nat00051 スティング来日っていったいなあに

#0000 sci1009  8905180249

のちほどアップします。

#0001 sci1009  8905192346

一般にはそれ程話題になっていないようですが、
「ニュースステーション」にもちらっと出てきたように
スティングさんが日本にきて熱帯雨林やらインディオやらについて
何やら訴えようとしております。
昨夜18日、汐留PITで集まりがありました。
その前座として話をした先生が、大学の講義で配った資料をアップします。
よく聞いてなかったので(ごめんなさい)はっきりしませんが、
おそらく、集まりで配ったはずの資料のバージョンアップ版です。
(行った人がいたらご指摘ください)

では次に目次をアップします。   sci1009:狩野

#0002 sci1009  8905192349

量が多いので少しづつアップします。

まず目次。
ブラジルの熱帯雨林とインディオ
−−スティングの訪日に寄せて−−
横浜市立大学教授 鷲見一夫
1.姿を消しつつあるアマゾンの熱帯雨林
2.熱帯雨林消失の人類への影響
3.インディオの受難
4.ブラジル政府の入植政策
5.アマゾン開発の政治的・経済的動機
6.生活基盤を奪われるインディオ
7.ブラジル政府のインディオ政策
8.ツクルイ・ダムの惨状
9.大カラジャス計画
10.シングー・ダム計画
11.蜂起したインディオ
12.日本の責任
13.スティングの構想
地図(アマゾン東部の開発プロジェクトとインディオ居住地域)

以上です。
では順次。   sci1009:狩野

#0003 sci1009  8905200000

          ブラジルの熱帯雨林とインディオ
          −−スティングの訪日に寄せて−−
                  横浜市立大学教授 鷲見一夫
1.姿を消しつつあるアマゾンの熱帯雨林
 アマゾンでは、いま、熱帯雨林が広大な範囲にわたって失われつつある。その
原因は、木材の伐採、焼畑、牧場造成、道路・鉄道建設、ダム建設、鉱山開発な
どによるものである。アマゾン地方には、600万平方キロメートルの熱帯林が
存在しているが、こうした開発活動のために毎年10万平方キロメートルもの森
林が切り開かれている。このままの趨勢が続くならば、アマゾンの熱帯林は、今
後60年で消失してしまうことになる。
 熱帯林は、その壮大な外観にもかかわらず、それを支える表土は、極めて薄い。
熱帯では、高温多湿のために、土壌中の有機物の分解は極めて早い。そのため、
植物の成育を支える養分の大部分は、表土とその上に成り立つ植生のうちに蓄え
られている。つまり、その豊かな植物の生命は、何世紀にもわたって植物性物質
でもって形成された表土に依拠しているのであって、表土の下の土質は、一般に、
生産性が低いか又は痩せている。このため、森林が破壊される場合には、表土は
急速に失われ、貧栄養の土壌が露出する。こうした状況は、ラテライト化現象と
呼ばれている。熱帯林を剥がされたアマゾンに赤茶けた土壌が現われているのは、
こうした理由によるものである。
 しかも、熱帯林においては、各種の動植物は、微妙なバランスを保って共存し
ている。熱帯林の一部が択伐され、樹冠がなくなり、直射日光にさらされるだけ
で、新たな環境条件への適応能力を備えていない多くの動植物が死に絶えてしま
う。
 このように、熱帯林は、環境条件の変化に対して極めて敏感であり、その一部
の破壊が全体に及ぼす影響は極めて大きい。熱帯林が、脆弱な生態系であるとい
われるのは、このためである。
 こうしたことから、われわれが何よりもまず最初に認識する必要があるのは、
熱帯林においては、「大きいことは、よくないことだ」という自然の秩序原理で
ある。インディオが一ヵ所に集中せず、分散して居住してきたのは、このような
理由からである。
 今日、アマゾン地方で発生している全ての問題は、こうした自然の秩序原理を
無視した大規模開発プロジェクトに起因している。たとえば、大規模伐採跡地で
の植林がうまく行かないのは、このためである。ブラジル政府は、アマゾンのジ
ャリ川(Rio Jari)流域において、ユーカリなどの外来種の早生樹種でもって、伐
採跡地に大規模植林を試みてきている。しかしながら、莫大な資金と人的エネル
ギーの投入にもかかわらず、この植林プロジェクトはほとんど成功してきていな
い。また、アマゾン地方において、マラリア、住血吸虫病などの疾病が蔓延して
きているのは、大規模ダムの建設によるところが大きい。

以上1章。
   sci1009:狩野

#0004 sci1009  8905200058

2.熱帯雨林消失の人類への影響
 アマゾンの熱帯雨林の消滅は、単にブラジルなどの関係国だけの問題ではない。
これは、人類存亡にかかわる問題であるといっても過言ではない。まず第一に指
摘されなければならないのは、種の消滅の問題である。温帯の森林では1ヘクタ
ール当り10種以下の植物しか存していないが、アマゾンでは1ヘクタールあた
り235種もの樹木がみられるところがある。熱帯林は、まさに遺伝子資源の宝
庫である。
 米、麦、ジャガイモ、バナナ、コーヒーなどの食用植物が病気に冒されるたび
ごとに、人類は、抵抗制を持つ野生種を導入することにより、これを克服してき
た。人類が生き延びてこられたのは、このような宝庫からの種子の補給ができた
からにほかならない。
 熱帯林は、こうした遺伝子の供給源としてばかりでなく、医薬品の供給源とし
ても、また工業原料の供給源としても、重要な意味をもっている。たとえば、鎮
静剤、制癌剤の多くは、熱帯植物から得られている。また、工業用の原材料のう
ちには、合成品では代用できないものも多い。例えば、航空機のタイヤは、高度
の弾性と耐熱性を必要とするために、天然ゴムで作られなければならない。
 熱帯林の破壊により、われわれ人類は、こうした巨大な遺伝子プールと資源供
給源を失うことになるのである。今日の大きな問題状況は、無限の潜在的可能性
を秘めた熱帯林が、人類に対してどのように貢献し得るかを十分に理解する以前
に、これを地球上から抹消してしまう恐れがあるということである。
 第二に指摘されなければならないのは、地球温暖化の問題との関連である。従
来、大気中の炭酸ガスの濃度の増加による「温室効果」の原因としては、石炭、
石油などの化石燃料の使用の増大の問題が主として取り上げられてきた。しかし、
最近では、森林の量的減少が、かかる温室効果のもう一つの大きな原因であるこ
とが知られるようになってきている。
 熱帯林の破壊は、二重の意味において、炭酸ガスの濃度の増大をもたらしてき
ている。一つには、特にアマゾンにおいて繰り広げられている無差別な焼畑農業
によって、炭酸ガスが大気中に直接に放出されているためであり、もう一つには、
熱帯林の消失が、炭酸ガスの吸収能力を減じているためである。
 このように、熱帯林は、地球上の炭酸ガスの一大吸収源であるが、これが失わ
れることになれば、地球の温度上昇に拍車がかかることになる。地球温暖化によ
り、南極及び北極の氷が解け出すことにでもなれば、海面の上昇により、世界の
各地で水没現象を招きかねないであろう。

