Gen00398 危険な話の誤り−3 「誤り人」 (長文766L)

#0000 sci1044  8812030933


                      「危険な話」の誤り (その3)

                                                     昭和63年10月
 
目次
前書き                     
 1.何を根拠にチェルノブイリ事故を語るか   
  2.事故の際の燃料温度
 3.事故の放出キュリー数
 4.事故の際の熱気流と部分的な核爆発 
  5.メルトダウンはあったのか
 6.メルトダウンによるプールの水の水蒸気爆発
 7.フィンランドの異常放射能
  8.コンクリート密閉後の状態
 9.第二の爆発の可能性
10.事故原因の実験の有無
11.安全装置は切られていたか
12.IAEAの性格
13.ヨード投与効果と甲状腺癌の発生率
14.食品摂取制限レベル
15.西独の汚染と推定死亡者数
16.トナカイ肉の汚染
17.日本の輸入食品の検査体制
18.ソ連人の死亡者数
19.将来のソ連人の推定死亡者数

                                     前書き
1.当財団においては、『「危険な話」の誤り』及び『「危険な話」の誤り
(その2)』 と題した小冊子を先般発行致しました。
2.この二つの小冊子においては、「危険な話」発行の発端であろうチェル
 ノブイリ事故 そのものについては殆ど取り上げませんでしたが、原子力
 開発に反対する人々が、実際よりはるかに大げさにチェルノブイリ事故を
 語り、結果として皆さんに不安を与えているのを見ると、やはりチェルノブ
 イリ事故とはなんであったかを、もう一度原点に戻って検討する必要がある
 と考えました。
3.「危険な話」のチェルノブイリ事故の部分を専門家と読んでみると、チェ
 ルノブイリ 自己の事実なり被害なりが、科学的な事実関係に基づかない記
 述によく出会います。
  そこで、前回の二冊のもと同様、一般の読者の原子力に対する誤解を解く
 ことを願って、この小冊子をまとめてみました。
  取りまとめに当たっては、以下の専門家のご協力を得ました。

    略
                                                         以上
※本資料に関するお問い合わせ先
  日本原子力文化振興財団  PA情報調査室
  東京都港区新橋1−1−13 電話 03-507-0883
        
1.何を根拠にチェルノブイリ事故を語るか
[「危険な話」での記述]
  「それは新聞記事などで皆さんもいろいろ聞いていると思いますが、いっ
 たいソ連ではどの様な事故が起こったのかということについて、テレビや新
 聞ではほとんど報道されていない部分があります。・・・特にこの日本では
 ジャーナリズムが原発問題では非常に遅れていまして、私がアメリカやヨー
 ロッパの人から手紙や電話を受け取りますと、いったい日本はどうなってい
 るんだ、何も新聞は書かないではないか、おかしいぞ、日本が一番危ないぞ
 ということを度々いわれます。」※(P.9)
                                      ↓
                                    「危険な話」のページ数
                   以下同じ
  「ソ連が八月にIAEAへ提出したレポートは、どこから解析しても嘘ま
 た嘘ですね。なぜこれほど嘘をつかなければならないか。
  ここで、私の意見を一言述べさせて頂きますが、報告書を書いたのはソ連
 ではなく、IAEAが書かせたに違いありません。」※(P.36,38)
 
[コメント]
 1.チェルノブイリ事故を議論するに当たっては、どの様な情報を根拠に語
  るかをまず明らかにすることが科学的に重要です。と言うのは、この事故
  は公衆の前で発生したものではもちろんありませんし、また、ソ連という
  国では西側のマスコミ関係者が簡単に取材できる体制ではないため、他の
  いろいろな事故と比較して情報が限られ、それがまたいろいろな憶測を生
  む原因にもなったのです。
 2.広瀬氏は上の引用で明らかなように、まず、マスコミの報道に余り信用
  をおいていません。しかし、この「危険な話」には新聞の引用が随所に出
  てきます。また、広瀬氏は上に引用したように、ソ連がIAEAに提出し
  たレポートを完全に否定し、「嘘また嘘」と断言しています。
 3.それでは、チェルノブイリ事故の実態を書くに当たって何の情報を根拠
  にしたかというと、少なくとも本文でみる限りは、”非常に遅れている”
  とされた新聞記事が中心で、残りは名前のはっきりしない人からの伝文に
  よるものです。それ以外に明確な根拠があるのであれば、ぜひ教えて欲し
  いものです。
 4.この小冊子は、基本的にはソ連がIAEAへ提出した事故報告書の事実
  関係を基に作成しました。ソ連というお国柄からして、マスコミも含め他
  の情報があるとは考えられませんので、これが一番妥当と考えます。もち
  ろん、ソ連の情報を無批判に引用するのではなく、わが国の原子力関係の
  研究者の独自の分析などにより、科学的に十分因果関係等を確認した上で
  の話です。

2.事故の際の燃料温度
[「危険な話」での記述]
  「ルテニウムは白金の仲間の、非常に重い金属です。こうして原子炉の燃
 料のパイプが爆発を起こし、その後も様々な核分裂の反応が同時に並行して
 起こるような状態だったのです。そういう中でこの燃料パイプが、例えば3
 000度とか4000度とか、部分的には5000度になっていただろうと
 いうことが分かってきます。
  ・・・・・チェルノブイリは、緯度でみると北海道よりずっと北に位置す
 る所にあり、その深夜の冷たいウクライナの空気の中に熱気がたち昇って行
 けばどうなるか。水蒸気であれば冷やされ、水に戻って雨になる。更に寒け
 れば固体となり、雪となって降ってきますね。ルテニウム等の金属は、水よ
 り固体に戻り易く、しかも重いからすぐにおこちてくる。ところが落ちない
 で遥か1000キロ以上も離れたスウェーデン等で大量に検出されたという
 事実は、沸点よりずっと高い温度のガスだったろう、という推理を導く。こ
 の4000度か5000度いう温度が恐いのです。※(P.18,19)
 
