Gen00372 ライブラリー「放射線の考え方」

#0000 sci1044  8810161228


ライブラリー「放射線の考え方」
 PC−VANより入手した「放射線の考え方」をUPしますが、本ネットは
途中でキャンセルできないシステムなので、基調書込に入手経路を書き、本論は
関連書込しておきます。
 なお、本論は1本当たり300行〜400行の構成に再編成してありますが、
内容はオリジナルと変りません。

       ョ「「「関連書込の構成「「「「イ
       、1.放射線の考え方 1〜3 、
       、2.   〃    4〜6 、
       、3.   〃    7〜9 、
       、4.   〃   10〜14、
       カ「「「「「「「「「「「「「「コ
                             「誤り人」より




#0001 sci1044  8810161232


★★★★★★★★★★★★ 放射線の考え方 1〜3 ★★★★★★★★★★★★
                         From:PC−VAN
------------------------------------------------------------------------- 
放射線の考え方 (1) Tosh <MSX
★内容
From MSX-NET Jiji Salon (confer.room4) Note 34 Res: 1/17
By msx03025 10:21  8/14/88 

やっとできました。
この一連のファイルは、放射能の話をするときの参考になるように企画しました。
直接、時事とは関係ないかもしれません。
次のファイルからはじまりです。
Tosh

From MSX-NET Jiji Salon (confer.room4) Note 34 Res: 2/17
By msx03025 10:24  8/14/88 
                         放射線の考え方 1/14
 「食品の放射能は370ベクレル。」
 この一言を聞いたとき、人々の反応は実に様々です。
 (ウラン235の放射能と比べて)大丈夫たと言い張る人から、果ては体に黒いぶつ 
ぶつができて血反吐を吐くと言う人まで。
 どちらの側の人も、自分なりの考えがあってのことなのですが、この様な論が大手を 
振って歩いているのを見ると、少々うんざりします。2人の言い分がまるで違うからで 
す。
 ま、話が原発ならある程度は笑って見ていられますが、ことが食品の放射能汚染にな 
ると、そうは言っていられません。毎日の生活に関わることです。言いたい放題の話で 
も、「言い放った者の勝ち」なのですから、議論の前に各種事項の再確認をしておきた 
いのです。
 こんなことを真面目に考えなくてはならないのは、放射線を知るためには実に広い分 
野の知識が必要になるからです。
 放射性同位体から出た放射線は、体を形作っている分子に当たります。この分子が放 
射線の力で化学変化します。化学変化した分子とこの分子を持つ細胞はは長い細胞分裂 
の後に大きな生物学的な影響(病気や遺伝)を引き起こすのです。
 物理の得意な人は、放射性同位体と放射能の関係はすらすら言えるでしょう。
 化学の得意な人は、放射線と化学変化について説明できるでしょう。
 生物の得意な人は、遺伝の影響には詳しいでしょう。
 もし、お医者さんであれば、これらの点について様々なことをご存じでしょう。
皆さんの得意な分野があれば、そこを話して頂きたいのです。他の分野の方には素晴ら 
しい指針になります。もちろん、他の分野にもある程度の知見が欲しい。
 と・言っても深い知識はいりません。理系の方なら高校で習った数学と物理・生物、 
これにあとちょっとした知識があれば良いのです。たとえ理系でなくとも勉強すれば大 
丈夫です。また、家庭科でならった(別に習わなくても良いが)栄養の知識があれば、 
これ以上頼もしい味方はありません。
 一緒に勉強していきましょう。
 もうお分かりのとおり、この一連の巨大なファイルは放射線についてご存じの方には 
本来全く無用のものです。ただ、その様な方にはこのファイルのあら探しをしていただ 
きたいと思います。私も一部分しか知らないからです。
 さぁ、いよいよ、勉強をしていくのですが、その前に関数電卓かパソコンをご用意く 
ださい。放射能は一筋縄ではいかないかもしれません。しかし、それを電卓でつかまえ 
ようと言うのです。
 このファイルは根暗一郎さんの「放射能汚染食品Q&A」を見てアスキーネットMS 
Xで話し合いを見ながら、作ったものです。
 長大なファイルと貴重な資料を作成されたうえに、ファイルの作成を勧めてくださっ 
た根暗さん、また、労を厭わずに転送してくださったCarpさん、フロドさん,そし 
てMSXネットの皆さん・プレビューの批評を下さったエフさん、BLAZERさん、 
とんとかいもさんさらにpcsから批評を下さったLoTechさん達がいらっしゃら 
なければ、私がこの様な機会に恵まれることはありませんでした。特にBLAZERさ 
んの詳細な批評、LoTechさんの長崎の放射能汚染の予測は参考になった上にやる 
気をかき立てさせられました。本当にどうもありがとうございます。感謝の言葉もあり 
ません。
 あ、そうそう、私のファイルは全て転送自由です。
 どの様にでも使って下さい。(責任は負いませんが。)