以上2章。   sci1009:狩野

#0005 sci1009  8905201859

3.インディオの受難
 1492年に、コロンブスがアメリカ大陸を発見した当時には、アマゾンの流
域には、600〜900万人のインディオが楽園を築いていたと推定されている。
しかし、ヨーロッパ人の入植以降、人口は大幅に減少してしまった。1900年
には、100万人前後にまで減り、今日では、20万人以下にまで減ってしまっ
ている。
 この点は、部族数の減少という形でも現れている。今世紀の始めには、ブラジ
ルには、230の部族が存在していたと推測されているが、その半分以上がすで
に絶滅してしまっている。森林を生活基盤としていた部族のうちでは、87部族
が、今世紀に入って根絶してしまったとみられている。
 たとえ絶滅を免れたにしても、多くの部族が、その人口数を大幅に減少させて
きている。例えば、ナムビカラ(Nambiquara)族の場合には、人口数は、今世紀中
に、10,000人から1,000人に減ってしまった。テンベ(Tembe) 族とテ
ィンビラ(Timbira) 族の場合には、その人口は、6,000人から、60人以下
にまで落ち込んでしまっている。
 こうしたインディオの人口数の減少は、ヨーロッパ人による大量虐殺と流行病
の蔓延という二つの原因によるものである。死亡数という点からみれば、後者が、
主要な原因である。今世紀に入ってからの87部族の消滅は、主として流行病に
よるものであった。
 インディオは、黄熱病などの病気に対しては、強い抵抗力を有している。しか
しながら、はしか、結核、インフルエンザなどは、森林に住む人々の間にはみら
れない病であるが故に、こうした伝染病に対しては殆ど免疫性を有していない。
このため、インディオは、外部から持ち込まれる流行病により、次々と命を落と
してきたのである。
 第2次世界大戦後には、ブラジル政府は、インディオ社会に対して特別の配慮
を払うことの必要性を認め、政府機関として、インディオ保護局(SPI) を設立し
た。しかし実際には、SPI は、インディオを保護するどころか、大量虐殺さえも
企てた。1950〜60年代には、SPI の職員が、投機家、大土地所有者と組ん
で、インディオを絶滅させるために、天然痘、インフルエンザ、はしか、結核な
どの病原菌をインディオ社会に意識的に持ち込んでいた。このような事実が明ら
かとなったために、1967年には、SPI は解体され、新たに連邦インディオ局
(FUNAI) が創設されることとなった。しかし、FUNAIもまた、インディオ社
会の保護のために、有効な機能を果たしてきていない。特にインディオの居住地
域の境界画定については、FUNAIは、積極的な姿勢を示してきておらず、後
向きの態度が目立ってきている。
 こうした状況の下で、今日、インディオは、ヨーロッパ人の入植以来の新たな
受難の時代を迎えるに至っている。その主要な原因は、ブラジル政府の進めてい
る大規模開発プロジェクトの実施によるところが大きい。例えば、スルイ(Surui) 
族は、1970年代に道路建設によって居住地域を二分された上に、1980年
代には大カラジャス計画の開始により、木材伐採業者、金採鉱者、入植農民、牧
畜業者などの流入のために生存基盤を奪われ、部族全体が事実上崩壊してしまっ
ている。
 カヤポ(Kayapo)族の場合にも、事態は深刻である。彼等の居住するゴロティレ
(Gorotire)地区には、金採鉱者が押し寄せてきている。カヤポ族は、1982年
以来、ブラジル政府に適当な措置を講ずるよう要請してきた。しかし、ブラジル
政府は、何らの改善策をもとろうとしなかった。そのため、カヤポ族は、198
5年7月に直接行動に出て、採鉱者を襲い、彼等を10日間にわたって拘束し、
パイアカン(Paiakan) 酋長らがブラジリアに赴き、ブラジル政府に対して、次の
二つの要求を行なった。一つは、カヤポ族の居住地域の境界画定を行なうこと、
もう一つは、採鉱者が5%のコミッションをカヤポ族に支払うことであった。後
者の要求については、ブラジル政府により受け入れられるところとなり、カヤポ
族は、これを利用して、トラック、小型飛行機などを購入して、交易の手段とし
てきている。前者の要求については、ゴロティレ地区をはじめ幾つかのインディ
オ居住地域について保護区の設定が認められたが、バカジャ(Bacaja)、クベンコ
クレ(Kubenkokre)などの居住地域については、今だに境界画定がなされていない。
 このため、カヤポ族の居住地域には、多数の金採鉱者が、密かに侵入するとい
う事態が依然として続いている。さらに、木材伐採業者が、特にマホガニーを求
めて、押し寄せている。
 これに加えて、カヤポ族は、今日、新たな難問に直面している。というのは、
近年、ブラジル政府がシングー川に幾つかの大規模ダムを建設しようとしている
からである。これが実現すると、カヤポ族の居住地域の相当部分が水没してしま
うことになる。

以上3章。   sci1009:狩野

#0006 sci1009  8905201901

4.ブラジル政府の入植政策
 ブラジルでは、人口1億3800万人のうち、約30%の人々が絶対的貧困の
状態にあるとされている。他方において、6億エーカーの耕作可能地が未耕作の
ままに放置されている。従って、これを活用するならば、アマゾンに手をつけな
くとも、一農家当り10エーカーの農地を配分することができる。
 しかし、ブラジル政府は、大土地所有者の意向に逆らってでも農地改革に乗り
出すつもりはない。こうして、貧農、貧困層の不満をそらすための手段として、
「土地なき人々に、人々なき土地を」(a land without people,for a people wi- 
thout land) のスローガンの下に、アマゾンへの集団移住政策を推し進めてきて
いるのである。
 それ故、ブラジルにおいて何よりも必要なのは、土地改革であって、4,5%
の土地所有者が耕地の81%を占めるという状況を改善することが、先決問題で
ある。これに手をつけずに、貧農、土地なし農などの貧困層の政治的不満をかわ
す目的から推進されてきているのが、アマゾンへの入植計画である。
 その代表的な例が、ポロノロエステ・プロジェクトと呼ばれる「ブラジル北西
部開発計画」である。これは、ロンドニア州の熱帯林を切り開いて、総延長1,
500キロメートルの貫通道路を建設し、これに沿って開拓地を造成し、何十万
人もの入植者を定住させようとするものである。1985年だけで、20万人が
ロンドニア州に移住したといわれる。
 しかし、熱帯林を伐採して開拓された土地は痩せており、農業には不向きなた
めに、定住構想は挫折をきたしている。大多数の人々が当初の入植地を数年のう
ちに放棄してしまい、新たな土地を求めて、熱帯林を次々に焼き払ってしまって
いる。こうして、イギリスの国土面積に匹敵するロンドニア州全域の森林が姿を
消そうとしている。