[コメント]
  1.ルテニウムが、チェルノブイリ原子力発電所から遥か遠く離れたスウェ
  ーデンなどで観測されたことは事実です。しかし、このことだけを持って
  チェルノブイリの原子炉心が、事故の際4000度〜5000度であった
  と言うのは極端ではないでしょうか。
 2.一般に、物体が空中でどのくらい遠くまで飛ぶか、あるいはどの位早く
  落ちるかは、単に比重だけで決まるものではありません。
    黄河の土は、比重が1よりも当然大きいのですが、遥か東シナ海を越え
  てわが国まで風に乗って飛んできます。問題はどのくらい高くまで舞い上
  がったか、あるいはそのような上昇気流があったかであり、もう一つはど
  のくらいその粒子が小さいかです。上昇気流が強く、かつ粒子が非常に小
  さければ、ガス化していなくとも、また比重がそうとに大きいものでもジ
  ェット気流にのって、世界の相当広い範囲に飛び散るのです。
  3.チェルノブイリ事故の場合、この条件が重なったものです。まず、粒子
  の大きさですが、ソ連の事故報告書によれば、原子炉心での急激な出力上
  昇により燃料が破砕し微粒子化しました。このときに生じた急激な蒸気の
  圧力で炉心が破壊され、微粒子化した燃料の一部は、エアロゾルというミ
  クロン(1/1000ミリ)程度のきわめて小さな粒子となって、環境へ
  放出されたと推測されています。ルテニウムという金属の融点は2310
  度と非常に高温ですが、空気中の酸素と反応して酸化物を造った場合、例
  えば4酸化ルテニウムは融点が25.4度、沸点が40度と低くなります。
  従って、3000度といった高い温度にならなくともエアロゾルになる可
  能性は非常に高いのです。
 4.次に、上昇気流の方ですが、炉心が破壊されたため、原子炉の材料の一
  つである黒鉛(炭素で構成されています)と空気が触れて黒鉛の燃焼が続
  いた結果、非常に強い上昇気流が発生したのです。
 5.このように、燃料の一部がエアロゾルとなり、それが黒鉛燃焼による上
  昇気流で空高く舞い上がり、ジェット気流によってヨーロッパ各地に運ば
  れたものであると推測されます。
 6.では、事故の際炉芯の燃料温度がどれくらいだったかということですが、
  燃料に加えられたエネルギーは最大300から400cal/gUO2,と推定
  されており、これを燃料温度に換算すると一番高い部分は約3000から
  4000度になりますが、大部分の燃料は圧力管や被覆管が破損したり一
  部溶融したりして移動した結果、それほどのエネルギーは加わっておらず、
  2000〜2500度であったと考えられます。
 7.なお、「危険な話」の記述にある”原子炉の燃料のパイプが爆発を起こ
  し、その後も様々な核分裂が同時に並行して起こるような状態だったと思
  います。”というのも非科学的です。
   今回の事故では、燃料の3から4%が飛び散ったとされていますが、炉
  心に残った96から97%の燃料については、炉芯破壊時に上部から制御
  棒が挿入されたため、核分裂反応が停止したと推測されます。

3.事故の放出キュリー数
[「危険な話」での記述]
  「こうしてストロンチウムや希ガスなど、全部で200種類を越えるよう
 な死の灰が、どの様に低く見積っても、合計して10億キュリー前後は噴出
 してしまったという事実がある。
  ・・・・・数千万キュリーでは、現実の一桁も二桁も小さな事故になる。
 ガスだけで数億キュリーを越えることは、原子力についてちょっとかじった
 人間であれば、この世界最大級、100万キロワットのチェルノブイリ原発
 では当然の量です。
  ・・・・・ソ連が出してきた数字を良くみると、ヨウ素の放出量はわずか
 20%になっています。水と同じように185度の温度で蒸発するものが、
 数千度という灼熱パイプの中で、なぜ2割しか出ないのですか。8割は残る
 のですか?子供でも気が付く嘘をまだ書いている。
  セシウムは13%、ストロンチウムに至ってはわずか4%しか出ていない
 という。実際には、合計して数億キュリーではない、それより遥かに多い1
 0億キュリー前後だろう、と申し上げた根拠がここにあります。
 ※(P.20,22)
 
[コメント]
  1.このチェルノブイリ事故の放出放射性物質のキュリー数については、確
  かに事故の全貌が当初はっきりしなかったため、マスコミなどの情報が混
  乱したことは事実です。しかし、事故の全貌がはっきりした現在、世界各
  国の専門家の見方はほぼ一致しています。
 2.「危険な話」の”合計して10億キュリー前後”というのは、科学的な
  根拠の無い数字です。
      まず、事故の直前にチェルノブイリの原子炉の中にどれくらい核分裂生
  成物があったかということですが、これは原子炉のデータがあれば非常に
  精度よく計算することが出来ます。ソ連の報告書はチェルノブイリ炉の炉
  内に存在した放射性核種の量を1986年5月6日の値に換算して表で示
  してあります。それによると希ガスはだいたい5000万キュリー、揮発
  性の核分裂生成物が約5000万キュリーとされています。これを4月2
  6日の時点に換算すると希ガスは約2億キュリー、揮発性の核分裂生成物
  は約1億キュリーとなります。
  3.次に、これら希ガスや揮発性物質が、どれくらい環境中に放出されたと
  考えるかです。これらの核分裂生成物の内、通常運転中、希ガスは約90
  %がペレットの中に閉じ込められており、残り約10%がペレットと被覆
  管の隙間に貯っています。揮発性物質の方は、隙間に貯っている量はもっ
  と少ないのです。事故が発生し、被覆管が破れた際、まず隙間に貯ってい
  たものが放出されます。一方、ペレットの中に閉じ込められたものが外へ
  放出されるためには、ペレットが非常に高温でかなりの長時間保たれる必
  要があります。事故が発生した当初、いろいろな数字がマスコミに出たの
  は、この条件をどのように見るかによるものでした。
 4.現在までで、チェルノブイリ自己の概要が明らかにされ、それに基づい
  た計算がなされています。また、各国での放射能測定値からチェルノブイ
  リ事故の放出放射能を逆算される試みもなされています。これらの各国の
  専門家の分析によれば、ソ連の事故報告書の5月6日換算値の希ガス約5
  000万キュリー、揮発性物質約5000万キュリーで合計約一億キュリ
  ーという数字は妥当であると判断されています。
 5.なお、誤解の内容に付言しますと、ソ連の報告書通りのキュリー数とし
  ても、非常に大きな事故であることは間違いありません。原子力開発利用
  史上においてこのような事故が起こった事は、厳粛に受けとめるべきであ
  ると思います。