放射線の考え方 目次

  はじめに  ・・・・・・・・・・・・・・  1/14
  予習編  (高校の復習)
      1 生物 ・・・・・・・・・・・  2/14
      2 化学 ・・・・・・・・・・・  3/14
      3 物理 ・・・・・・・・・・・  4/14
      4 物理の実習 ・・・・・・・・  5/14
  本編  1 放射線の考え方 ・・・・・・  6/14
      2 基礎的な放射線生物学 ・・・  7/14
      3 生体濃縮 ・・・・・・・・・  8/14
      4 本編の終わりに ・・・・・・  9/14
  終わりに  ・・・・・・・・・・・・・・ 10/14
  参考文献  ・・・・・・・・・・・・・・ 11/14
  付録  1 基本データ集 ・・・・・・・ 12/14
      2 放射生同位体の扱い方 ・・・ 13/14
  番外編   火力と原子力 ・・・・・・・ 14/14
Tosh

放射線の考え方 (2) Tosh <MSX
★内容
From MSX-NET Jiji Salon (confer.room4) Note 34 Res: 3/17
By msx03025 10:29  8/14/88 
予習編 生物                     放射線の考え方 2/14 

 放射線を浴びて健康を害する・だから、私達は放射線を恐れる。
ここでは 次の2つについて確認します。
    1.細胞分裂と遺伝
    2.自然界の平衡

1.細胞と遺伝

 1.1 細胞の構造
 生物固体は細胞からできています。
細胞は、核・細胞質・後形質に分けられます。
細胞には1個の核が入っています。
  核は核膜に包まれ、中には染色体があります。
細胞は細胞分裂によって増えます。
核の働き: 核には細胞の生命活動のための命令を出したり、次の世代に様々な性質を 
     伝えるための遺伝物質(DNA)が含まれています。このDNAは2本で1 
     組になっています。2重らせんという・あれです。

 1.2 細胞分裂
 細胞分裂は1個の細胞(母細胞)が2個の細胞(嬢細胞)に分かれる現象です。 分 
裂の手続きは、まず核が分裂して嬢核ができ、続いて細胞質が分かれて完了です。
細胞分裂は次の2種類に分れます。
体細胞分裂:体をつくっている細胞が増えるときに行なわれます。
減数分裂 :生殖に関係する細胞(卵や精子)が作られるときに行なわれます。
      (2重らせんが見事にほどけて1本になる。そして2人の親から1本ずつ 
      合わせて2本・1人分にする)
*細胞分裂の時に、不良DNAを様々な方法で捨てようとします。

 1.3 遺伝

1.3.1.基礎用語:(遺伝にはたくさんの用語が必要になります。)
形   質   :生物の形、色、等の個体の特徴となる性質、形状
遺 伝 子   :染色体上にあり、それぞれの形質を発現させる情報(暗号)を蓄え 
         る。
対立遺伝子   :対立する形質を伝える遺伝子。(例えば、血友病を発現する遺伝子 
         と発現しない遺伝子)
遺伝子記号   :遺伝子を示す記号。対立遺伝子のうち優性のものを大文字のアルフ 
         ァベットで、劣性のものを小文字で表す。
遺伝子型と表現型:1個の細胞中の遺伝子の組み合わせを遺伝子型といい、それによっ 
         て現われる形質を表現型という。(血液型みたいなもの)
交   雑   :受精をすること

