Gen00511 原子力3・論争(科学朝日6月号)

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科学朝日に連載中の「科学と報道」(6月号)を関連発言に掲載します。
「原子力」シリーズの3回目で、新聞連載記事をめぐる論争が今回のテーマです。
                            管理人

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 コラム〔科学と報道〕6

                                                 柴田鉄治
                                  朝日新聞出版局次長/しばた・てつじ

  原子力 その3 論争

 一九六九年六月、原子力船「むつ」が皇太子妃の手で華やかに進水。七〇年
三月、大阪・万国博に敦賀原発から初の送電「「原子力をめぐる華やいだ空気
は、ほぼその辺までで、七〇年代に入ると、厳しい風が吹きはじめる。

 社会の空気をガラリと変えたきっかけは、公害・環境問題である。経済の高
度成長で生活の豊かさはましたが、その間に、公害がひどくなり、環境破壊が
進んだ。「このまま進んでいったらどうなるのか。人類の生存さえ危うくなる
のではないか」と気づいたのが、七〇年代だったといえようか。

 環境問題は、当然の結果として、人類が築いてきた文明のあり方そのものに
厳しく見直しを迫った。なかでも、人類を幸せにしてくれる源泉だと考えられ
ていた科学技術に対して、必ずしもそうとはいえないのではないか、それどこ
ろか環境破壊の元凶ではないか、といった疑問まで、鋭く突きつけた。

 原子力に対する慎重論や反対論が高まったのは、こうした流れのなかからで
ある。原子力は、巨大技術の代表格ともいうべきものであり、地球上に放射性
物質をどんどんふやし、蓄積していく「非可逆性」の技術である。それに、安
全性への不安や不信が加わって、疑問や反対の声が一気に強まったのだといえ
よう。

 原子力報道は、一転、対立・論争の時代に入る。伊方原発に対して建設許可
取り消しを求める訴訟が提起されたのが七三年。原子力船「むつ」が放射線洩
れを起こしたのが七四年。各地の反対運動の代表らが京都で「反原発全国集会
「「生存をおびやかす原子力」を開いたのが七五年である。


 波紋呼んだ『核燃料「』連載記事

 こうしたなかで七七年七月から九月にかけ、朝日新聞に『核燃料「「探査か
ら廃棄物処理まで』という記事が四八回にわたり連載された。科学部の大熊由
紀子記者が、全国各地の原子力施設を見て回り、まとめたものである。

 この連載の最後の五回分が、大きな波紋を呼んだ。大熊記者によると、最初
の企画段階では予定になかったもので、取材しているうちに、原子力技術者が
反対論の高まりで孤立感を味わっているのを知り、どうしても全体評価が必要
だと思うようになったのだという。

 内容をざっと紹介すると、私たちがいま豊かな生活が送れるのは「エネルギ
ー」という名の奴隷が代わりに働いてくれるからだ。「原発は廃絶を」という
強硬な反対論は、もとをただすと、アメリカから直輸入されたもので、彼らは
「石炭を使えばいい」というが、日本とアメリカではエネルギー事情がまった
く違う。

 人間の作るものに「絶対安全」はない。絶対安全を求めてすべての技術を拒
否したら原始生活に戻らねばならなくなるし、そこには飢えや疫病という別の
危険がつきまとう。放射能は子孫に迷惑をかけるという意見があるが、それを
避ける技術開発を怠って石油を燃やし尽くしてしまうことが子孫のためといえ
るのだろうか。
 結論として「核燃料のエネルギーを利用することは、資源小国の日本にとっ
て、避け得ない選択であると思われる」としている。

 この記事が出ると、「よくいってくれた」という反響も、もちろん少なくな
かったが、反対派の人たちの反発は、大きかった。投書や電話だけでなく、新
聞社に直接押しかけてきて、大熊記者と長時間にわたって押し問答を繰り返し
た人たちも少なくない。