4.事故の際の熱気流と部分的な核爆発
[「危険な話」での記述]
  「それからもう一つ、先ほどの5月2日の事故の記事に、北欧でネプツニ
 ウムが大量に出たとあった。このネプツニウムは西独でも検出されて大騒ぎ
 になっていますが、いったい何かといいますと、比重20.5の金属です。
 ・・・・・
  これは、爆発の熱気流、上昇気流が史上希にみる大変な勢いを持っていた
 ことを示しています。熱い湯気のような状態になった金属が、もうもうと立
 ちこめて昇ってゆき、ウクライナの冷気の中で重い金属に戻るべきものが落
 ちないでずーっと昇りつめ、遥か彼方のヨーロッパで大量に検出されたとい
 うことは、この熱気流の勢いが大変なものであった、想像を絶するものであ
 った、おそらく部分的には核爆発のような事が起こっていたのだろうと思わ
 れます。」

[コメント]
 1.ネプツニウムが北欧及び西独で発見されたことは、前前項のルテニウム
  の場合と同様に事実であるが、ネプツニウムが、この日広瀬氏の記述のよ
  うに蒸発してしまったからと考えるべきでなく、ミクロン程度の大きさの
  エアロゾルとなったものが、黒鉛火災の上昇気流によって運ばれたと考え
  るべきものであることも同様である。
 2.ネプツニウムは、事故の際最大でも全体で約340万キュリー(5月4
  日換算値)、約15gしかないと推定され、このうち約120万キュリー
  が放出されたと推定されています。広瀬氏のいう”もうもうとたちこめて
  昇ってゆき”というのは大げさな記述です。
 3.また、”おそらく部分的には核爆発のような事が起こっていた”という
  のも非科学的です。核爆発は強大な熱と光のエネルギーを得るため、一定
  時間核反応を保ち続ける必要がありますが、この場合は、水蒸気爆発によ
  って一部の燃料体が飛び散ると共に、事故直後に挿入された制御棒の働き
  で核反応は停止しており、そのようなことが起きるわけがありません。

5.メルトダウンはあったのか
[「危険な話」での記述]
  「それからもう一つ重要なことは、原子炉が今のような、例えば3000
 度、4000度、こういう様な非常に高い温度になっていたとすると、この
 中に燃料の棒が入っておりまして、そのパイプの中であらゆるものが溶けて
 きますね。中の金属などがみな溶けて流れ落ちてくるので、メルトダウンと
 いっていますが、爆発と共に炉心溶融が起こった事は間違い有りません。ソ
 連はいまだに”炉心溶融は起こらなかった”といっているが、先ほどのソ連
 のレポートには、”燃料の一部が下の部屋に溶け落ちている”と自分で書い
 ている。ものは言い様ですね。
  さて、溶け落ちた重い金属が灼熱状態になって大きな塊になってくると、
 何が起こるでしょう。この原子炉の底は鉄で出来ていますが、鉄は1500
 度ぐらいでお湯になると先ほど言いました。ですから原子炉の底が破れてい
 くわけです。飴のようになってきます。それからその下にコンクリート、厚
 いコンクリートがあってもこれもまた3000度には耐えられません。コン
 クリートに鉄筋が入っていて、頑丈だと思っていても、この鉄筋がやはり1
 500度ぐらいで飴のようになってきます。流れてしまいます。ということ
 で原子炉全体が地面に深い穴を掘ってゆくメルトダウンが起こったわけです。」
 ※(P.25)

[コメント]
 1.チェルノブイリ事故で、燃料がメルトダウンして溶け落ちて重い金属が
  灼熱状態の大きな塊になったという話は正しくありません。実際は、原子
  炉の急激な出力の上昇により、燃料が過熱されて溶融破損が起こり、破損
  した燃料と冷却錘が接触したため急激に蒸気が発生して、これによる圧力
  上昇のために燃料集合体を囲んでいる圧力管が破壊されたと考えられてい
  ます。ソ連報告書によれば、このうち燃料の約3〜4%は炉心外に放出さ
  れましたが、残りの燃料は損傷しながらも、原子炉心の下部に残っている
  と推定されています。
  2.広瀬氏は、燃料の一部が溶けて落ちる状態と、原子炉全体が地面に深い
  穴を掘っていく状態の両方をメルトダウンと呼んでおり、両者が同じもの
  であるか、少なくとも両者の間に必然的な因果関係があるかのように書い
  ていますが、それは正しくありません。チェルノブイリ事故では、確かに
  燃料の溶融が起こったと考えられますが、原子炉全体が地面に深い穴を掘
  っていく状態にはなっていません。
 3.後者のような状態では、アメリカで事故が起こった場合に地球の反対側
  にある中国までも穴を掘っていくという比喩でチャイナシンドローム等と
  呼ばれています。チェルノブイリ事故では、液体窒素による冷却等の対策
  により炉心の除熱が達成され、チャイナシンドロームには発展しませんで
  した。テレビ等で放送された事ですが、ソ連は原子炉の地下にトンネルを
  掘って冷却設備を設置しましたが、実際にはこれは必要ありませんでした。

6.メルトダウンによるプールの水の水蒸気爆発
[「危険な話」での記述]
  「この下には、巨大なプールがあり、水が満たされていました。その中へ
 灼熱の金属の塊が落ち込めば、水は瞬間的にガスになり、水蒸気の大爆発を
 起こして、隣の3号炉も土台から吹き飛ばし、更に恐ろしい事故になったで
 しょう。本当か嘘か分かりませんが、ダイバーが潜っていってプールの栓を
 抜き、危険はなくなったらしい。こんな事をすれば、そのダイバーは当然既
 に死んでいるでしょうが、日本で事故が起これば、子供を救いたい一心で同
 じように決死隊を志願する人が出るでしょう。こういう事は有り得る。ソ連
 がプールの水を抜いたのは、どうやら本当らしい。その下にトンネルを掘り、
 コンクリートで防護壁を作って大汚染を食い止めている状況です。」
   ※(P.26)

[コメント]
 1.広瀬氏の記述の非科学的な点の一つは定量的な考えに乏しいことであり、
  この話もその一つです。灼熱の金属が水に落下した場合どうなるかは、そ
  れぞれが熱容量で考えてどれくらいの量であるかによって大きく違ってき
  ます。また金属塊の形状や落下後の金属塊の微細化の程度により、水蒸気
  爆発になるかどうかが変わってきます。今回炉芯の外に飛び散った燃料体
  は全体の3〜4%ですから、これでは広瀬氏のいうような爆発が発生する
  とは考えられません。
 2.また、水蒸気爆発が起きたら直ちに破壊につながるというのも非科学的
  です。問題はプールの上の空間がどれくらいの大きさか、また、それが密
  閉されているかどうかによって、その部屋が爆発で吹き飛ぶかどうかが違
  ってきます。
 3.なお、ダイバーがプールの栓を抜いたとか、コンクリートで防護壁を作
  ったとかいう記述がありますが、どの様な情報からの引用したのか事実関
  係が明らかでなく、根拠を明記していないのでコメントのしようがありま
  せん。