1.3.2.優性と劣性
 一組の遺伝子対でその中に一つでも混ざっていれば、外にその形質(性質)を現す遺 
伝子を優性遺伝子、他のものが混ざっていない時にようやく形質を現す遺伝子を劣性遺 
伝子と呼びます。 発現形質の善し悪しとは関係ありません。
 例えば、血液型のO型は劣性、A,B型は優性と言えます。
(細胞分裂の項で述べましたが、子供を作るときは、片親の遺伝子の半分ずつが子に伝 
わります。 たとえ表面的には親子が似ていなくても、それは形質が劣性で発現しなか 
っただけで、遺伝子(つまり形質)は失われません。 両親より祖父祖母に似ることが 
ありえるのです。)

2 自然界の平衡

2.1 自然界の平衡
 生態ピラミッドという言葉は聞いたことがあると思います。
 動物は植物を食べる。草食動物は肉食動物に食べられる。こうして、植物が太陽から 
もらったエネルギーが、全生物を巡ります。 また、生体濃縮という言葉もご存じでし 
ょう。1匹の肉食動物は何匹もの草食動物を食べます。したがって、肉食動物は草食動 
物よりも(太陽)エネルギーが濃縮されている。
 しかし、この時に毒が混入すれば、毒も濃縮され、薄かった毒は濃くなります。
人間が生活して行くのに必要な環境は、空気・水・光・温度のみでなく、人間を取り巻 
く生物の働き合いがあるのです。

2.2 環境の保全
 人間の活動は、自然界全体を脅かす程になることもあります。
 化石燃料の燃し過ぎによって大気中の二酸化炭素が増えて、気温が上昇し平衡が崩れ 
てしまう温室効果。(これは止められないかもしれない、深刻。)
 火力発電所や原子力発電所の高温の排水も、海の環境を破壊しています。さらに、気 
温の上昇をもたらす恐れがあります。
 (なお、最近は法的な規制により、工場排水や下水は飲料水よりきれいです。)
 でも、チェルノブイリ事故に比べたら、子供のいたずらにも近いとも思えますね。こ 
れらは現在の最も深刻な環境破壊の例なのに・・・
 人類が生きる環境は自然の中にあります。このような環境を維持するためには(すな 
わち人間が生き延びるには)汚染の状態を監視し、汚染の除去に努力しなければなりま 
せん。

3.変異
 同じ人間でも個体間には違いがあります。生体の個体間の差異を変異といいます。
変異には、生活環境に起因して遺伝しない環境変異と、遺伝する突然変異があります。 
 突 然 変 異:自然界ではごくまれに、親とはかなり異なった形質を持つ個体が突 
         然現われ、しかも遺伝していくことがあります。突然変異には遺伝 
         子突然変異と、染色体突然変異があります。
 遺伝子突然変異:遺伝子が変化したことで形質が変化してしまうもの。
 染色体突然変異:減数分裂の際に染色体が半分にならずにできてしまった変異。
 人為突然変異 :放射線や多くの化学薬品は、遺伝子に直接作用したり、染色体の構 
         造異常を引き起こして突然変異を誘発します。
 勿論、種々の生物に突然変異を誘発させ、品種改良に役立てるなど利用範囲は広い。 
しかし、ヒトに対しても突然変異を誘発するので、その管理には十分気を付けなければ 
なりません。
Tosh

放射線の考え方 (3) Tosh <MSX
★内容
From MSX-NET Jiji Salon (confer.room4) Note 34 Res: 4/17
By msx03025 10:35  8/14/88 
予習編 化学                     放射線の考え方 3/14 

