Pol00223 マニラで考えたこと

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  昨年11月、 念願であったフィリピン旅行を果たしました。
  マニラ周辺の10日ほどの旅ですが、 いろいろと考えさせられました。
  以下の文章は私の属する某労働組合の機関紙に連載したものです。
  ご笑覧いただければ幸いです。

      m/a/c/k/y


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           《マニラで考えたこと・上》

   「ジャパニーズ?、ジャパニーズ?‥‥」

    噂には聞いていたが、マニラ空港の職員のあくどさには参った。
    機内で入国カードが配られなかった。が、どうせ空港にあるだろうと、
   そのまま入国審査へ入った。予想通り、カウンターにカードはあった。係
   官が名前を聞き、パスポートを見せろという。言われるとおりにすると彼
   は全ての項目を書き込んでくれるのである。意外と親切ではないかと思い、
   「サンキュー」といって立ち去ろうとすると、「チップ、チップ…」とき
   た。銀行はこの先だからまだ換金していない。「ペソ(フィリピンの通貨)
   は持っていない」と言うと、「エン、エン」と手を出すのだ。ここまで露
   骨とは知らなかった。冷汗を流していると、そばにいた一人の日本人が何
   ペソだかを提供してくれ、それで急場をしのいだ。
     税関も実にいい加減だったし、タクシーを探してやろうという空港の警
   備員もヤバかった。「友だちが運転手をしている。紹介してやるから待っ
   てろ」という。彼は俺は警察官だから信用しろといっていたが、マニラで
   いちばん信用できないのが警察官とタクシーの運転手なのだ。ほうほうの
   体で逃げだし、自分でタクシーをつかまえ、値段の交渉をし、やっとその
   夜の宿にたどり着いた。
    彼らが何か話しかけてくるとき、「ジャパニーズ?」が枕詞のようにく
   っつく。何度も「ジャパニーズ?」「イエス」を繰り返すうちに、イエス
   と言わない方がよいのだと思うようになってきた。日本人とわかると寄り
   つかれ、たかられるようなのだ。明らかに外国人とわかる欧米系の旅行者
   に対してはそうでもない。
    なぜなんだろうと何度も考えた。眼鏡を外し、カメラを隠してもみた。
   やっぱり「ジャパニーズ?」と人が寄ってくる。
     ひとつは金に違いない。日本人即金持ち。ソニー、日産、トヨタ、三菱
   が居丈高にフィリピンの国を覆っている。
    もうひとつは日本人がお人好しで、カモだからだろう。簡単に人の言う
   ことを信じ、疑うことを知らないすきだらけの人種。
    日本の経済がフィリピンという社会を土足で踏みにじっていることの結
   果が、「ジャパニーズ?」という言葉となって私たち旅行者にもはね返っ
   てくる、と、そんな風に思えてならなかった。
    宿に着くだけで疲れきった私は、翌日リサール公園でホッと一息ついて
   いた。そこへまたしても一人の男「ジャパニーズ?」である。もうたくさ
   んだと思い、こう言った。「アイ アム ア コリアン」
     すると彼、にっこり笑って、「アンニョンハセヨ!」  私も負けずに応
   戦した。「アンニョンハシムニカ!」
    バイバイと去って行く男の後ろ姿‥‥。ドッと汗が吹き出した。