以上4章。   sci1009:狩野

#0007 sci1009  8905202224

5.アマゾン開発の政治的・経済的動機
 今日、アマゾンでは、熱帯林を切り開いて、道路、鉄道、ダム、農園、牧場、
産業パークなどを造成しようとする各種の大規模プロジェクトが展開されてきて
いる、その代表的な例が、大カラジャス計画である。これにより、イギリスとフ
ランスの国土面積を合わせた広さに相当する90万平方キロメートルもの地域に
おいて、開発フィーバーが生じている。そこでは、熱帯林が次々と剥がされ、イ
ンディオの居住地域には、入植者が乱入してきている。
 ブラジルの悲劇は、こうしたアマゾンの乱開発が、「国益」ないしは「経済開
発」の大義名分の下で、強引に押し進められていることである。これには、三つ
の政治的・経済的動機が絡んでいる。一つは、アマゾン地方の国境線を明確にし
て、国家主権を確定したいという政治的思惑である。このため、ブラジル南部の
牧畜経営者が進出して、熱帯林を切り開いて牧草地を造成すること、また外国企
業が進出して、工業、農業、商業などの一大産業パークをアマゾンに形成するこ
とが、奨励されてきているのである。
 アマゾン乱開発の二つ目の理由は、短期的考慮に基づく輸出促進策である。債
務累積問題に悩むブラジル政府は、外貨獲得のためには形振り構わずといった経
済政策を押し進めてきている。日伯合弁のアマゾン・アルミニウム、大カラジャ
ス計画、セラード農業開発計画などは、その典型的な例である。
 ブラジル政府が牧畜業に手厚い助成措置を講じてきたのも、こうした考慮から
である。ブラジル政府は、牛肉輸出を外貨獲得の重要な手段としようとしている
のである。このような政府の助成政策に則って、アマゾンでは、南部から進出し
てきた牧畜業者、さらにアメリカ、西ドイツ、日本などの外国企業により、土地
の買い占め合戦が繰り広げられてきている。例えば、西ドイツのフォルクスワー
ゲン社は、アマゾン東部(ツクルイの南部)に1,400平方キロメートルもの
広大な土地を取得している。フォルクスワーゲン社は、1974年にこの地に枯
葉剤を撒き、火を放った。火は何週間にもわたって燃え続け、膨大な熱帯林を灰
にしてしまった。フォルクスワーゲン社の思惑は、石油価格の高騰により、車社
会はいずれ終焉を迎えるかもしれないが、人間が牛肉を食べるのを止めることは
ないという計算である。事実、今日、アメリカを始めとして、先進国のハンバー
ガー産業とペット・フード産業で使用されているのは、ブラジルを中心とするラ
テンアメリカ諸国から輸出されている安価な牛肉である。
 アマゾン乱開発の三つ目の理由は、ブラジル東部で高まっている生活難、土地
の不公平配分などに対する政治的不満をそらすための手段として、アマゾン開発
が利用されてきているということである。アマゾンは、現在のブラジル政府の「
開発」政策の歪みに対する批判をそらすための恰好の生贄にされてきているとい
えよう。
 こうして、アマゾン横断ハイウェイ、ハイウェイ364号線、さらにそれから
枝分かれする支線を伝って、またカラジャス鉄道を伝って、土地なし農などの貧
困層の人々が、アマゾンに続々と入り込んでいる。しかしながら、熱帯林を伐採
して開拓された土地は痩せており、農業には不向きなため、大多数の入植者が数
年のうちに開拓地を放棄して、牧畜業者に土地を売り渡して、賃金労働者となる
か、それとも新たな土地を求めて熱帯林に入り込み、焼畑農業を次々と繰り返し
ている。 入植者が彼等の唯一の資産である土地にしがみついて頑としてこれを
手放さない場合には、大牧畜業者は、武力的威嚇でもってこれを譲り渡すよう強
要する。アマゾン地方では、大牧畜業者が、こうした目的のために、"pistoleir- 
os" と呼ばれるガンマンを雇い入れることが、一般化している。
 アマゾンでは、熱帯林を守ること、また自分の土地を守ることは、命がけの事
柄となっている。こうして、今日、アマゾンは、アメリカの西部劇に登場してく
る無法地帯と類似の状況を呈している。これを象徴するのが、1988年12月
22日に発生したチコ・メンデス(Chico Mendes)の暗殺事件である。彼は、アマ
ゾンの熱帯林を守るために、ゴム液採取者のリーダーとして活動してきたのであ
るが、大牧畜業者の雇用したガンマンによって射殺されてしまった。

以上5章。長いなあ。   sci1009:狩野

#0008 sci1009  8905272247

6.生活基盤を奪われるインディオ
 新天地を求めてアマゾンに入植した人々の多くは、数年を経ずして、定着農
業がいかに困難であるかを思い知らされる。こうして、夢破れて行き場を失っ
た貧農は、インディオの居住地域に入り込み、焼畑を始める。このため、貧農
とインディオとの間で土地をめぐっての衝突があちらこちらで発生している。
ある意味では、貧農も、ブラジル政府の「開発」政策の歪みの犠牲者であると
いえる。しかし、最大の犠牲者は、インディオであり、「開発」政策の誤りの
ツケが彼等にすべて皺寄せされている。ブラジルの悲劇は、大土地所有者と外
国企業のみが優遇され、貧農とインディオがともに生存をかけて争わなければ
ならないという点にあるといえよう。
 アマゾン地方では、入植者とインディオとの間での対立は、頻繁に発生して
きている。例えば、1985年2月6日には、200人のアピナイ(Apinaye) 
族がアマゾン横断ハイウェイを封鎖し、さらに100人のインディオが入植農
民によって設けられた境界柵を取り除いて、土地所有権を主張した。これに対
して、農民側は、インディオに対する武力攻撃の構えを示した。このため、1
20名の警官隊が両者の間に割って入ることとなった。2月16日には、アピ
ナイ族の4名が、ブラジリアまで出掛け、抗議を行ったが、徒労に終わってし
まった。
 グアジャジャラ(Guajajara) 族の場合には、大規模開発プロジェクトの実施
と入植農民の侵入という双方の影響をもろに被ってしまっており、部族の存亡
そのものが危機にさらされている。彼等が居住するピンダレ(Pindare) 保護区
内には、カラジャス鉄道、ハイウェイ316号線が走っているほか、飛行場ま
でも作られてしまっている。1982年に、コマラ(Comara)建設会社がFUN
AIから飛行場建設の認可を取得した際に、インディオは、猛反対をした。そ
のため、工事は、一時中断されたが、結局は強行されてしまった。こうした状
況に抗議して、1984年5月に、40名のグアジャジャラ・インディオが、
サン・ルイスのFUNAI地域事務所を占拠し、境界画定問題を含めて、事態
の改善を求めた。しかしながら、境界画定問題については、FUNAIにより
未だに何らの措置も講じられてきていない。
 ロンドニア州におけるポロノロエステ計画の場合には、インディオの蜂起は、
世界銀行(World Bank)までをも揺るがすこととなった。この入植計画に対して
は、世銀は、1981年以来、4億3440万ドルの融資を行ってきた。しか
し、1984年に、インディオが、12人の入植者を人質にとり、不法侵入に
抗議するという行動に出たのをきっかけとして、アメリカ、ヨーロッパの各種
の環境保護団体、人権保護団体などが、世銀によるこのプロジェクトへの融資
を批判するキャンペーンを展開した。そのため、世銀は、1985年3月に、
ブラジル政府が原住民保護及び環境保護に関する融資条件を遵守していないこ
とを理由に、このプロジェクトへの融資を停止するに至った。これは、、世銀
始まって以来の出来事であった。しかし、世銀は、その後数ヵ月を経ないうち
に、事態が改善されたとして、融資を再開してしまった。