 放射線が当たると、放射線のエネルギーで化学反応が起こります。
 これが、遺伝子(これも分子です)を変化(化学変化)させます。
ここでは次のものを確認します。
1 原子の構造
2 化学結合
3 高分子

1 原子の構造

1.0 はじめに
 物質はそれぞれ固有の性質を持っていますが、現在では人類が積み上げてきた様々な 
実験や理論によって、物質に対する理解が一段と進みました。その結果、複雑に見える 
(生命現象も含めて)化学反応は、とどのつまり、原子の集合・離散であることが分か 
りました。

1.1 原子核の構成

1.1.1 アイソトープ
 原子は、原子核とそれを取り巻く電子から構成されています。
 原子核は陽子と中性子が固まっているものです。
この陽子の数によって呼び名が決まり、電子の数によって性質が決まります。(本来は 
電子の数=陽子の数ですが、実際の(例えば蛋白質の中)では原子同士で電子の取り合 
いがあって一致していないことが多い。)
 中には、陽子(電子)の数は同じなのに、重さ(質量)が違うものがあります。
 これは、中性子の数が違うからです。これらを互いに同位体(アイソトープ)である 
と言います。しかし(やっぱり)、その中でも不安定なものと安定な物があるわけで、 
不安定なものは放射線を出して、その代わりに自分は安定な原子になろうとします。
(放射線を出さないで、吸い込む場合もあります。)放射線を出す同位体を放射性同位 
体(ラジオアイソトープ)と言います。
   大雑把な言い方をすると、放射線は原子が壊れてできた強力な「破片」です。
   だから、例えばセシウムが捨てた放射線が、遺伝子の一部に当たるとそこの部分 
   (原子同士のつながり)がおかしなことになります。

1.1.2 電子配置
 原子核の周りには、何重もの(電子のための)軌道があります。各々の軌道には(電 
子の)定員があります。
 内側の(原子核に近い)軌道ほど、電子にとっては安定なので、内側の軌道から順次 
定員になるまで電子が入っていきます。そうすると一番外側の軌道はどうでしょうか? 

1.2 化学結合
  答えは:一番外側の軌道でも電子は安定(満員)になりたいわけです。
そこで、2つの(勿論もっとたくさんでも可)原子は近づいていって、問題の軌道を混 
ぜてしまい、電子の数をどんぶり勘定で合わせてしまいます。外側の電子にとっては、 
軌道が定員にさえなっていれば良いのですし、他の電子はしらんぷりです。この状態を 
2つの原子は結合している・と・言います。
 混ざり合ってできた新しい軌道は、2人の軌道の合いの子ですが、元の原子の力関係 
で、どちらかの親に似てきます。
 軌道の混ぜ方(結合の仕方)は、いくつかのパターンに分けられます。
 ○ 2つの原子がほぼ対等の立場で軌道を混ぜたもの。(共有結合)
 ○ 片方が圧倒的に強く、まるで電子を奪い取られたような形のもの(イオン結合) 
 ○ 多数の原子が、電子を出し合って「みんなのもの」にした形(金属結合)
   蛋白質(DNAも含めて)など生体を形作り、生命活動を司る物質では、様々な 
  原子が共有結合でつながっています。金属結合などでは電子が誰(どの原子)のも 
  のか分からないので、電子の一つや二つ、吹き飛ばされても大したことはありませ 
  んが、共有結合では電子が一つでも飛ばされたりすると2人(結合している2人の 
  原子)のバランスが狂って、結合が切れてしまいます。

1.2.1 化学反応とは
 化学結合によって、多くの原子が組になりました。この組のことを分子と言います。 
化学反応とは分子の作り直し(1番外側の軌道の作り直し)のことです。化学結合の主 
役が(最も外側の)電子であったように、化学反応でもこの電子が主役です。
 化学反応の目的はただ一つ、より安定な分子になること・です。
 生命活動はとどのつまり化学反応ですから、勝手に化学反応を邪魔したり、分子を変 
えてしまうものは毒です。

