Gen00542 入門・放射線学 第五回「体が、危ないっ!」

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 いよいよ、大変になってきました。この講座の中核です。放射能の害は説明し
ました。今回は、それを基に、人体、生命体への影響を考えていきましょう。
新しい読者の皆さん、第一回から読むようにしましょう。
予定より、早く書き込みました。あしからず。では、いきますぞ。

               入門・放射線学 第五回「体が、危ないっ!」

これは、入門・放射能学 総集編上のつづきです。総集編上が
第四回までだったので、第五回を書き込んでおきました。
この続きは、第六回にあります。
まだ総集編上を読んでない人は、科学技術ニュース&とーくの
第一回から第四回と、番外編。または、このコーナーの総集編
上を必ず読んで下さい。

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 人体は、タンパク質で作られているわけです。タンパク質を形作るのは、アミ
ノ酸。そのアミノ酸も、十数個の原子で出来ています。そのため、アミノ酸だけ
で20もの種類があり、人間の細胞のタンパク質は、だいたい数百個のアミノ酸
で出来ています。そのタンパク質が、少ない細胞で種類の違うタンパク質が20
00種類。多いものだと・・。さらに、人間の細胞数は10兆個。
 
 とんでもない原子の量です。まさに、人体はタンパク質。何で放射能講座でこ
んなことを書くかって?それはそのうち分かります。このタンパク質の設計図を
DNA(デオキシリボ核酸の略)といいます。遺伝子、染色体などの基もDNA
です。ですから、ここでは遺伝子、染色体はすこしおいておきます。
 
 受精卵の細胞は当然一つです。しかし、その一つで分裂を繰り返し、10兆個
もの細胞を作るのですから、タンパク質の情報も、頭から足先までなければなり
ません。当然のことです。ですから、人間のDNAには、70億個もの暗号があ
ります。暗号一つが細胞一つを表すわけではないものの、とんでもない量です。
それには、足の数から、手の数から、性別、酒好きか嫌いか、甘党か辛党か、
内向的か外向的か、温厚か冷酷かまで、ありとあらゆることが書いてあります。
このDNAは、細胞分裂するときにも受け継がれるので、あなたの髪の毛の一本
一本にも、足の数やら、保守派か革新派かなども書かれているのです。もし、
科学が発達すれば、「髪の毛一本、あなたの分身作ります。」ってことも出来ま
す。そうなって欲しくはないですが・・。
 勘のいい人はピンと来ていると思いますが、DNAは分子で出来ています。と
いうことは・・。

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 放射線がDNAを破壊してしまう可能性もありえます。DNAは体の設計図。
設計図を壊されても、人体はその通りに作ります。
 「癌・・。」そうです。その通り、癌が発生し易くなります。なぜ「し易く」
なのか。ここで、癌にならないためのストッパーを挙げてみます。
 1つめに、DNAの修復作用が早く働いたことがあります。DNAは、自己
      修復が可能なので、ひどく破壊されないかぎり、治ります。
 2つめに、関係ない部分だった、ということ。つまり、手の細胞のDNAの
      足の数の部分が破壊されても、大丈夫ということです。
 3つめに、生命に関わりのなかった変化だった、ということ。簡単にいえば
      良性腫瘍だった、ということと似ています。
 4つめに、分裂しにくい細胞で、@が早く働いた、ということ。被害のすく
      ないうち、火事を小火のうちに消したようなものです。
 5つめに、癌細胞が死亡した、ということです。

 人間というのは、放射線には、ほとんど防護作用を持っていません。放射線物
質には、若干あります。(これについては次回)ですから、このように手を変え
品を変え、何とか食い止めようとしているのです。

 この様に癌・白血病に代表される放射線障害を、「晩発性障害」といいます。
これは、ほとんどがDNAの障害によって起こり、被曝後かなり経ってから起こ
ります。癌の発生といえるだけ、癌細胞が増加するのに時間がかかるからです。
上の5つの条件の通り、運のいい人はかなりの放射線を浴びても大丈夫ですが、
運の悪いひとだと太陽からの紫外線でさえ、癌になる人がいます。

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 最も運が悪いのは、放射線を浴びたとき、こども、とくに胎児だった人です。
なぜなら、上の条件のA、大人の一番の防御法が裏目にでるからです。なぜかっ
ていえば、子供は細胞数が少ないので、重大なDNAを破壊される可能性が高い
からです。胎児だったらなおのこと。だって、はじめ細胞はひとつなのですから
それに近い、つまり体が出来きってないうちは、とても危険です。下手をすれば
目が3つあるとか、足がないとか、脳がないとかいう子供も生まれます。実際、
広島・長崎の原爆投下直後に生まれた子供がそうなっている例があります。

 さらに、子供、特に胎児は、細胞数を増やすため、体を大きくするために、
盛んに細胞分裂します。とすると、Cの作用が効きにくくなります。1つより、
2つのDNA異常細胞の方が癌が出来易いのは、当り前のことです。
 チェルノブイリ原発事故の直後、妊娠中絶が急増したのは、賢明な処置という
他はありません。胎児や子供が危ない理由は、もう一つあります。それは次回。

 ここで、その他の放射線障害についても述べておきます。
 遺伝障害は、生殖細胞のDNAが破壊されたときに起こります。晩発性障害の
延長線といえるでしょう。体はこれを防ぐため、流産を発生させようとするので
す。しかし、運悪く生まれてしまうと・・。筆舌につくしがたい状態にもなりえ
ます。

 もう一つの種類は急性障害です。これは、髪が抜ける、下痢、頭痛、出欠斑で
有名です。これは、どのくらい放射線を浴びると発生する、というアンダーライ
ンがあります。これは、DNAの破壊がメタメタな状態にまでなったとき、

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原子の種類が変わったときに発生します。一つの目安として、髪が抜けたら、5
割の確率でしか生きられない、といいます。

 原発事故で起こるのは、晩発性障害です。これが、議論の基になっています。
何しろ、癌になるかどうかは、「運」なのですから。反対にいえば、いくら浴び
たら危ない、というアンダーラインは、引くことが出来ません。だって、誰が
麻雀の役万の確率を、性格に測定できますか?「許容線量」というアンダーライ
ンは、何の根拠もないのです。

   <次回は、人工放射線物質、「死の灰」がどうして危険か検証します。>

               入門・放射線学 第六回「人間への天罰」

                   8月19日頃の書き込みになります。

               ご意見・ご希望・ご感想お待ちしております。

   P.S.8月中に、この講座の原作が完成する予定です。簡単な絵入りの
      ものになる予定です。
                     講師は、某中学生徒会長でした。