以上6章。だいぶ空いてしまいましたが、ちょぼちょぼアップします。
   sci1009:狩野

#0009 sci1009  8905302211

7.ブラジル政府のインディオ政策
 ブラジルでは、インディオは、法的には「相対的無能力者」として取扱われ
ており、彼等は基本的人権でさえも尊重されていない。こうした待遇の仕方が、
インディオに対する多くの虐待を生み出す社会的背景となっている。
 土地所有権に関しては、インディオは、建前としては、集団的所有権ともい
うべきものを認められることになっている。ブラジルは、ILO(国際労働機
関)条約第107号に加入している。この条約では、原住民の集団的所有権が
尊重されるべきことを定めている。ブラジル憲法の下では、インディオは、彼
等が居住する土地を恒久的に所有することと、そこでの天然の富を排他的に利
用することを保証されている(第198条)。しかしながら、ILO条約第1
07号及び憲法198条の規定は、殆ど尊重されてきていない。
 インディオの居住地域の半分以上については、未だに境界画定が行われてき
ていない。また、たとえ境界画定が行われていても、そこには道路、鉄道、送
電線が、次々に敷設されてきている。そして、こうした交通手段を伝って、農
民、入植者、牧畜業者、鉱山会社、採金者が続々と入り込んできている。
 先に触れたように、ブラジルでは、インディオの問題は、FUNAIによっ
て取扱われてきている。しかしながら、FUNAIは、インディオ社会の保護、
特に境界画定の問題には本腰を入れて取組んできていない。その根本的な原因
は、FUNAIが、インディオ社会の文化的多様性を尊重することには関心を
抱いておらず、ブラジル政府の進める「統合」政策の実施機関であるという点
にある。
 そのため、FUNAIは、インディオの利益と権利を擁護するための機関と
しては機能してきておらず、かえってインディオを開発プロジェクトのうちに
組み入れ、彼等を労働力供給源として利用するという役割を果たしてきている。
さらに、そればかりでなく、FUNAIは、インディオ向け予算を自らの官僚
機構の維持のために充てるとともに、これを私的目的のために流用するという
腐敗性さえ示してきている。

以上7章。やっと半分くらいです。   sci1009:狩野

#0010 sci1009  9001141103

8.ツクルイ・ダムの惨状
 インディオの生活基盤をとりわけ大きく奪ってきているのは、大規模ダムの
建設である。この点での典型的な例は、ツクルイ・ダムにみられる。このダム
については、世銀は、1970年代に融資を拒否した。しかしながら、第1次電力
部門融資の下では、ブラジル政府が「環境マスター・プラン」を作成すること
を条件に、ツクルイ・ダムへの融資を行うことを決定した。しかし、ブラジル
政府は、「環境マスター・プラン」を作成しないままに、1975年にダム建設工
事に着手してしまった。
 ツクルイ・ダムは、発電量の点からみれば、世界で3番目に大きいダムであ
る。このダムは、熱帯林においてこれまでに建設された人工貯水池としては最
大のものである。これにより、2160平方キロメートルの森林が水没し、およそ
1万5000人の人々が移住させられた。
 ブラジル国有電力会社エレトロノルテ(Eletronorte) 社は、当初、水没する
樹木を伐採する意図を有していなかった。しかし、専門家の意見を考慮に入れ
て、エレトロノルテ社は、一定の地域について樹木を取り除くことを決定し、
このための契約をカペミ(CAPEMI)社と結んだ。しかし、この会社は、それまで
に木材伐採の経験がなかった。カペミ社は、フランスのコンサルタントを雇い、
またパリ国立銀行の融資を受けて、作業にとりかかった。しかし、悲しいかな
経験不足のために、作業ははかどらず、1983年の始めには、伐採を殆ど行わな
いままに、この会社は、倒産してしまった。
 このため、ダム建設を急いだエレトロノルテ社は、飛行機により枯れ葉剤を
散布することにした。その影響は、今日、貯水地域ばかりでなく、トカンティ
ンス川の下流地域にも現れている。また、除去されないままに水底に沈められ
た樹木が腐敗・分解し、メタンガス、亜硫酸ガスなどの悪臭を放っている。の
みならず、酸性化した水質は、タービンなどの発電施設を腐食させる原因となっ
ている。同様な惨状は、ワトゥマン(Uatuma)川に1986年に建設されたバルビナ
(Balbina) ダムにおいても、発生している。
 ツクルイ・ダムはまた、インディオの生活基盤をも奪ってしまった。最も大
きな影響を受けたのは、アスリニ(Asurini) 族とパラカナ(Parakana)族である。
アスリニ族のトロカラ(Trocara) 保護区は、ツクルイの町から北方24キロメー
トルのところに位置しているために、ダム建設の影響を直接に被ることとなっ
た。トロカラ保護区には二本のハイウェイが敷設されたが、アスリニ族には何
らの補償も支払われなかった。また、これらのハイウェイを伝って、入植者、
牧畜業者が続々と保護区内に入り込んでしまっている。こうして、アスリニ族
の伝統的社会は、大きく歪められ、実際上解体してしまっている。
 ダム建設により、パラカナ族もまた大きな被害を受けた。プクルイ(Pucurui) 
保護区の半分以上が水没し、さらにパラカナン(Parakanan) 保護区の10%が水
没してしまった。パラカナ族は、ダム建設について、また移住先についても、
何ら相談されなかった。1977年に、エレトロノルテは、パラカナ族の居住地域
の一部が、ツクルイ水力発電所計画のために、水没の対象となると一方的に発
表した。そして、翌年には、FUNAIは、インディオによって要求された315000
ヘクタールの半分にも満たない保護区の創設を勧告した。しかしながら、移住
を勧告された土地には、貧農がすでに移り住んでいた。
 パラカナン保護区の水没を免れた地域は、開発の嵐に見舞われている。1981
年までにパラカナン保護区には、森林を切り開いて幅15メートル、長さ6キロ
メートルにわたる道路が敷設された。この道路を伝って、錫採鉱者とツクルイ・
ダムから立ち退かされた入植者が次々と入り込んできている。
 ツクルイ・ダムによって生産される電力は、カラジャス鉱山、カラジャス鉄
道、アルミ精錬工場によって消費される。皮肉なことに、ダム建設のために強
制移住させられたインディオは、これによって何らの恩恵も受けず、未だに電
灯のない生活を続けているのである。