1.3 高分子
 ここまででは、原子の数が少ない分子を考えてきました。しかし、遺伝子や蛋白質は 
極めて大きな分子で、巨大分子とか、高分子と呼ばれています。
 大きいとどんなメリットがあるのでしょうか?
 とても長い、紐のような分子があります。これで丁寧に鞠(マリ)を作れば、内側に 
は水も入ってこない。(鞠の網目が水の粒(分子)と同じくらいの大きさだからしみこ 
んだりしない。) 巧妙な内張りをすれば、そこで色々なことができる。(これが酵素 
の力、生命活動の源。)
 逆に、膨大な(数億年分の)情報を貯めていったら長くなってしまったのかもしれま 
せん。(DNA等の遺伝子) DNAは極めて大きな分子です。DNAを構成している 
原子数は5000万個程度もあります。ここに、私達の重要な遺伝情報が詰まっている 
のです、この様な重要なものは、外敵の侵入から守るため何重もの膜(皮膚、組織を包 
む粘膜、細胞膜、核膜)に守られているし、万が一DNAに異常が見つかれば、生命は 
そのDNA(新しい生命の源)を破壊しようとします。
 しかし、放射線はそのような膜など関係なく飛び込んできます。 (透過性といいま 
す。) 放射線源が近くにあるだけで生命活動が妨害されると考えて下さい。
最後に
生命活動は、化学反応でまかなわれています。
それは、一番外側の軌道で行なわれます。
もし、突然、内側の軌道から電子が弾き飛ばされたらどうなるでしょうか?
各軌道の電子は我先争って内側の軌道に落ちていきます。
そして、分子は分裂してつながりのない原子に戻ってしまう。
放射線はこんなことを軽々と起こします。
Tosh
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#0002 sci1044  8810161240


★★★★★★★★★★★★ 放射線の考え方 4〜6 ★★★★★★★★★★★★
                         From:PC−VAN
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放射線の考え方 (4) Tosh <MSX
★内容
From MSX-NET Jiji Salon (confer.room4) Note 34 Res: 5/17
By msx03025 10:41  8/14/88 
予習編 物理                   放射線の考え方 4/14

 さて、いよいよ予習編の最後です。
 これまで、放射線が当たるとどんなことが起こるのか?を考えてきましたが、ここで 
は放射線そのものの性質を考えましょう。
ここでは次のことを確認します。
1.エネルギーとは
2.放射能と放射線のエネルギー
3.半減期とは?(実習)

1 エネルギー
 エネルギーとは何でしょうか?
 エネルギーとは、万物の神のように全ての現象の裏にあるものです。
 一例に、磁石のN極とS極の間の空間にエネルギーがたまっていて、これが磁石の力 
の源です。 月と地球の間にもエネルギーがたまっていて互いに引き合う力の源になっ 
ている。私達の生命活動のエネルギーは、食物として採る分子の中の、原子と原子の間 
に蓄えられています。
 これらの現象の裏では、必ず、これらのエネルギーがより低い方へ流れています。
 それどころか、エネルギーが高いところから低いところへ流れているのが、我々には 
光や熱、化学反応あるいは生命活動に見えるのかもしれません。

1.1 物理学の革命
 今世紀初頭、物理学は大革命を遂げました。
 物質(実体がある)はエネルギー(実体を持たない)の仮の姿でしかなかったのです。
 驚くべきことです。磁石のNSの間の、あの頼りない空間に蓄えられたエネルギーで 
さえ、立派にモーターを回しました。今やリニアモーターカーの動力にすらなる。とこ 
ろが、あの、頑丈な、まさに実体その物の「物質」がエネルギーに変わる!
一体どれほどのエネルギーを取り出して使えるのか? 当時、1900〜1920年頃 
はまるで、現在の超伝導のようなブームだったそうです。