7.フィンランドの異常放射能
[「危険な話」での記述]
  「現在でもこの中が坩堝のような状態で、赤い灼熱した非常に高温の金属
 の塊がまだ崩壊熱、核分裂後の崩壊熱というものを持って手のつけられない
 状態になっているということです。この事故はまだ何も終わっていませんよ。
 それは次の事から分かります。
  この6月12日の記事を見てください。ソ連のとなりのフィンランドで、
 事故直後の4倍もの異常放射能が検出されたということです。6月12日は、
 事故から既に一ヶ月半も後です。」(P.26)

[コメント]
 1.”赤い灼熱した非常に高温の金属の塊”というのは、広瀬氏の想像上の
  もので、誇張した言い方であり、正しいものではありません。
 2.この「危険な話」の記述は、P.27に乗っている6月12日付けの新
  聞記事の切抜きからのものです。しかし、その記事にはチェルノブイリで
  はなく”ソ連邦の原発基地のあるリトアニア地区から来た可能性を示唆し
  ている”と出ています。
 3.このような異常放射能が仮に原子力発電所の事故であれば、このフィン
  ランドのコトカという町(と新聞の切抜きに出ています)だけでなく、フ
  ィンランド国内の他の地域や、他のヨーロッパの国々で異常放射能が発見
  されるはずですが、いろいろ文献を調査しても、1986年の6月にその
  ような報告はなされていません。
 4.従って、このフィンランドで測定された異常放射能というのは、おそら
  く測定の誤りか、計器の異常と考えるのが妥当ではないでしょうか。

8.コンクリート密閉後の状態
[「危険な話」での記述]
  「内部はメルトダウンで坩堝の状態です。猛烈な勢いで放射能のガスが吹
 き出していますから、上部に完全な蓋をすれば、爆発しますよ。家庭にある
 圧力鍋だって、完全に蓋をすれば爆発します。従って実際には、セメントが
 ひび割れて内部からもうもうとガスが噴出しているという状態ですね。」
 ※(P.30)

[コメント]
 1.チェルノブイリ事故の後、どうしてコンクリートで密閉する必要があっ
  たかというと、燃料体が破損し本来閉じ込められているべき核分裂生成物
  が環境に放出される可能性が有るため、それを防ぐ防護壁を設けるためで
  した。
  2.そのためには、まず、再臨界にならないようにホウ素を投入し、熱吸収
  ・しゃへいや微細な放射性物質吸着などのため鉛とドロマイトを投入し、
  その上で土と砂を掛けたのです。この段階では、完全に密閉状態ではない
  ため、空気による冷却も効果的でした。
 3.そして、燃料体の温度がかなり下がり、再臨界の恐れもないことを確認
  した上で、コンクリートによる密閉工事に取り掛かったのです。コンクリ
  ートで塞いだ後は、燃料体から出る崩壊熱が、コンクリートの熱容量及び
  大地への熱の逃げにより十分小さいため、問題なく冷却されています。また、
  ソ連当局は念のため、温度測定を続行して行っているとの事です。

9.第2の爆発の可能性
[「危険な話」での記述]
  「いま私が心の中で祈っているのは、どうかチェルノブイリが第二の大爆
 発を起こさないように、ということです。ソ連の報告書に恐ろしい言葉を見
 つけ、それに気が付きました。▲自発性連鎖反応が発生するという潜在的な
 可能性があるため・・・▼というくだりです。この文章をじっと見つめてく
 ださい。はっきりいえば、今でも核爆発が起こる恐れがあり、ということで
 すね。」
                       ※(P.30,32)

[コメント]
 1.チェルノブイリ事故の発生当初、ソ連当局はあらゆる可能性を考えて、
  燃料が溶け落ち一箇所に集まって再臨界となり、核分裂が一時的に起きる
  かも知れないと危ぐした事は事実です。しかし、広瀬氏もソ連の報告書を
  最後まできちんと読んで頂ければ、当初ソ連当局は、炉心の溶融の可能性
  を考え大量のホウ素を投入すると共に、マグネシウム入りの特殊コンクリ
  ートを炉心の下の方に流し込んだ事、しかし、事故の状況がはっきりした
  段階で、これらの措置は不必要だったと述べられているのを理解されるは
  ずです。
 2.なお、核分裂が仮に起こったとしても、その反応のエネルギーで塊がい
  くつかに飛び散るくらいのもので、核爆発とは比べものにもなりません。
  ”核分裂反応=核爆発”というのはここだけでなく、広瀬氏がいろいろな
  ところで、述べていることですが、科学的には正確ではありません。

10.事故原因の実験の有無
[「危険な話」での記述]
   「つまりソ連は、4月の爆発についてこう言っている。原子炉に何か故
  障が起こった時、タービンはまだ威勢よく回転している。それを利用して
  発電し、いろいろな安全装置を働かせて緊急対策を打てるようにする。そ
  のため安全装置を切って実験していた。そこに異常が発生したのである、
  と。しかし、これほど危険な実験をなぜ原子炉でやらなければならないか。
  こんな事は火力発電所のタービンを使うのが常識でしょう。私ならやりま
  せんよ。有り得るシナリオだからといって、それが事実と信じてはいけま
  せんよ。嘘の原理とは、有り得るから嘘が成立するものです。」
  ※(P.39)

[コメント]
 1.ここでは、広瀬氏がチェルノブイリ事故の原因となった実験を嘘として
  いますが、ソ連の報告書やソ連の報道はこの実験が事故のもとになったと
  しており、他の原因があるとの情報があるとしたら、むしろ教えて欲しい
  ものです。
 2.この実験を行った背景ですが、配管が大破断した場合、チェルノブイリ
  型の原子炉の場合もわが国の軽水炉と同様に、安全性を確保し炉心に冷却
  水を注入するためのポンプを急速に立ち上げることが必要になります。ポ
  ンプを動かす電源には、そのため所外電源を用いるか、非常用電源を用い
  ます。チェルノブイリ炉では、この非常用電源が定格出力になるには時間
  が掛かるため、中継ぎの電力を供給する必要があり、このような中継ぎの
  電力として、原子炉停止後も慣性で動いているタービンの回転エネルギー
  を使用したらどうかと考えて発電機が設計されていました。ところが、建
  設後確認したところ当初の設計通りにうまく使えなかったため、発電機の
  一部を改造したうえで試験を行ったのです。

