#0006 sci5111  9112110226

他のメンバーはどういった方々なんでしょう?

哲学者はともかく、なぜ花粉(しかも古いところの)学者が参加しているのか。

自然科学が、人文・社会・自然という3大科学の代表格として、19世紀
後半からの、いわゆるパラダイムを作ってきて、(知は力なり、ってやつね)
今、行き詰ってるのは、明らかです。
かといって、他の分野が何をしているかというと、自然科学の学界をモデルに?
細分化をすすめ、ものごとをまとめることができなくなってしまっている。

柴田さんが『反科学論』をお書きになったとき、ああ、こういう分野の人が
こういうことを書くのか、と感慨深かった。

哲学史とか、社会学とか、文化人類学とか、その辺から総括的なものが
でてこないのか?
ちなみにサルトル、ボーヴォワール、レヴィ=ストロースは仲よしの
同級生だったそうだけれど、この人達を越える、新しい世界観は、いつ
どこから出てくるのだろう。

私の父母はサルトル達と同時代人です。私の世代にそういうひとがいると
したら、いまもう活動をはじめてますね。そういう何か、新しい物の見方を
指し示すような仕事に、私は生きている間に出会えて理解できるのか、
なんて、考えてしまいます。

でも、そうでなかったら、本当に行き詰りではあります。

                       ゴマフアザラシ


#0007 sci6421  9112180050

  ちょっとタトですが。

 この基調を見て、以前NHKで放送していた「地球大紀行」という番組を思い
出しました。その中で、海洋都市エフェソスが森林破壊の結果どのように廃墟と
なっていったかという説明があり、興味深く見たおぼえがあります。(ちなみに、
それを花粉の研究から説明していたのが安田助教授でした)


 10月の読売新聞に「ノアの大洪水」を科学で検証する、という記事がけっこ
う大きく載っていました。安田助教授を代表者とする研究グループが、トルコな
どに、そのためのボーリングの調査隊を送っているとのことでした。これまでの
予備調査によると、洪水があったとされる地層を境に、乾燥地に成育する植物の
花粉が減少、逆に湿潤な環境に向いている植物の花粉が優勢になっているのだそ
うです。
 ”エフェソス”も”ノアの洪水”も聖書に出てくるので、この調査、関心持っ
ています、とても興味ありますね。

#1の関連:
>ノアの洪水が3月に起きたと伝承されているのと符号する。

 あれっ?聖書の記述では、洪水が始まったのは第二の月(10月後半〜11月
前半)の17日となっているんですが?

                                   Carrot


#0008 sci5111  9112180418

聖書考古学、という分野は、初めは聖書を実証する「だけ」が目的の
学問でしたが、その後、世界でも最も普及した古文書としての聖書を
フルに活用する中近東考古学として発達しています。

そもそも、メソポタミア文明も、うっかりするとインダス文明も、
人間が行なった環境の改変(環境破壊)が原因で滅亡した、という
解釈が多くなってきたので、キリスト者ならずとも興味あるところです。

メソポタミア文明が、煉瓦の焼き過ぎで滅んだ、というのを読んだ
ときには、なんだか泣きそうな気分になりました(若かったのね)。

                  ゴマフアザラシ


#0009 dando    9112201834

 洪水が3月というのは、シュメールの伝承の方です。

 プロジェクトの参加者ですが、比較文明論の伊東俊太郎教授が
自然観・世界観と地球環境問題、古生物学の小泉格教授らが海洋
環境の変動と文明の盛衰、歴史人口学の速水融教授らが地球環境の
変動と人口変動、このほかヒトの小進化・民族移動と環境変動とか
火山噴火の影響とか、いろいろあります。

 安田さんは現在、採取した泥のコアを分析するところです。これまでに
記事になっているのは、言わば見込み記事ですね。来年は、ノアの箱船が
漂着したとされるアララト山の踏査もしたいということでした。

 来年の秋には、大規模な国際シンポが計画されていて、そのときにも
また接触することになるでしょう・・・・・・・・・・・・dando


#0010 sci6421  9112220141

 聖書のノアの洪水は、局部的なものであり、しかもメソポタミアの物語の焼き
直しにすぎないという解釈はよく聞きますが、それにしてはアララト山が注目さ
れるというのはおかしな気がします。
 聖書よりも古いとされるギルガメシュ叙事詩では、船がとどまったのはアララ
ト山ではなくニジル山です。また、洪水が局部的なものであれば、アララト山な
どに船などが漂着するはずはないのですが、一応それでも調査してみるというの
も面白いですね。

  でも来年、アララト山の踏査があるということ、何か興味深い発見があるとい
いですね。それとあのあたりは、以前はソ連との国境が近く、自由な立ち入りが
出来なかったと聞いていましたが、もうよくなったんですね?

                                   Carrot


#0011 sci5111  9112230151

速水さん(歴史人口学)も参加されるのですか。
これはたのしみ。
                 ゴマフアザラシ