2 放射能とそのエネルギー
 世の中には不安定な原子があります。 ウラン238などは原子核そのものが不安定 
で、エネルギーを外に放出して安定になりたがります。ウラン235などは中性子が来 
ると不安定になって分裂、安定になった差額(エネルギー)を放出します。
 エネルギーそのものは実体がないので、何か別のものにエネルギーを託して放出しな 
ければなりません。陽子と中性子の結合エネルギーは極めて大きく、これを解放して電 
子や、陽子、中性子に託すと、ものすごい勢いで飛んでいきます。これが放射線です。 
放射線を出す能力を放射能と言います。
 このような通常の物質に比べて高いエネルギーを持つ放射線は様々な使い道がありま 
す。ノーベル賞を手にした研究の1/3は放射線を使っている・と言われるほどです。 
厚さ計、トレーサー、ラジオグラフィー、放射線治療、品種改良など広く応用されてい 
ます。(人間が浴びれば、人間を品種改良(冗談・突然変異と言い直し)してしまう。)
放射線は次の3つに分けられます。
 アルファ線(α線):中性子2個、陽子2個からなる粒子(ヘリウム原子殻と同じ) 
           を放出する。質量が大きいので透過性が低いが破壊力大。
 ベータ線 (β線):電子1個を放出。質量が小さいので透過性が高い(破壊力はα 
           線より低い)
           生命活動が化学反応、すなわち電子の反応であることを考える 
           と電子が飛びまわっている環境・というのは好ましくない。
 ガンマ線 (γ線):X線と同じく電磁波。波であり透過性は極めて高い。(破壊力 
           は比較的小さい。)
           一番内側の電子を弾き飛ばすだけのエネルギーは十分あります。
         (予習編・化学)
* 放射線の(放射線に限らず)破壊力はエネルギーに応じて大きくなります。ここで 
  エネルギーの観点から他のものと比較しましょう。
 表3.1 エネルギーの大きさと引き起こされる現象
====================================
エネルギー    現象         対応する放射線
−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−
1meV     人間の住める     赤外線
          気温の維持
1eV      化学反応       可視光線、紫外線
1keV     電離         X線、α,β,γ線
1MeV     核反応        α,β,γ線
1BeV     中間子、反粒子の発生 加速器で扱う放射線、宇宙線
−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−
* 単位eV(エレクトロン・ボルト)=1粒の電子(電気量e)が1Vの電圧をもら 
  った場合に換算したエネルギー(エネルギーは全ての現象に関与するので、他の方 
  法でも測れます。)
* 乾電池の出力が大体1.5Vです。電流は電子によってまかなわれますから、乾電 
  池が放出するエネルギーは(電子1個につき)1.5eV程度・などと考えていき 
  ます。
 「化学」の項で述べましたが、私達の生命活動は化学反応によってまかなわれていま 
す。 X線やαβγ線は私達の生命活動には1000倍ほど強すぎることが、この表か 
ら分かります。100Vの電気で感電死することがありますが、これも生命活動(化学 
反応)には高すぎるエネルギーだからです。
 また、核反応を用いれば化学反応(石油火力など)の100万倍のエネルギーが取り 
出せることが分かります。

2.1 その他の用語
核分裂:原子核が不安定になって分裂すること。安定になった差額が放射線として放出 
    される。
臨界量:連鎖反応を続けるのに必要なウラン(等の)量。
    これ以下では(原則として)連鎖反応しない。(発電に使えない。)
    これ以上では(原則として)暴走する。(止められない。)