11.安全装置は切られていたか
[「危険な話」での記述]
   「しかも9月末にNHKが放送したチェルノブイリの特集番組の中で、
  ”運転員は安全装置を切っていなかったと証言している”という一言があ
  りましたね。すべて嘘なのです。実はそれまで正常だった原子炉がいきな
  り異常になると、わずか4秒で爆発してしまった。1,2,3,4,ドカ
  ン。これでは全世界の如何なる緊急安全装置も爆発を防ぐことはできない。
  ※(P.39,41)

[コメント]
  1.NHKの特集番組で、”運転員は安全装置を切っていなかったと証言し
  ている。”と伝えられたかどうかは分かりません。広瀬氏は、この一言で
  ソ連の事故調査を”すべて嘘”と決めつけていますが、どうしてこの運転
  員の発言が正しくて、ソ連の報告書が”すべて嘘”といえるのでしょうか。
 2.運転員が正しく事実を伝えたかどうか、通訳に誤りがなかったかどうか、
  それをNHKが正しく伝えたかどうか、まったく分かりません。問題は、
  一人の運転員の発言で決まるものではなく、事故後のいろいろな状況調査
  の結果を科学的に推定し、原因を決めるべきものであって、これは飛行機
  の墜落事故、船や列車の衝突事故などあらゆる場合に言えることです。
   ソ連当局は、もちろん運転員の証言を求めたでしょうが、それだけでな
  く、あらゆる状況証拠を集め、その結論として、”安全装置を切っていた”
  としているのです。
 3.「それまで正常だった原子炉が、いきなり異常になる”と言うのは非科
  学的です。これはまるで、お化けかなんかが出てきたといっているような
  ものです。急激な出力上昇の前の数十秒間にわたって緩やかな出力上昇が
  あった事は、はっきり記録に残っていますが、このとき既に原子炉は異常
  状態に入っていたといえます。そして、もし安全装置が切られていなけれ
  ば、それより遥か以前の過程で既に安全装置が働き原子炉が停止し、あの
  様な悲惨な事故は起こらなかったのです。

12.IAEAの性格
「危険な話」での記述
  「いいですか。IAEAが国連にあり、国連が国際平和の象徴だなんて子
 供騙しの物語を信じてはいけませんよ。元国連事務総長ワルトハイムの履歴
 にナチスの影が見えるとおりです。IAEAとは、広島と長崎に原爆を投下
 するためにスタートした部隊が、戦後直ちに国連の中に原子力委員会を創設
 して原爆産業の独占を画策し、そこから誕生したし企業の代理人グループが
 動かしている組織です。」※(P.41)

[コメント]
 1.国際原子力期間(IAEA)の沿革やIAEA検証をよく調べてみると
  すぐに分かることですが、広瀬氏のこの記述にいろいろ誤りがあります。
 2.まず、”IAEAが国連にあり”という記述は誤りで、IAEAは国連
  憲章ではなく、IAEA憲章によって設立された機関であり、国連とは独
  立した機関です。
 3.次に、IAEAの沿革ですが、やはり広瀬氏の記述に誤りがあります。
  「危険な話」の”広島と長崎に原爆を投下するためにスタートした部隊が、
  戦後直ちに国連の中に原子力委員会を創設し”との記述は誤りであり、正確
  には次の通りです。
   昭和21年1月、米国とソ連などの提案により国連総会で国連原子力委
  員会が設置されました。この国連原子力委員会に、国際的な組織によって
  原子力の独占的な管理を目指す内容を含んだバルーク・プランが米国によ
  って提出され、何年かにわたって議論されました。しかし、このバルーク
  ・プランは実質的に米国一国により核兵器の独占を目指すものであるとソ
  連などが強行に反対し、ソ連が昭和24年8月に核実験を行ったところで
  実質的な意味はなくなりました。このため、昭和27年1月には国連原子
  力委員会は解散しています。
 4.国連原子力委員会とIAEAは関係ありません。IAEAは、国連原子
  力委員会の解散後行われた、昭和28年12月の国連総会での米国アイゼ
  ンハワー大統領の”Atoms for Peace”演説に設立の源を持っています。こ
  の演説により、核兵器国だけでなく世界の各国に原子力平和利用を目指す
  動きが高まり、結果として昭和31年10月にIAEA憲章が採択され、
  よく昭和32年7月に発効したものです。わが国は、設立当初よりIAE
  Aに参加しています。
 5.”(IAEAとは)私企業の代理人グループが動かしている組織です。”
  というのは何を指すのか、よくわかりません。IAEA憲章第二条をお読
  み頂ければ、そのような機関ではないことははっきりするでしょう。

ョ「「「「「「「「「「「「「「「「「「「「「「「「「「「「「「「「イ    
、                          IAEA憲章                          、    
、                                                                、    
、  第二条(目的)                                              、    
、  機関は、全世界における平和、保健及び反映に対する原子力の貢献、    
、を促進し、及び増大するように努力しなければならない。機関は、出来、    
、る限り、機関が自ら提供し、その要請により提供され、またはその監督、    
、下もしくは管理下において提供された援助がいずれかの軍事的目的を助、    
、長するような方法で利用されないことを確保しなければならない。    、    
カ「「「「「「「「「「「「「「「「「「「「「「「「「「「「「「「「コ    

13.ヨード投与効果と甲状腺癌発生率
「危険な話」での記述
  「ここにヨウ素がふた粒あったとすると、その片方が放射能を失って安全
 なものに変わるまで、たった一週間。確率論的ですよ。ところが、後で詳し
 く話しますが、南太平洋のビキニ海域で核実験が行われ、その一帯に住んで
 いた人のほとんどが甲状腺に障害を持っている。その住民を追跡してきた写
 真家の豊崎博光さんと先日あって話を聞いたのですが、この人達がヨード剤
 を飲んでいたというのです。危険なヨウ素を体内に取り込む前に、ヨード剤
 を飲んで体の中をヨードで一杯にしておけば、危険なものは入り込みにくい、
 という原理ですね。ところが、それが効かなかった。つまりチェルノブイリ
 や、ヨーロッパの子供達には、間違いなく甲状腺癌がすさまじい勢いで発生
 する。もう既に、兆候は出始めているでしょう。」※(P.60,61)