以上8章でした。久々のアップでした。      かの

#0011 sci1009  9001152348

9.大カラジャス計画
 世界最大といわれるカラジャス鉱山の発見は、偶然の出来事であった。1967
年にアマゾン地方で地質調査を行っていたヘリコプターが、故障のためにパラ
州の南部に不時着をした。着地した場所には、一面に鉄鉱石が露出していたの
である。
 1973年に、ブラジル国営鉱業会社リオ・ドセ社(CVRD,Companhia Vale do Rio 
Doce) は、日本の製鉄各社に対して、鉱山開発プロジェクトへの参加を打診し
てきた。その後、1979年には、CVRDは、このプロジェクトへの協力を日本政府
に改めて求めるとともに、経団連に対しても支援を要請した。これに応えて、
経団連は、財団法人・国際開発センター(IDCJ,International Development Center
of Japan) に調査を委託した。IDCJは、同年8月に、「カラジャス地域開発計
画予備調査団」をブラジルに派遣した。また、翌1980年には、経団連は、日伯
経済委員会の下に「カラジャス地域総合開発協力委員会」を設置した。
 一方、同年2月には、ブラジル政府は、日本政府に本格的なフィージビリティ
調査の実施を依頼してきた。この要請を受けて、日本政府は、同年10月に、コ
ンタクト・ミッションを派遣し、大カラジャス地域開発に関するマスタープラ
ンを2年間で作成するという了解を両国間で行った。
 マスタープランの作成は、国際協力事業団(JICA,Japan International Cooperation 
Agency) により、IDCJに委託された。IDCJは、大来佐武郎氏を団長とする調査
団を組織し、二段階にわけて調査を行った。フェーズI(1982 〜1983年) では、
開発可能産品の国際競争力と長期市場予測についての調査が行われ、フェーズ
II(1984 〜1985年) では、大カラジャス地域における鉱産品及び農林産品の開
発ポテンシャル評価と開発ガイドラインの作成が行われた。
 このIDCJの調査は、大カラジャス地域に悲劇的な結果をもたらすこととなっ
た。まず第一に指摘されなければならないことは、これらのいずれの報告書に
おいても、かかる開発プロジェクトがインディオ社会に対して及ぼす影響につ
いては何ら触れられていない点である。いずれの報告書においても、インディ
オという言葉さえも見られない。大カラジャス地域は、あたかも無人の荒野で
あるかのごとくに取り扱われているのである。
 第二に、このマスター・プランが、その後の大カラジャス地域の開発の方向
性を決定づけるものとなったことが指摘されなければならない。CVRDは、当初、
掘り出された鉄鉱石を鉄道でサン・ルイスまで運び、そこから外国へ輸出する
という限定的なプロジェクトを予定していたのであるが、IDCJのマスター・プ
ランにおいては、このような構想の下では、開発コストが高くつきすぎるとい
うことを理由に、これに牧場開発、農業開発、森林開発、工業開発、電源開発、
などを組み合わせた総合開発方式を提示している。こうして、イギリスとフラ
ンスを合わせたほどの広大な規模の地域が大きく変貌させられることになった。
開発対象地域の50%は、熱帯林であるが、このような総合開発計画の下で、何
百万ヘクタールもの熱帯林が、今日、破壊の危機にさらされているのである。
 第三に指摘されなければならないのは、ブラジルでは石炭が産出されないこ
とから、IDCJのマスター・プランでは、製鉄に木炭を使用することを提言して
いることである。熔鉱所での需要を賄うために、木材伐採業者とこれをかき集
める専門仲買人によって形成される「木炭軍団」(charcoal army) が、現在、
自然林を次々に伐採してきている。こうして、カラジャス鉄道に沿って、エル
サルバドルの国土面積の4分の3に匹敵する150 万ヘクタールにものぼる原生
林が破壊されつつあるのであって、今後15〜20年以内にはこの地方の自然林は
姿を消してしまうものとみられている。
 自然林の消滅は、この地域に生存するインディオの生活基盤そのものを奪う
ことになる。大カラジャス計画により、およそ40のインディオの集落が開発の
犠牲となり、1万3000人以上のインディオが、その生活基盤を失うことになる。
 大カラジャス計画により部族全体が存亡の危機に直面しているのは、キクリ
ン(Xikrin)族である。キクリン族の居住するカテテ(Catete)保護区は、カラジャ
ス鉱山に隣り合っているため、鉱山開発の影響を直接に受けることになる。ま
た、保護区内には、二つの大きな木材会社と牧畜経営者がすでに入り込んでお
り、彼等は地図を捏造することにより、土地所有権を主張している。これに加
えて、4万5000人以上の採金者が保護区内に侵入しており、彼等によって使用
される水銀がこの付近一帯の河川を著しく汚染している。
 ガビオ(Gavioe)族もまた、大カラジャス計画の直接的な影響を受けている。
彼等の居住するマエ・マリア(Mae Maria) 保護区には、二本のハイウェイとカ
ラジャス鉄道、さらに送電線が縦横に走っており、部族社会全体がズタズタに
引き裂かれてしまっている。しかも、こうした交通手段を使って、貧農、牧畜
業者などが押し寄せてきている。
 ブラジルにおける最後の遊牧・狩猟民族といわれるグアジャ(Guaja) 族もま
た、生存の瀬戸際に立たされている。グアジャ族は、カラジャス鉄道の支線で
あるパラゴミナス線の敷設に伴って、これを伝って侵入してくる入植者により
居住環境を破壊されつつある。しかも、この鉄道の沿線では、牧場、農園、鉱
工業などの各種の開発プロジェクトが目白押しである。グアジャ族は、300 年
前には、パラ州の大西洋岸において、農耕社会を営んでいたのであるが、ヨー
ロッパからの植民者に追われ、この地に移り住んだ。しかし、さらにこの地を
追われることになれば、もはや行くべき場所は彼等には残されていないのであ
る。
 アピナイ族、グアジャジャラ族が、入植者との間で土地の境界をめぐって対
立を続けてきていることは、先にみた通りである。クリカチ(Krikati) 族、カ
ネラ・ランコカメクラ(Kanela-Rankokamekra) 族、アマナイエ(Amanaye) 族、
アナンベ(Anambe)族なども、大カラジャス計画の影響を直接又は間接に受けて
いる。これらのインディオも、カラジャス鉄道、ハイウェイを伝って新たに入
植してきた小農と土地や獲物をめぐって争うことを余儀なくされ、またこれら
の農民の襲撃にさらされている。大規模牧場経営者も、ガンマンを雇い、イン
ディオへの襲撃を繰り返してきており、彼等の追い出しにかかっている。
 大カラジャス計画に対しては、世銀、EEC などの資金とともに、日本輸出入
銀行、東京銀行などの邦銀の資金が注ぎ込まれてきている。この意味において
も、わが国は、熱帯林の破壊とインディオの虐待に加担しているといわれても、
仕方のないことといえよう。