3 半減期の読み方

3.1 放射線の測定単位
A:放射能の単位 (放射能の強さ(放射性崩壊の激しさ)を測る単位。)
 ベクレル(Bq) 1Bq=1崩壊/秒 (1秒間に1回の崩壊)
 キュリー(Ci) 1Ci=3.7*10^10Bq
  * 10^10=10の10乗=10000000000
    ちなみに*は「かける」の記号です。 例えば、2を3回掛け合わせることを 
    2の3乗と言い、2^3と書きます。
B:照射線量の単位 (どれだけ放射線が当たったかという単位)
 レントゲン(R)照射線量の単位。X線やγ線に使われる。
C:吸収線量 (体重1kgが受け取ったエネルギーの量、破壊力にほぼ比例する。) 
 ラド(rad) 0.01J/kg(=6.3*10^10MeV/kg)
 グレイ(Gy) 1J/kg(=100rad)
D:線量当量 (生物に対する破壊力の単位。吸収線量を補正したもの)
レム(rem) rem=rad*quality factor*distribution factor 
        quality factor:β、γ線なら1〜2,α線なら10 
        〜20(つまりαだとβ線の10倍になる。単位を作った人が、α線 
        をそれくらい怖いと思った。)
        distribution factor:まぁ安全係数と思えばよ 
        い。
シーベルト(Sv) Sv=100rem(およそ)
*Bq、Gy、Svが国際単位系(SI系)です。従って、Bqとrad,remを混 
 用するのは望ましくないのですが、扱いやすいので許して下さい。
(続く) Tosh

放射線の考え方 (5)改訂版 Tosh <MSX
★内容
From MSX-NET Jiji Salon (confer.room4)  Note 34 Res. 24 
By msx03025 14:03  8/16/88
             放射線の考え方 5/14(Ver1.1)

予習編 物理の続きです。

3 半減期の読み方

3.2 「半減期」を読むには
半減期:放射能の強さが半分に減るまでの時間。
 半減期が2年のものなら、2年後には放射能が半分になっています。更に2年後に
は放射能はその半分、つまり1/4になっています。この様に繰り返し計算していけ
ば、何年後にはどれほどの放射能になっているか予測できます。
 この項では、発表されたデータの意味が分かるようになるのが目標です。
そこで、実習形式を採ることにします。
  関数電卓、パソコンがあると便利です。
  関数電卓は4千円程度からあります。

実習1:−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−− 
ヨウ素131(131I)の半減期は8日です。放射能が1000分の1になるまでの 
時間はどれほどでしょうか?
作業:−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−− 
 1000分の1は1/2を10回掛け合わせたものです。(10乗ということ。1K 
バイトは1024だったでしょ。このアドレスは10ビットで表現できたよね。)
 だから、先に書いた作業を10回繰り返せばよいのです。 半減期を10回足し合わ 
せると8*10=80日後となるのが分かります。
 *10半減期で1000分の1、20半減期で100万分の一になると覚えておく
  と良いでしょう。
−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−
 この様に繰り返しの回数を知ることは大変なので、数学の知恵を借ります。
 関数電卓かパソコンをぜひ用意してください。
 用意できましたか?
 何回繰り返すのか?というのを知るために実はこんな計算をしました。
 log(1000)/log(2)
(MSX−BASICなら、print  log(1000)/log(2)としま
 す。)
 これで、10回繰り返せば良い、と分かりました。
 100万分の1になるまでの繰り返し回数が知りたければ1000のところを100 
万で計算すれば良いのです。
 生体濃縮をご存じですか?食物連鎖の中で成分が最終的に1つの生物に集中していき 
ます。(人間には海水や土壌の1000〜100万倍程度に濃縮されます。)

実習2:−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−− 
 セシウム137(137Cs)の半減期は30年です。放射能が100万分の1にな 
るまでは、何年待てば良いですか?
作業:−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−− 
 作業の繰り返し回数は
 log(1000000)/log(2)=19.9回
正確には19.9 回ですが、計算が大変なので20回にしておきます。
 20*30=600年間
600年待てば、セシウム137の放射能が100万分の1になることが分かりました。
−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−
 では、それまでにどの程度の放射線が出るのでしょうか?
 現在の放射能をC、半減期をτ(タウ)、目標の時間をtとします。 皆さんのため 
に計算しておきました。ただし、時間の単位は全て合わせて下さい。
 放射量(壊変回数)=(C*1.44*τ)*(1−0.5^(t/τ))
Cとτ、tの時間の単位を合わせるのは結構面倒です。そこで、放射能Cの単位がBq 
(ベクレル)、τとtの単位が「年」の場合について、時間を「年」で合わた式は
  ==================================
   壊変回数=C*4.5*10^7*τ*(1−0.5^(t/τ))
  ==================================
と、なります。
この式は、この後の実習で使います。