[コメント]
 1.まず、事故の際のヨウ素投与の効果についてですが、これは放射線医学
  の常識であり、科学的には、広瀬氏も書いているとおり、”危険なヨウ素
  を体内に取り込む前に、ヨード剤を飲んで体の中をヨウ素で一杯にしてお
  けば、危険なものは入りにくい”という表現がほぼ正しいのです。これが、
  どうして写真かの一言で否定されてしまうのか、理解できません。
 2.写真家の豊崎氏が間違って聞いたのかもしれませんし、また仮に、豊崎
  氏の言うとおりヨード剤をビキニの人々が飲んでいたとしても、飲むタイ
  ミングが遅くて、既に放射製のヨウ素が体内に入ってしまっていたのかも
  しれません。そちらの方を科学的に追求すべきであって、豊崎氏の発言→
  ヨード材は効かない、とするのは論理の短絡です。
 3.ビキニ海域の人々の”ほとんどが甲状腺に障害を持っている”という表
  現がありますが、これはどの様な根拠によるのでしょうか。1977年の
  国連科学委員会(UNSCEAR)の報告によれば、マーシャル群島の甲
  状腺癌の発生率は243人中7人に過ぎません。
 4.チェルノブイリやヨーロッパの人々の甲状腺癌の発生率については、ソ
  連やOECD(経済開発協力機構)などで科学的な推定がなされています。
  まず、ソ連の報告書では、ソ連ヨーロッパ部の住民7500万人のヨウ素
  −131による個人や集団での被曝線量の算定結果から、チェルノブイリ
  事故による甲状腺癌の死亡率の増加は、自然発生率の約1%になるとして
  います。次に、OECDの原子力機関の報告書では、西ヨーロッパ4億人
  についての被曝線量の算定結果から推定すれば、他の癌も含め甲状腺癌も
  検出できるほど有意な増加をもたらすものでないとしています。
 5.米国研究審議会の電離放射線の生物学的影響に関する委員会報告書(B
  EIR−V報告書、1980年)によれば、甲状腺癌の最短潜伏期間は1
  0年、最多潜伏期間は20年であるとしています。1986年4月にチェ
  ルノブイリの事故が発生し、広瀬氏がこの本を書いた1987年4月に「
  もう既に、(甲状腺癌の)兆候が出始めているでしょう。」という推論は
  全くの非科学的です。

14.食品摂取制限レベル
「危険な話」での記述
  「日本で検出された放射能の量は安全だったのでしょうか。西ドイツのヘ
 ッセン州というところが厳しい基準を設けております。安全基準、いや、こ
 れ以上越えると危ないですよ、という危険基準がミルク1リットル中のヨウ
 素のようとして540ピコキュリーを越えてはならない、絶対に飲むな、と
 なっている。ピコと言うのは1兆分の1だから小さいと思わないでください。
 メキシコの事件で説明した通り、・・・・・日本では牛乳の中にどれくらい
 の量が出たかといいますと、島根県で最高値678という数字が科学技術庁
 の発表の中に出ています。グラフの星印のところを比べればすぐ分かるとおり、
 既にヘッセン州の安全基準を遥かに越えているのです。この日本で。」
  ※(P.116)

[コメント]
 1.西独を含め西欧各国において、チェルノブイリ事故後、食品の放射能レ
  ベルにより摂取制限を行いました。これを「食品制限レベル」と呼んでい
  ますが、これが広瀬氏の言う”危険基準”即ち、このレベル以上の物を飲
  食したら危険であるかというと、それは誤りです。
   科学的な知見を基に、国際的にこの程度の放射線被曝であれば、まず人
  体に影響が無いと考えられるレベルが決められており、これを「被曝線量
  限度」と呼んでいます。「食品摂取制限レベル」と言うのは、長い期間に
  わたって飲食してもこの「被曝線量限度」を越えないようにと、安全余裕
  度を十分に見た上で逆算して決められたものなのです。
 2.「危険な話」にあるヘッセン州の540pCi/Lという基準ですが、
  根拠はよく分かりません。西独の連邦政府が定めた基準は540Bq/L
  であり、単位換算すると13500pCi/Lとなります。従って、広瀬
  氏の記述にある540pCi/Lと比較すれば25倍も以上です。
  3.チェルノブイリ事故の際、島根県で678pCi/Lという値が測定さ
  れたことは事実です。しかしながら、すぐにレベルが減少し、5月中旬に
  は検出されなくなりました。この測定データから日本の乳児の甲状腺被曝
  量を算定していますが、先ほどの被曝線量限度の二桁も下であり、この程
  度では、将来甲状腺癌が有意に増加するとは考えられないというのが結論
  です。
 4.ちなみに、”キュリーそのものがとてつもなく危険な単位”というもの
  非科学的です。キュリーと言うのは、単位時間どれくらいの原子(核種)
  が崩壊するかという、放射能の強さを表す物理量の単位であり、危険の度
  合を現す単位ではありません。いかにキュリー数が大きくても、十分に隔
  離されていたり、しゃへいされていたりすれば、人体に影響のあるもので
  はありません。また、体内に入った場合でも、その核種の半減期、放射線
  の種類とエネルギー等により、危険度は著しく異なります。

15.西独の汚染と推定死亡数
「危険な話」での記述
  「最近はどうなっているか。私の知人が西ベルリンから土を持ちかえり、
 これを京都大学の小出先生が分析してみると、やはり大量のセシウムが検出
 されました。小出さんの話では、先ほど述べた”ニューヨーク・タイムズ”
 9月23日付けの記事と同じように、西ベルリンのセシウムは、過去におい
 て行われた全ての核実験による死の灰を合計した量が出ています。
  セシウムだけでなく、ストロンチウムなどの無数の死の灰がありますから、
 学者の計算によると1000人に1人ぐらいが危ない、つまり死ぬ、という
 恐ろしい数字が出ています。この”1000分の1”の”1”を引くのは宝
 くじのようなものでしょう。東西ドイツの人口を合計すると8000万人、
 日本のほぼ3分の2ですから、掛け算をするれば死者の予想が立つ。ところ
 が小出さんは、そのように単純な話ではないと言うのです。
  小出さんによれば、”1”のカードを引くのは殆ど100%近くが、この
 人達だと言う。ご覧ください。子供達ですよ。若い人達ですよ。いま、ヨー
 ロッパで幼い子供を育てているお母さん達の気持ちがどれほど深刻なものか
 ・・・」 ※(P.124,125,126)

