Gen00514 原発総点検と個別原発の安全性評価の必要性

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原発問題住民運動全国連絡センター専門小委員会(中島篤之助中大教授 他4名)
の報告『日本の原発についての総点検と個別原発の安全評価についての報告』を入
手しましたので参考までにアップします。194行あります。

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『日本の原発についての総点検と個別原発の安全評価のついての報告』

 さきに、原発問題住民運動全国連絡センター代表委員会から、同センター加盟の
専門家個人会員で構成する当専門家小委員会に検討要請のあった表記問題について、
別記のように討議結果をまとめたので報告する。
       1989年3月30日
          原発問題住民運動全国連絡センター専門小委員会
             赤塚 夏樹  安斎 育郎  市川富士夫
             角田 道生  中島篤之助
原発問題住民運動全国連絡センター代表委員会 殿

日本の原発についての総点検と個別原発の安全評価のついての報告

 日本の原発についての安全の確保のうえで、新増設反対、青森六ケ所村の核燃料
サイクル施設と北海道幌延町の高レベル放射性廃棄物貯蔵施設建設の撤回、外国へ
の再処理委託の中止、発生者の責任による使用済み核燃料と放射性廃棄物の各サイ
トでの安全保管・管理など、安全規制の実施が必要不可欠となっているが、ここで
は、既設原発の安全規制上の緊急を要する問題として、米ソ二つの事故の教訓にも
とづく総点検といくつかの個別原発についての安全評価にもとづいて、必要な規制
措置を提起するものである。

I 総点検問題について

 一 「指針類」の見直しと総点検の実施
 もともと現状の原発には、(1)冷却材喪失事故、(2)反応度事故 の二つのタイ
プの事故の危険が指摘されてきたが、米ソ二つの重大事故は、どちらの事故も起こ
りうることを事実で示したものである。政府、電力会社が原発推進政策を進めるに
しても、少なくとも、この現実から出発することは最低の責務である。その点で、
米ソ二つの事故の教訓を取り入れた科学的な安全基準によって、日本の原発につい
て総点検を実施することは、日本の原発で米ソのような事故を起こさないための最
低限の保障である。

  (1)「指針類」等の見直し
 日本の原発については、40の「指針類」、「原子炉安全専門審査会内規」、
「原子炉安全基準専門部会報告書」などによる安全審査を経て、設置許可が行われ
る。これらの「指針類」等の中には、安全上掲げられている「基本目標」の「目安
の数値」などが、米ソ二つの事故の実態から見て、著しく過小に過ぎるものがある。
したがって、現行「指針類」等を米ソ事故の実態と教訓にもとづいて見直すことが
求められる。

1 立地条件の判断の基本とされる「原子炉立地審査指針及びその適用に関する判
断の目安について」は、万一の事故時にも、公衆の安全を確保するための「基本目
標」として(1)技術的見地から見て最悪の場合には起こるかもしれないと考えられ
る重大な事故(重大事故)の発生を仮定しても周辺の公衆に放射線障害を与えない
こと、(2)重大事故を超えるような技術的見地からは起こるとは考えられない事故
(仮想事故)の発生を仮想しても周辺の公衆に著しい放射線災害を与えないこと、
(3)仮想事故の場合には、国民遺伝線量に対する影響が十分に小さいことなどを掲
げている。
 しかし、この「指針」にもとづいて安全審査された日本の各原発の「重大事故」
時の、あるいは「仮想事故」時の放射能放出量の想定は、米ソ二つの事故時の放射
能放出量よりケタ違いに低すぎる(表省略)。また米TMI事故後、安全審査に取
り入れられたものは、「『我が国の安全確保対策に反映させるべき事項』について」
等に示されているが、この問題は扱われていない。このことは、この「指針」自体
を米ソの事故の実態にもとづいて見直しすることが必要であることを端的に物語っ
ている。