             macky ... 正木俊行


#0002 sci4597  9104291625

           《マニラで考えたこと・中》

     排ガスの向こうに見えるもの

    マニラの街をクラクションもけたたましく走り回っているのがジプニー
   である。名前のとおり、一見ジープのような外観の、10人乗り程度の小
   型の乗合自動車。日本から輸入した中古のエンジンに手作りのシャーシを
   取りつけたもので、ドアも窓ガラスもなく、後ろから乗り込むか、運転手
   の横に勝手に座る。停留所というものもなく、乗りたい人は合図をして、
   車が速度を緩めたら後ろへ回って乗り込む。降りるときも何らかの、例え
   ば天井をコツコツと叩くなどの合図をして車を止めてもらう(かがまなけ
   れば頭をぶつけるくらいの低い天井だ)。
    どういうわけかいつでも超満員なのがこのジプニー。乗り込んでも、両
   側のベンチのような座席はぎっしり人で埋まっている。ところがどんなに
   満員でも、無理にでも空席を作ろうという努力が始まる。私が外国人だか
   らというのではない。誰が乗っても、これ以上は座れないよというところ
   に新たな座席がひとつでき上がるのだ。老人が乗ってきても寝たふりをし
   て席を譲ろうとしない日本人とはえらい違いだ。
    料金は運転手に手渡す。後ろに乗った客の場合はその人はお金を前の人
   に渡す。前の人はさらに前の人に渡し、つまりお金のバケツリレーである。
   運転手はバックミラーで客席を伺いながら、後ろ手でお金を受け取り、お
   釣りを前の客に渡す。その客は後ろの客に手渡し‥‥というわけでお釣り
   は当人に戻ってくる。こういう助け合いが、おそらく助け合いなどという
   意識もなく、暗黙のうちに行われているのだ。
    私もやってみたが、連帯感に支えられたルールは実に気持ちよいものだ
   と思った。
    ところで、マニラの大通りは凄まじい排気ガスとノイズに満ち満ちてい
   る。そんな中を、ボロ車たちが猛スピードで走り回る。後で気がついたの
   だが、ほとんど方向指示器がない。よく事故を起こさないものだと思う。
   人々はそんな車を物ともせず、信号を無視して道路を横断する。
    日本と違うのは、一見乱暴な車が、歩行者に対してはきちんと速度を緩
   めることだ。車の列が切れるまでいつまでも横断歩道で待ち続ける、憐れ
   を催すほどおとなしい日本人‥‥。
    車は車、しかし歩行者は歩行者の権利をしっかり持っている。そして仲
   間に対しては強力に連帯する。だからこそ革命もできるのだ、と私は思っ
   てしまった。

                                       macky ...正木俊行


#0003 sci4597  9104291626

            《マニラで考えたこと・下》

      スラムで思う日本

    マニラ湾に、フリーダムアイランドと呼ばれる小さな島が浮かんでいる。
   日本のODAなどによる高速道路建設のために、立ち退かされた1万人以
   上の人たちがそこで電気も水道もなく生活している。日本の「援助」がど
   のようなものかを示すいい見本といえる。今また台湾資本によるリゾート
   開発のために、島民はそこを追い出されようとしている。
    フリーダムアイランドを案内してもらい、生活向上や自立のための運動
   をしている何人もの委員に会わせてもらった。私が東京にあるアジア太平
   洋資料センターに所属しているということで、ずいぶん便宜を図ってくれ
   たのだと思う。
    一人の活動家の女性が私に尋ねた。あなたはなぜフィリピンへ来たのか、
   ここへ来た目的は何か、と。フィリピンへの関心からある程度本は読んで
   いたし、頭のなかの知識は少しはあったが、やはり自分の目で見ないこと
   には、とずっと思っていた。そのことをしどろもどろで説明したのだが、
   彼女はなぜここを選んだのかという理由にはなっていない、とさらに突っ
   込んできた。実際のところ、私はフリーダムアイランドというのはこの地
   へ来て初めて知ったのだ。弁解じみた説明に、暑さによる汗と冷や汗とが
   同時に吹き出してきた。物見遊山というつもりではなかったが、安易な視
   察を戒める意味で、私にとっていい反省の機会となった。
    アペロクルスにある別のスラムへも案内してもらった。川沿いに、とい
   うより川にせり出して、継ぎはぎのバラックが建ち並んでいる。床の隙間
   から川の流れが見える六畳程度のひと間に、普通五、六人が暮らしている。
   日本にいては信じられない、凄まじい貧困ではある。しかし人々の表情は
   明るい。
    実は、「アジアの人々は明るい」と聞くたびに、本当かなと疑っていた。
   何も自慢するものがないから、せめて笑顔の明るさだけでも強調しておこ
   うというのではないのかと。
    しかし違った。人々は心底明るく、人なつっこく、笑顔に翳りが見えな
   い。手垢にまみれた表現ではあるが、私たちにとって豊かさとは何かと考
   えないわけには行かなかった。
    帰国後、日本の白々とした隣人たちの冷たさとあり余るモノがひどく目
   についた。モノの豊かさではなく、互助の精神に基づく心の豊かさ。日本
   人に欠けているものが彼の地にはあるように思えた。

                                       macky ...正木俊行


#0004 sci7157  9108131601

拝啓 正木俊行さん

    レベル0、ボード5#1739に私の「日本人についての考察」が
    のっています。

    及び、同#1745に「日本の現象的考察」もあります。

   読後、御意見聞かせてください。

   よろしくお願いします。

      突然で失礼します、   ミスターX