[コメント]
 1.まず、京都大学の小出先生の測定値ですが、「危険な話」のP.125の毎日
  新聞の記事でみると、OECDの原子力機関の報告書と同程度であり、妥
  当と考えられます。また、チェルノブイリ事故による西独へのセシウム−
  137の降下量は、過去の大気圏核実験による西独への積算降下量と同程
  度であると言うのも、妥当と考えられます。
 2.しかし、その量がどの程度西独の人々の健康に影響を与えるかと言う点
  では、この「危険な話」の記述は正しくありません。OECDの原子力機
  関の報告書では、セシウム−137などからの被曝量を科学的に算定し、
  それに基づいて身体的及び遺伝的な健康障害の発生は、自然に発生する頻
  度と比べて非常に小さく、検出可能であるほど有意な追加をもたらさない
  としています。
 3.「危険な話」にある”学者の計算によると1000人に1人ぐらいが危
  ない、つまり死ぬ”という記述は、毎日新聞にある米国のゴフマンという
  米国の物理学者のリスク評価にしたがって計算した物であろうと考えられ
  ます。このゴフマンという学者は、他の世界各国の学者のリスク評価より
  2桁も大きな値をだして、一時期注目を浴びましたが、その後、放射線の
  影響に関する学会においては、このゴフマンのリスク評価は非科学的に過
  大すぎると言うのが定説になっています。
 4.なお、1000人に1人が死ぬとして、その1人は100%近くが、子
  供達や若い人達と言うことはまったくの非科学的で根拠がありません。確
  かに、成長期にある子供達は細胞分裂が盛んで、一般に、細胞分裂の過程
  にあるものがより放射線の影響を受け易いことは事実です。しかし、これ
  は程度の問題であって、100%近くと言うのは極端で、誤りと言ってい
  いでしょう。

16.トナカイ肉の汚染
[「危険な話」での記述]
  「ヨーロッパからの近況報告によれば、11月21日になって、ノルウェ
 ーがこのトナカイの危険基準を10倍に引き上げ、ラップランドの人がこれ
 を食べられるようになったそうです。信じられませんが、発病すると知りな
 がらたべなければならないところまで追い詰められているわけです。」
 ※(P.126)

[コメント]
 1.OECDの原子力機関の報告書によれば、ノルウェーにおいてチェルノ
  ブイリ事故後肉類について600Bq/Kgを「食品摂取制限レベル」と
  していましたが、1年後以上の1986年11月になって、トナカイ肉に
  ついて6000Bq/Kgに制限レベルを引き上げて規制を緩めたことは
  事実です。しかし、「危険な話」の”発病すると知りながら食べなければ
  いけないところまで追い詰められています。”という記述は、大げさすぎ
  て読者に誤解を与えます。
 2.「食品摂取制限レベル」と言うのは、前述したように、このレベルで放
  射性物質に汚染している食品を長期間飲食したとして、国際的な「被曝線
  量限度」を越えないように、安全余裕度を十分にみて、行政的に定められ
  るものです。
   当初は余裕度を大きくみて600Bq/Kgにしたわけですが、この基
  準はトナカイ肉の消費量とその中の放射能のレベルからみて厳しすぎると
  判断して、安全余裕度の範囲内で「食品摂取制限レベル」を見直して、肉
  類のうちトナカイおよび猟獣の肉について6000Bq/Kgとしたもの
  なのです。従って、”発病すると知りながら”と言うのは非科学的です。
  3.OECDの原子力機関報告書によれば、ノルウェー政府はトナカイ等の
  肉の摂取制限レベルを10倍に引き上げたことを報告した上、自国民に対
  する遺伝的障害や癌の発生について推定していますが、これによれば、こ
  の引き上げを十分に考慮しても、自然発生するものに有意な追加をもたら
  さないとしているのです。

17.日本の輸入食品の検査体制
[「危険な話」での記述]
  「あるいは日本の輸入食料は9割以上の大部分がノーチェックで、書類検
 査だけで国内に流れ込んでいること、これは放射能に限らず、あらゆる食品
 添加物について言えることです。」※(P.130)

[コメント]
 1.”日本の輸入食料は9割以上の大部分がノーチェック”と言うのは、ど
  の様な根拠に基づくのか、よく分かりません。
 2.当財団が、厚生省生活衛生局食品保健課に問い合わせた結果は以下の通
  りであり、国民の健康と安全を守るため厳重な検査体制が敷かれていると
  の事です。
  (1) まず、検査の基となる基準ですが、370Bq/Kgであり、これを
   越えたものは食品衛生法第4条の違反として輸入を許可せず輸出国へ返
   しているのです。370Bq/Kgと言うのはどのような数値かを述べ
   ますと、かりに370Bq/Kgの限度いっぱい放射性物質で汚染され
   ていたとして、ヨーロッパの輸入食品の日本の全食品中の割合が約2%
   ですので、それを毎日1.4Kg食べることによる被曝量が年間4ミリ
   レム程度です。自然の放射線による被曝が年間100ミリレム程度です
   し、日本の国内での地域差が数十ミリレムありますので、この程度の被
   曝量は無視して良い量です。つまりは、それほど安全サイドの輸入制限
   基準を用いているのです。
    (2) 次に、検査の場所及び測定方法ですが、厚生省は一昨年11月以来、
   全国20箇所の検疫所で検査を実施しています。まず、輸入食品の80
   %の集まる成田空港、東京、横浜、大阪、神戸の各港においてガンマ線
   シンチレーション・サーベイ・メーターにより、食品の放射能測定がさ
   れています。この5箇所で放射能が検出されたもの(バックグラウンド
   を越えたもの)と残り15箇所の検疫所に運び込まれるヨーロッパ食品
   は、国立衛生試験所に送られてガンマ線スペクトロメータ等により精密
   測定され、適否が最終的に判断されるのです。なお、成田空港等の5箇
   所では、本年5月からガンマ線スペクトロメータで精密測定されています。
  (3) 検査の対象ですが、これは次表のようになっており、問題のありそう
   な国の食品については全数検査が実施されています。本年4月末までで
   検疫所と国立衛生試験所で合わせて15、936件、検査が実施されま
   した。また、輸入許可が出なかったものは、本年10月5日現在44件
   です。