以上9章でした。      かの

#0012 sci1009  9001152352

10.シングー・ダム計画
 ブラジル政府は、第1次電力部門融資の下で作られたツクルイ・ダム、バル
ビナ・ダムが惨憺たる状況を呈していることへの何らの反省もみせずに、また
世銀によっても十分な電力余剰が存していると指摘されているにもかかわらず、
新たに「電力部門2010年計画」を打ち出してきている。これは、2010年までに
136 の水力発電用ダムを建設しようとするもので、大多数は、アマゾン川流域
において建設を構想するものである。これが実現すると、2万5994平方キロメー
トルもの広大な熱帯林が水没するばかりでなく、50万人以上の人々が強制移住
の対象となる。特にインディオは、甚大な影響を受け、シングー川流域の五つ
のダム建設だけで、スイスの半分の面積に相当する1万8000平方キロメートル
が水没し、少なくとも4000人のインディオが生活基盤を破壊される。とりわけ
深刻な影響を受けるのは、カヤポ族である。
 シングー川に計画されているババカラ(Babaquara) ダムとカララオ(Kararao) 
ダムは、それぞれに5600平方キロメートルと1225平方キロメートルの原始林を
水没させることになる。特にババカラ・ダムが世界の関心を集めているのは、
これが建設されると、世界最大の人造湖が出現するという事柄とともに、約5
万年前の氷河期に動植物の「避難所」になったために、とりわけ地球上で最も
貴重な種が集中している個所が水没してしまうためである。
 このプロジェクトを実施する目的で、ブラジル政府は、1987年に世銀に対し
て5億ドルの借款を申し込んだ。同時に、日本輸出入銀行に対しても、10億ド
ルの融資を要請した。これが、第2次電力部門融資と呼ばれるもので、この融
資が認められるかどうかは大きな国際的関心の的となってきた。そして、世界
各国の環境保護団体、人権保護団体は、世銀に対して、かかる融資を行わない
よう圧力をかけてきた。
 このような国際世論の高まりの中で、カヤポ族の二人の酋長パイアカンとク
ベイ(Kube-i)は、1988年1月に、アメリカのフロリダで開催された熱帯雨林会
議に招かれ、二人は、アメリカ人の民族植物学者ポセイ(Darrell Posey) 博士
に伴われて、これに参加した。この会議の後、二人は、ワシントンを訪れ、各
国の世銀理事、アメリカの国会議員、財務省、国務省などに融資決定を思い止
まるよう要望した。
 その帰途、二人とポセイ博士は、ブラジル当局により、「外国人法」違反の
嫌疑で拘束された。驚くべきことに、二人のインディオは、ブラジル人として
ではなく、外国人として取り扱われたのである。拘禁理由は、外国人法では、
外国人がブラジルの内政に干渉することを禁じていることから、これにひっか
かるというのであった。そして、同年8月11日には、ブラジル当局は、ポセイ
博士と共同研究を行ってきた民族植物学者と文化人類学者を全員インディオ居
住地から追放するという挙に出た。
 三人の嫌疑に関する第1回目の裁判は、同年8月26日にパラ州の連邦裁判所
において開かれた。しかし、クベイ酋長は、出頭を拒否した。第2回目の裁判
は、10月14日に開かれた。今度は、クベイ酋長は、民族衣装を纏って現れた。
しかし、裁判長は、クベイ酋長の入廷を拒否した。その理由は、酋長が「シャ
ツとパンツ」を纏っていないが故に、法廷侮辱罪にあたるというのであった。
 これに対して、クベイ酋長の弁護士は、インディオが自らに選択する服装を
するのは、基本的人権であると反論した。しかし、裁判長は、この主張を認め
ず、二人の酋長を精神鑑定にかけることを命じた。これに異議を唱えて、弁護
側は、人身保護令状を要求して対抗した。
 その後、二人は、1988年11月〜12月にかけて、イギリス、オランダ、イタリ
ア、西ドイツ、ベルギー、カナダ、アメリカを歴訪し、これらの国々の人々に、
シングー・ダム計画への世銀融資に反対するよう訴えかけた。

以上10章でした。のこり3章です。      かの

#0013 sci1009  9001162342

11.蜂起したインディオ
 シングー・ダム建設への反対意思を内外に向けて強くアピールするために、
カヤポ族は、他のインディオ部族に呼び掛けて、本年(かの注−−1989年)2
月21日〜26日にかけて、アルタミラにおいて、一大抗議集会を開催した。この
会議には、ブラジル各地からインディオの代表が参集し、その数は、1000人以
上にも達した。欧米をはじめ世界各地からも、多数の人々がこれに参加した。
カナダの環境保護団体が、この会議の開催のための資金的支援を行った。イギ
リスからは国会議員も参加した。日本からは、地球の友の田中幸夫氏が出席し
た。
 この会議において、エレトロノルテの技術担当責任者のロペス(Jose Antonio 
Muliz Lopes)氏は、「ダムが建設されるならば、それによって進歩がもたらさ
れる」と強調した。これに異議を唱えて、インディオは、一斉に立ち上がり、
ヤリを振りかざして不賛同の意思表示を行った。この時、突然に一人のインディ
オ女性がロペス氏に近付き、彼の首元に小刀を突き付けて、「あなた方は、ウ
ソつきです。私達は、電力など必要としません。電力は、私達に食べ物をもた
らしません。私達に必要なのは、自然に流れる川です。私達の将来は、このよ
うな川にかかっているのです。私達に必要なのは、狩猟・採取のできる森林な
のです。私達は、ダムを望んでいません。あなた方が私達に語っていることは、
すべてウソです」と述べた。会場には、一瞬緊張した雰囲気が漂った。
 これに構わず、ロペス氏は、話を続けて、「ダム・プロジェクトは、インディ
オの居住地域のごく小部分のみを水没させるだけです。せいぜいのところ、216 
人の人々の移住が必要なだけです」と説明した。しかし、インディオは、これ
に反論して、「あなた方の考えていることは、経済のことだけです。あなた方
は、私達のことを考えようとはしません」と述べ、「あなた方は、より広範な
調査を行うつもりであるとおっしゃいます。しかし、そんな調査は必要ではあ
りません。ダムは、厄災をもたらすだけです。あなた方は、ご自分達が建てら
れた他のダムを眺められるだけで十分です」といい、「政府は、私達を統合し
ようとしております。しかし、はたしてこれが私達を助けることになるのでしょ
うか。このアルタミラの町を見てご覧なさい。惨憺たる状況ではありませんか。
これが、あなた方により私達に提供されるものなのですか。これが、進歩なの
ですか。あなた方は、こうした悲惨な状況を改善するために、どうして国費を
使おうとしないのですか。あなた方は、ご自分達の建てられたダムが金持を潤
すだけであるということを、いつお気付きになられるのですか。あなた方はど
うして私達のいうことに耳を傾けようとされないのですか。私達は、この地に
何千年にもわたって住んでいるのです。どうすればこの地でうまく生きて行け
るかを、私達の方からあなた方にお教えしましょう」と述べた。そして、「私
達の‘貧困’を救うなどということを、どうぞおっしゃらないで下さい。私達
は、貧しくはありません。私達は、ブラジル中で最も豊かなのです」と発言し
た。
 これに続いて、ツクルイ・ダムのために強制移住させられたガビオ族の酋長
は、彼等の味わった経験を次のように語った。「エレトロノルテは、私達に補
償を支払うといいました。しかし、法廷では、私達の請求を拒否いたしました。
私達は、一銭も受け取っておりません。エレトロノルテは、私達に支払ったと
いっていますが、私達は、貰っておりません。エレトロノルテとは協定を一切
結んではなりません。彼等は、信用できません。エレトロノルテは、調査を行っ
ているだけだといっております。私達に対しても、同じ事をいいました。しか
し、調査ごとに私達の運命の方向を固定化してしまいました。彼等は、少しづ
つ既成事実を積み上げていったのです。そして、遂には、ダムが建てられてし
まったのです」と語った。
 カヤポ・インディオの一人は、ロペス氏に対して、次のように語りかけた。
「あなた方は、ダムを‘カララオ’と名付けられました。あなた方は、これが、
カヤポの言葉で何を意味するか御存知なのでしょうか。これは、‘戦争’を意
味しているのです。そして、もしもあなた方がダム建設を強行されるのであれ
ば、起こり得る事態は、まさに戦争なのです」。