2 安全設計の判断の基本とされる「発電用軽水型原子炉施設に関する安全設計審
査指針について」は、この「指針」の適用範囲を、「発電用軽水型原子炉の設置許
可申請に際して、安全設計の基本方針について……の評価の指針に限定」しており、
強度設計、溶接検査、竣工検査、定期検査等は通産省が定める「省令」等に委ねら
れている。これでは、「基本設計」は合格判定されても、その「詳細設計」につい
ては、この「指針」は関知しないことになり、その安全の担保を欠く結果となる。
またこの「指針」の「指針3 人為事象に対する設計上の考慮」では、「第三者の
不法な接近等」を考慮することは規定されているが、米ソ二つの事故で示された
「発電所従業員によるヒューマン・エラー」は考慮されていない。さらに、「指針
8 系統の単一故障」では、「非常用所内電源系のみの運転下または外部電源系の
みの運転下で、単一の故障を仮定しても、その系統の安全機能を失うことのない設
計」(単一故障指針)としているが、米TMI事故は「加圧器逃し弁の開固着」
「逃し弁の表示誤り」「加圧器水位計の誤指示」「ECCS注入弁の誤操作」等い
くつもの故障が重なって重大事故に発展したのであり、複数の事故が同時に多発す
る可能性(複合事故指針)の評価とその場合の安全確保をいかに行うかについても
考慮されていない。これらについて、この「指針」の見直しが必要である。
 米TMI事故後、安全審査に取り入れられたものは、「『我が国の安全確保対策
に反映させるべき事項』について」等に示されているが、「ヒューマン・クレジッ
ト及び単一故障」については、根拠を示さないまま、この「指針」でいいと結論し
ている。このことを含め再検討が必要である。

3 防災・避難対策については、安全審査の対象になっていないため、この関係の
「指針類」等は存在しない。当然のことながら、米ソ二つに事故の教訓にもとづい
て、防災・避難対策についての「指針類」等を緊急に整備することが必要である。

4 このほかの「指針類」等についても、前項の事情と同じく、米ソ二つの事故の
教訓を取り入れた科学的なものに見直すことが必要である。

  (2)新しい「指針類」等にもとづく総点検の実施
 日本の原発で、米ソのような事故の再発を防止するうえで、前項の趣旨のよって
見直された、新しい「指針類」等によって、すべての既設原発の総点検を実施する
ことが不可欠である。総点検に当たっては、1973年以前に設置許可となった原
発については、現行「指針類」等以前のさらにラフな「指針類」等による安全審査
であり、原発の老朽化など危険要因が大きいことを考慮して、これらの原発は優先
して総点検する。

  (3)運転停止を含む必要な措置の実施
 前項の総点検の結果にもとづいて、運転停止、出力低減など、必要な措置をとる。

 二 権限を持った安全審査体制の確立
 これら「指針類」等の見直し、また、これら新しい「指針類」等によるすべての
原発の総点検の実施、その結果にもとづく運転停止を含む措置の実施などは、現行
の開発優先・安全無視の審査体制、安全規制上の権限のない原子力安全委員会のも
とでは不可能である。したがって、権限を持った安全審査体制の確立が不可欠であ
る。

 三 前提となる現状認識
 前記一、二の規制措置を必要と判断した、前提となる主な現状認識は次ぎの諸点
である。

(1)日本の原発は、安全上、経済上、問題が指摘される、アメリカから導入した軽
水炉依存であること、その日本の立地は、世界有数の地震国での立地、人口過密地
帯に近接しての立地、開発優先・安全軽視の安全審査のもとでの立地であることな
ど、もともと原発技術としても、また、その開発利用体制も、構造的に危険を内臓
拡大するものになっている。

(2)加えて、日本の原発は、基本的には、米ソの二つの重大事故による教訓にもと
づく総点検、その結果による必要な措置が取られておらず、米ソのような重大事故
が起きないという保障はない。(原子力安全委員会は(1)米事故への対応としては
「52項目」、(2)ソ連事故への対応としては「7項目」の措置を取ったとしてい
るが、(1)米事故への対応としての「52項目」は、事故の実態から乖離したり、
その実行が棚上げされたりするなど極めて不十分であり、(2)ソ連事故への対応と
しての「7項目」は、もともと作文にすぎないものである)

(3)政府、電力会社は、当面の原発の安全対策には手をつけず「安全宣伝」を軸と
する「パブリック・アクセプタンス(PA−社会的受け入れ)」対策を大々的に展
開して、2000年までに、「少なくとも5300万キロワット程度」という現状
の2倍近い無謀な大規模原発推進政策を強行しようとしている。