                   検疫所における輸入食品の放射能検査

ョ「「「「「「「「「「「「「「「ホ「「「「「「「「「「「「「「ホ「「「イ
、 *                         国 、スペイン・フランス・イタリヤ・ギリシャ・アルバニア、      、
、       *                      、ユーゴスラビヤ・トルコ・スウェーデン・      、その他、
、               *              、フィンランド・アイルランド・ルーマニア・ソ連(ウラ、のヨーロッ、
、食品                  *       、ル山脈以東の地域は除く)     、パ地域、
セ「「「「「「「「「「「「「「「゙「「「「「「「「「「「「「「゙「「「ニ
、ナッツ類(調整品も含む)・香辛 、                            、      、
、料・野草加工品(インスタント茶含む) 、                            、      、
、果実加工品・牛肉(内臓肉を含む  、             A             、  A  、
、)・トナカイ肉・ビーフエキス等濃縮調味原 、                            、      、
、料                            、                            、      、
セ「「「「「「「「「「「「「「「゙「「「「「「「「「「「「「「゙「「「ニ
、食肉及び食肉製品・名ナチュラルチーズ  、                            、      、
、・脱脂粉乳(調整品を含む)穀類  、                            、      、
、加工品・野菜(加工品を含む)・   、             A             、  B  、
、ポップ・ハチミツ・豆類・キャビヤ・魚介    、                            、      、
、類(沿岸、内水面で漁獲されるも、                            、      、
、の)                          、                            、      、
セ「「「「「「「「「「「「「「「゙「「「「「「「「「「「「「「゙「「「ニ
、上記以外の食品                、             B             、      、
カ「「「「「「「「「「「「「「「ヨ「「「「「「「「「「「「「「ヨ「「「コ
  注1)Aに該当する食品については、全ロット検査を行うこと。
 注2)Bに該当する食品については、成田空港、東京、横浜、大阪及び神戸
   の各検疫所において10%を目途に検査を行うこと。この場合、国毎、
   食品毎に最初に輸入されたものについては、必ず検査を行うこと。
 注3)ビーフエキスについては、輸出国を問わず全ろっと検査を行うこと。
 その他)なお、従来通り、ヨーロッパ地域が原産国であり、他の地域で加工
    等されたことが明らかなものにあっては、以上の措置に準じた取扱と
    する。

18.ソ連人の死亡者数
[「危険な話」での記述]
  「と言うのは、原発事故の死亡者の数と、報道された日付けの関係をグラ
  フにしてみると分かるのですが、このように一直線に増え続けて一時は3
  5人位までいったのです。ヨーロッパ情報によると。ところがその後発表
  されなくなりました。そして次に発表されたとき、死者の数が28人に減
  り、1986年末で31人となっている。おそらく死者の数が急激に上が
  ったため、もう発表するのをやめたのだろうと私はにらんでいます。被曝
  して、2カ月ぐらいが特に危険な時期ですし、ちょうど符合しますから。」
  ※(P.141,142)

                  表があるが省略します。(「誤り人」)

[コメント]
 1.「危険な話」では、報道された日付けとその死亡者数をグラフにしてい
  ます。この中で、事故の日から30日目までを直線で結んでいますが、こ
  れは科学的ではありません。放射線を大量に浴びた場合、急性障害によっ
  て死亡するのですが、この急性障害はだいたい1,2週間がピークになる
  ものであり、だいたい2カ月までにはその影響が全て出てしまいます。即
  ち、2カ月を過ぎれば、もう急性障害による死亡者数が直線的に増加して
  いくものではないのです。
   科学的にも大量の放射線被曝による急性障害は、広島、長崎などの原爆
  における被曝データなどで経験的に知られているものです。
 2.次に、本来直線的に増加し、かなりの死亡者数になるはずなのに、19
  86年末まで31人となっているのは、ソ連の報告が嘘であるとしていま
  す。最初の方も1986年末もいずれも当局発表に違いなく、片方をその
  まま鵜呑みにし、片方を嘘を決めつけるのはどうでしょうか。
  3.なお、事故後2年以上経過した現在に老いても、ソ連発表の死亡者数は
  31人であり、当初の発表と変わっていません。ペレストロイカがあのよ
  うに進み、ソ連の体制批判を行った上で自殺した原子力科学省レガソフ氏
  の手記までがプラウダに堂々と発表されているのですから、ソ連が死亡者
  数を偽っているとは思われません。

19.将来のソ連人の推定死亡者数
[「危険な話」での記述]
  「全世界がこれで汚染したわけです。”もう大丈夫”と言っていたソ連で
 さえ、今ようやく6000人ぐらい死亡すると言うような数字をいい始めま
 した。全く信じられないほど、人を馬鹿にした数字です。」※(P.154)

[コメント]
 1.ソ連がもう大丈夫と言ったり、6000人くらい死亡すると言ったりし
  たと「危険な話」にありますが、出典が明記されていません。
   ”もう大丈夫といったのは、おそらく放射線による急性障害による死亡
  者数がもう出ないと言う主旨だと考えられます。
 2.放射線を浴び、数年から十数年の潜伏期間を経た上で癌になったりする
  ことを晩発障害と呼びます。これは、どの位の集団の人々がどの位の放射
  線を浴びたかを科学的に評価し、推定されます。ソ連がIAEAに提出し
  た報告書によれば、ソ連のヨーロッパ部の住民7500万人のうち、将来
  チェルノブイリ事故により癌で死亡するのは、自然発生で推定される死亡
  者数950万人に対し、これの0.05%以下であり、人数にして約47
  50人以下と推定しています。

---------------------------- 終わり ----------------------------------
ps
文の中でチェルノブイリ自己とあるのは、「チェルノブイル事故」の誤りです
                       また、誤った「誤り人」です。


#0001 匿名     8812041628

 以前から気になっていたのですが,通信速度も考えずにこのような長文をアップするのは,ちょっと困りませんか?
 できれば,アーカイバか何かで圧縮してアップしてはどうでしょうか?
 水をさすようなことすみませんでした.


#0002 sci1491  8812050358

読み込みをしながら、私もそう思いました。
圧縮してから、アップロードすべきです。
具体的事実関係を見るだけなら、サブディレクトリに、収めれば良い。
つまり     関連発言にまわせ。
自身の意見を広めたくて仕方ないのなら、テレビにでも出演しろ。
言葉が汚くてすいません。本心です。


#0003 sci1491  8812050408

再び見て、頭に来た。
こんなの読ませるぐらいなら、モノ書きにでもなれ。
モノ書きになって、堂々と読ませろ。。。。


#0004 sci1009  8812061808

圧縮ってのはどういうのかわかりませんが、
それはワープロでも読めるんですか?
「関連発言に書く」というのはいい手だと思いますが、
ここのボードは基調発言で進めていくというやり方になってたので
どうでしょう。
   SCI1009:狩野