 当然、社内でも論議がわいた。この連載は、その後、まとめて本になったが、
この書物に対する論評という形で、当の朝日新聞にも厳しい批判が載る。評論
家の中野好夫氏が文化面の『論壇時評』欄で、激しくかみついたのである。
「著者は、原発廃絶論者の書いたものを読んでみても、実際に会ってみても、
正確な知識を持ち合わせていないことに驚いたという。そして彼等の主張は要
するに、アメリカからの直輸入だといとも簡単に片づけている。反対論者はそ
んなに無知なのか」としたうえで、「それにしても、反対論者の所論がさっぱ
りないのはひどい」と評し、「反対論者の無知に驚くなどとは、とんでもない
思いあがりであろう」と批判している。

 この論壇時評に対して、大熊記者がさらに反論を書き、ちょっとした紙上論
争の形になった。
 中野氏の批判のうち、「反対論者の所論がない」という部分は、勘違いだろ
う。『核燃料』の記事には、それは随所に出てくる。ただ、反対意見を紹介し
たうえで、ことごとくそれを論駁しているのだ。

 たとえば「みんなが少しずつ節約したら、核燃料など使わなくてすむのでは」
という主婦の声を紹介して、「いま電気洗たく機や冷蔵庫の使用を制限された
ら、主婦たちはデモを始めるに違いない」と切り返す。「原子力は人類絶滅の
危険をはらむ」という米学者の意見を紹介して、「その論法をまねることが許
されるなら、地球の気温を上げる二酸化炭素を放出する火力発電所も、即刻、
廃絶しなければならなくなる」と説く。

「原発などからの放射能は、子孫たちに遺伝的な障害を与え、人類を絶滅させ
るだろう」という意見には「原発などから出る放射線量の規制値は、自然放射
線の関東と関西の差より小さく、その程度の放射線が重大な遺伝的障害を与え
るなら、関西の人たちは絶滅していてもいいはず」と論ずる。

 反対派の人たちがこの記事に猛反発した理由の一つは、こうした反対派批判
の激しさに、神経を逆なでされたからだろうが、もう一つ、強硬な抗議の論拠
となったのは、「中立であるべきジャーナリズムが、一方に加担するのはけし
からん」という主張だった。

 一方、喜んだのは推進派である中立な第三者の見解だと、この記事をいろい
ろと利用した。それがまた、反対派を刺激し、反発を増幅した面も少なくない。
波紋が波紋を呼び、「朝日新聞は推進派だ」という誤解まで広がってしまうほ
ど、反響は大きかった。


 一方的すぎた全体評価

 報道は中立でなければならないとはいっても、署名記事で、主観的な意見を
述べることは、差し支えない。それに、波紋の異常な広がり方にしても、周囲
が過激反応した部分が少なくない。朝日は推進派側だとみられて他の記者が反
対派から取材しにくくなる面はあったにせよ、反対派がいうように、この記事
が載ったこと自体が誤りだとはいえないだろう。

 ただ、一歩踏み込んで論評すれば、環境問題が提起した科学技術に対する新
しい視点が希薄なことと、放射能の非可逆性や核兵器技術との共通性など、他
の技術とはひと味違う原子力の特殊性について、あまり特筆していないことが
指摘できよう。

 原子力がエネルギー危機を救う革新的なエネルギー源なのか、あるいは、開
けてはいけない「パンドラの箱」を開けてしまったのか、現時点で判断するこ
とは、報道機関としてまだ無理な段階である。
「放射性廃棄物のツケを子孫に残していいのか」「それより、石油を子孫に残
しておかなくていいのか」という、いわゆる「原子力の子孫論争」にしても、
双方に理があり、判定は下しにくい。

 それを、連載記事でははっきりと、一方に軍配をあげている。科学報道とし
ては、「全体評価」の判定がちょっと早すぎたのではないか、と思わざるを得
ない。

#0002 sci2449  8905122258

大熊さん側のご意見を聞きたい。

#0003 sci2100  8905202030

同じく。

#0004 sci1009  8905202232

同じ社内の人間なんだし、
聞けないことはないと思いますがどうでしょうね。
   sci1009:狩野

#0005 magam    8905211127

本人の自発的レスポンスを待ちたいと思います。
                          管理人

#0006 sci1009  8905240216

それでは、「科学朝日」に何か載ることになったら、
早速教えてくださいね。
   sci1009:狩野