以上11章です。      かの

#0014 sci1009  9001180054

12.日本の責任
 アルタミラでの会議の後、インディオに一つの朗報がもたらされた。世銀が、
本年(かの注−−1989年;以下同じ)3月24日に、第2次電力部門融資を行わな
い旨を明らかにしたのである。これに代えて、世銀は、ブラジル政府に対して、
環境保護融資として3.5 〜4億ドルを、また、エネルギーの効率利用向けに1億
ドルを供与することを決定した。
 しかし、このことは、ブラジル政府がシングー・ダム計画を断念したというこ
とを意味するものではない。世銀の資金を期待できなくなったブラジル政府が最
後の拠り所としているのは、日本からの融資である。日本政府は、200 億ドルの
途上国資金還流計画の一環として、昨年、ブラジルへの円借款・輸銀の供与基準
を緩め、同国への融資を再開する旨を明らかにした。そして、本年2月23日には、
大喪の礼に出席のため来日したサルネイ大統領に対して、竹下首相は、総額15億
ドルの円借款・輸銀融資を行う旨を表明した。われわれ日本人は、かかる融資資
金がシングー・ダム建設のために使われないよう監視の眼を光らせて行かねばな
らない。
 同時にまた、われわれ日本人は、われわれの浪費的なライフスタイルが熱帯林
の乱伐を招いてきていることについても、考え直してみる必要がある。その幾つ
かの例を挙げてみるならば、まず第一に、紙の無駄使いの問題がある。紙の原料
となるパルプ・チップの相当量が熱帯諸国から輸入されている。近年、わが国は、
ブラジルからのパルプの輸入を増加させてきている。
 第二に、木材の浪費がある。特に建築現場で使われるコンクリートの型枠には
熱帯木材が用いられているのであるが、これらは、使い捨ての状態である。目下
のところ、熱帯木材の主要な輸入先は、マレーシア、インドネシアなどの東南ア
ジア諸国であるが、ブラジルからの製材の輸入も増え始めている。
 第三に、割り箸の使い捨ての問題がある。今日、割り箸の相当量が、パプアニュー
ギニア、フィリピンなどの熱帯諸国からも輸入されている。これまでのところ、
わが国は、割り箸をブラジルからは輸入していないが、割り箸の使い捨ては、わ
れわれの浪費的な生活習慣が、熱帯林の減少を招いていることを象徴する事柄で
あるといえよう。
 第四に、使い捨ての問題は、ダンボールについてもみられる。一般に、ダンボー
ルの中身には再生紙が用いられているのであるが、外面の部分は、新たに輸入材
によって作られる。ブラジルからの輸入材が、こうした方面で使われているわけ
ではないが、これもまた、われわれの生活スタイルそのものを見直してみなけれ
ばならない問題であるといえよう。
 第五に、仏壇の問題がある。今日、成り金ニッポンでは、高級品嗜好が強まり、
ご先祖様のために仏壇を新調しようとする家庭が多い。しかし、その原料となる
シタン、コクタンが、熱帯地方から持ち込まれていることを知る人は少ない。こ
れらは、熱帯地方でも稀少な樹木である。しかも、これらの樹木を伐採し、運び
出すために、周りの木々を随分と犠牲にしてしまう。これでは、ご先祖様も、決
してお喜びにはならないであろう。
 第六に、ハンバーガー、ペット・フードの問題がある。これらが安いのは、ブ
ラジルをはじめとするラテンアメリカ諸国からの輸入牛肉を使っているからであ
る。われわれは、ファースト・フード産業が成り立っているのは、熱帯林の犠牲
においてであることに留意する必要がある。
 第七に、わが国がブラジルから輸入しているアルミニウムが、熱帯林とインディ
オの犠牲の上に建設されたツクルイ・ダムの電力によって生産されたものである
ことを忘れてはならない。
 第八に、日本がブラジルから輸入している鉄鋼が、アマゾンの熱帯林を伐採し
て作られた木炭を用いて精錬されたものであることについても、留意する必要が
ある。