(4)国民は、原発の危険に不安・心配を深めており、一昨年夏の総理府の世論調査
でも、国民の「85.9パーセント」が「原子力発電への不安・心配」を表明して
いる。


II 個別原発の安全評価について

 一 個別原発の安全評価の必要性
 日本の原発は、全体として、Iで指摘した総点検が必要であるが、原発の老朽化、
事故の発生状況、開発優先・安全軽視の安全審査体制のもとでのデータの捏造問題
などを勘案すると、個別原発ごとの安全評価が必要である。

  (1)永久停止すべき原発等の検討の必要
 安全審査上、地震に対する安全性が基本的に確認されていない、事故歴等の重大
性、原子炉の老朽化など、諸般の事情から、浜岡1号機(沸騰水型・BWR、54
万キロワット。静岡県小笠郡浜岡町。設置許可・1970年12月)、浜岡2号機
(同、84万キロワット。同。同・1973年6月)、玄海1号機(加圧水型・P
WR、55.9万キロワット。佐賀県松浦郡玄海町。同・1970年12月)、美
浜1号機(PWR、34万キロワット。福井県三方郡美浜町。同・1966年12
月)、東海1号機(ガス冷却炉・GCR、16.6万キロワット。茨城県那珂郡東
海村。同・1959年12月)、東海再処理工場(茨城県那珂郡東海村)などは、
センターとして、運転の永久停止の方向で検討すべきである。

  (2)事故等に対応した措置
1 浜岡1号機の原子炉圧力容器本体からの冷却水漏れ事故の重大性に鑑み、同型
BWRについては、その教訓にもとづいて総点検すべきである。

2 福島第二原発三号機(BWR、110万キロワット。福島県双葉郡富岡町・楢
葉町。同・1980年8月)の再循環ポンプ破損事故の重大性に鑑み、事故原因の
徹底究明、全核燃料棒の健全性の確認、流入金属片・金属粉の回収、安全運転・管
理体制の見直し、事故関係データの公表、安全対策の確立、東電と国の責任の明確
化などの措置を取るべきである。少なくとも、同型のポンプを使っている日本原子
力発電所東海2号機(BWR、110万キロワット。茨城県那珂郡東海村。同・
1972年十二月)は、直ちに止めて点検するとともに沸騰水型軽水炉の再循環シ
ステムは総点検すべきである。また、改良標準化計画にもとづいて進められている
インターナルポンプ方式についても、試験データの公開を含め再検討すべきである。

3 大飯1号機(PWR、117.5万キロワット。福井県大飯郡大飯町。同・
1972年7月)、同2号機(同、同。同。同・同)の緊急冷却装置(UHI)は、
安全上の疑惑があり、その撤去を検討すべきである。

4 PWRの一次冷却材ポンプの変流翼固定ボルト部分の腐食・亀裂発生問題につ
いては、定期検査を待って点検するやり方を改め、直ちに点検を実施すべきである。

  (3)試験片の照射実験データ等の公開
 原子炉圧力容器の中性子照射による脆化については、試験片の照射実験(遷移温
度変化など)のデータ等を定期的に公表すること。

 二 前提となる現状認識
 前期一の規制措置を必要と判断した、前提となる主な現状認識は次ぎの諸点であ
る。

(1)原子炉の老朽化は予想以上に早く進んでいる。

(2)炉材料の経年劣化による事故が増大している。
1 PWRについては、蒸気発生器細管部分に腐食・亀裂が多数発生している。ま
た、一次冷却材ポンプの変流翼固定ボルト部分の腐食・亀裂発生が、定期検査の度
に発見されている。米側の通報で初めてわかったり、定期検査を待って対応したり
するなど、その対応にも問題がある。さらに、原子炉圧力容器の中性子照射のよる
脆化問題が生じている。

2 BWRについては、浜岡1号機で、原子炉圧力本体下部のインコアモニターハ
ウジング貫通部溶接部分に腐食・亀裂事故が発生したことは重大である。

(3)廃炉に近づいている原発も出ている。
                                   以上

   (『原発住民運動情報』第8号−1989年5月20日発行−より)