以上12章です。      かの

#0015 sci1009  9001180056

13.スティングの構想
 これまでにみてきたところから知られるように、ブラジル政府は、インディオ
の居住地域を保証するための境界確定を十分に行ってきていない。それどころか、
インディオの居住地域内に道路、鉄道、送電線を通したり、インディオへの何ら
の相談も行わずに、居住地域をダムでもって水没させてきている。FUNAIは
また、インディオの立場を擁護するどころか、インディオを開発プロジェクトの
うちに組み入れることに腐心してきている。FUNAIは、「対内的植民地主義」
(internal colonialism)と「人種絶滅」( ethnocide)政策の実施機関に成り下がっ
てしまっている。このままでは、インディオが長年にわたって築いてきた独自文
化は失われてしまうばかりでなく、インディオの生存そのものが、この地球上か
ら抹殺されてしまうことになりかねない。
 こうしたことから、スティングは、世界各地を回り、熱帯林の保護の重要性と
インディオの窮状を訴える活動を行なっている。具体的には、募金活動を通じて、
カヤポ族の居住するゴロティレ地区をはじめ、幾つかの地域を保護区として確保
することを目指している。このために彼によって設立されたのが、「レインフォ
レスト財団」である。この財団への寄金は、次の三つの目的のために使われると
されている。(1)アマゾンの熱帯雨林に国立公園を作ること、(2)インディ
オの権利を保護すること、(3)環境教育の重要性を世界各国に訴えること。
 彼の活動は、インディオに希望の光を与えるものである。また、アマゾンの問
題、熱帯林の問題、さらには地球環境の問題に対する世界の人々の関心を高める
上でも、大きな意義を有している。
 しかしながら、前途に数多くの難問が横たわっていることもまた事実である。
ブラジルでは、多くの国立公園、自然保護区が単なるペーパー・パークに終わっ
てしまっており、また境界画定がなされたインディオ保護区に入植者、牧畜業者
が押し入ってしまっている。それ故、差し当たっては、国立公園、インディオ保
護区の設定に向けての国際世論を盛り上げ、これの実現をブラジル政府に働き掛
けて行くことが重要であるといえるが、次のステップとしては、これを単なる絵
に画いた餅に終わらせずに、いかに実効的なものとして行くかという問題が浮か
び上がってくるといえよう。
 前途にはこうした難題が残されているとはいえ、スティングのかかげた一灯は、
アマゾンの熱帯林とインディオの問題の解決に向けての重要な第一歩であるとい
える。しかしながら、ここで留意しなければならないのは、もしもシングー・ダ
ムが建設されることになれば、彼の努力も水泡に帰してしまうということである。
わが国のブラジルへの融資資金が、かかるダム建設に使われるようなことは、是
非とも避けたいものである。こうした意味で、われわれ日本人の責任は、極めて
大きいといえよう。

以上13章。本文部分全て終わりです。
      かの

#0016 sci1009  9001180100

地図については省略させて頂きます。悪しからず。

訂正・13章アタマ「境界確定」→「境界画定」

      かの

#0017 kimot    9001200301

余談ですが...

アマゾン奥地のアクレ州と、ペルーの首都リマを結ぶ国道364
号の舗装計画が、2年ぶりに米州開発銀行(IDB)の融資で再
開されるという報道が、89年7月23日の朝日新聞にありました。
舗装計画には、無秩序な入植と森林破壊をもたらすとして反対の
声がありましたが、ブラジル政府は付近の環境と約1万6000人の
先住民の生活を守るという約束で融資をとりつけたそうです。

ブラジルの新大統領は、若い人ですが、大農場主などを支持層に
持つ保守派だそうです。つまり、土地解放による都市貧民(ファ
ベイラ)の救済という政策は取れないことでしょう。残されたチ
ョイスは、「未開」の大地の開発しかないということです。ある
いは、環境を「モラトリアム」の最強カードとして提示するよう
な荒技をやれたりするだろうか?

木元・拝

#0018 sci2919  9001211859

 狩野閣下へ
 ご苦労様でした。
あまりの矢継早のレス、あまり根を詰めないように、と言う機会を失ってし
まいました。
 蛇足
 岩波新書から発行されている鷲見氏の「ODA援助の現実」を買いました。
熟読してませんが、この本を要約したものが狩野閣下がレスされた「スティン
グ来日・・・」のようです。
日本の経済援助の多くが無償ではなく有償であることに問題がありそうです。
ODAの援助が有償である限り、ODAによる環境破壊が続きそうです。

p.s.
この本は防衛軍必読の書ではないでしょうか。

             加藤 治

#0019 sci2714  9001221448

  加藤 閣下、

  「日本の経済援助の多くが有償であることに問題」という意見には疑問です。

  援助されているのは日本企業であるという部分を見逃しています。
  そして有償、無償ではなく、その援助の方法・対象が問題になっているのですから。

  この点に関しては会計検査院が調査結果を現在公表していませんが、かなり問題点を
  含んでいるとのコメントは出しているようです。なぜ公表しないかも話題になりまし
  たが。

  kita-3

#0020 sci2919  9001240016

 kita閣下へ
 「ODA援助・・・」は目次を見た程度で、軽はずみなレスをしました。
日本企業が援助されているとは知りませんでした。
援助された日本企業が援助をするということですか。すると、壊れたら修理
ができず捨てられるトラクターや食べられることなく野積みになるラーメン
が日本企業が行うODAの援助ということだったのですか。
ともかく、本を読んでみます。
蛇足
日本企業が行っている援助(ODAの事かどうかは分かりませんが)は意識
的に役に立たない物を援助しているとも聞きます。
このような話を聞かれた方いますか。

              加藤 治

#0021 sci2919  9001252249

 「ODAの援助の現実」を流し読みですが一応読み終えました。
援助というより収奪ですね。しかも、その国を腐敗させてしまうからたちが
悪い。
ODAの問題は1986年のマルコス政権の崩壊によって既に明らかになっ
ているにもかかわらず、いまもって改善されていないということになるので
しょうか。
新聞は一通り目を通していますが、政治や経済に興味がなく、気に止めなか
ったためか、この問題には全く気づきませんでした。
企業が絡んでくるとマスコミも口が重くなる傾向がありますから、ODA問
題に関してマスコミは活発さを欠いている可能性も・・・・・・。自分の無
知をマスコミのせいにしてしまった。
しかし、このような殺伐とした援助しかできない日本人は・・・
と考えるとなんのことはない、日本の政治構造そのものではないか。あり余
る金を使った日本型政治構造の海外輸出です。
平凡社百科年鑑に第三次中曽根内閣のときに総務庁長官の玉置和郎がタブー
視されていた農協やODAへの監察を行う意向を示したとありました。
どうやら骨抜きになってしまったらしい。

蛇足
総選挙が近いけれども、あまり世の中が変わるような気配も感じられません。
(ひょっとして消費税反対によって変ってしまうかも知れませんが、消費税
反対で変わるというのも金権的体質の日本人にとって相応しい変わり方かも
・・・。)
中国や南北朝鮮等をみても東欧やドイツのようには行きそうにもありません。
アジア人のメンタリティ(日本を含めて)はヨーロッパ人のメンタリティと
はいささか違うようです。勿論、中国や朝鮮の場合はドイツや東欧のような
紐付でないという条件もありますが。

            加藤 治

#0022 sci2919  9001252328

kita−3閣下へ
3を-さん-の意味と勝手に思い込み省略してレスしていました。
申し訳御座いませんでした。
以後気を付けます。ご容赦を

#0023 sci2714  9001261453

  −3  は、単なる目印みたいなものですから、付けても付けなくても
  いいですので、気になさらないで下さい。自分でも付けないことがあ
  るくらいですから。

  kita-3