実習3−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−− 
 根暗一郎さんの発表したファイルによると、雪印アカディには19.3Bqのセシウ 
ム137があるそうです。
 今後80年間(平均寿命)のうちに何個のβ線を出しますか?
 また、30年(ICRP基準)ではどうですか?
1回の壊変で1個のβ線をだすものとします。(実際にはγ線も出します。)
作業:−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−− 
(19.3*4.5*10^7*30)*(1-0.5^(80/30))=2.2*10^10個 (80年)
(19.3*4.5*10^7*30)*(1-0.5^(30/30))=1.3*10^10個 (30年)
−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−− 
 実習3の結果、とてつもなく、たくさんの放射能がでることが分かります。 予習編 
化学でお分かりの通り、1個の放射線は1個の分子を破壊できます。
(確かに体内に入ったセシウムは排出されますし、アカディを大人になって飲むことは 
ありませんが、このアカディ並の食品を飲み続ければ十分補給されます。)
 後で述べますが、ガンになるにはガン化し始める細胞が一個あればいいのです。

実習4:−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−− 
 セシウム137からの放射線は、β線、γ線合わせて1.2MeV(=1.2*10^6eV
のエネルギーを持っています。(β線0.51MeV、γ線0.66MeV)
 実習3の結果を用いて、彼(彼女)の30才までの被曝量を推定しましょう。(代謝 
は考えず、単に体内に19.3Bqの放射線源があるとします。)この人の体重は60 
kgです。
作業:−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−− 
 内部被曝ですから、簡単のために全てのβ線、γ線が体外に出ずに、吸収されたとし 
ます。 放射線の数が分かっていますから、浴びたエネルギーを算出します。被曝量は 
体重1kgが受け取ったエネルギーですから、何radか換算します。
1rad=6.3*10^10MeV/kgでしたね。
 被曝線=1.3*10^10個*1.2*MeV/60kg
    =2.6*10^8MeV
        =0.004rad(=4*10^(−5)Gy)  (平均)
β線,γ線では1rad=1remとしていいので,4mremの被曝と考えられます。
−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−− 
 γ線は体外に飛び出していくことが考えられるので、これよりも小さな価になります 
が、代謝の速度を考慮すると、この数倍〜数十倍になることも予想されます。
参考までにICRP勧告。
「30歳までに50radを越えず、生涯で200radとする。」
この勧告は、原子力関係者(放射線を扱う人という意味)の、本人に対するものである 
ことは考慮すべきです。無関係な人には1/10として、30才までに5rad、生涯 
 で20radとしましょう。
予習編の最後に、内部被曝の予測ができるようになる一般的な例を実習しましょう。

実習5:−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−− 
 皆さんの体内に60Bqのセシウムがあったとします。
 放射線のエネルギーは1MeVとして、1回の壊変で1個の放射線がでるとします。 
 半減期は30年です。
 今後30年間の被曝量を予測してください。
 体重は60kgとします。
また、体重40kgの子供のために、今後30年間の予測も御願いします。
作業:−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−
体内にある放射能は60Bqですから、前に挙げた式を利用します。
  C*4.5*10^7*τ*(1−0.5^(t/τ))
    C:現在の放射能(Bq) τ:半減期(年) t:目標の時間(年)
 でしたね。
 30年間の壊変数=60*4.5*10^7*30*(1-0.5^(30/30))
         =4.0*10^10回
 1回の崩壊で1個の放射線がでますので、30年間には4.0*10^10個の放
射線が出ます。
 1個の放射線が1MeVのエネルギーを持っていますから、全部で 4.0*10^10 MeV
のエネルギーを放射され、被曝するわけです。
 これをradの単位に直しておきましょう。
 1rad=6.3*10^10MeV/kg でしたから、
 全放射エネルギー/60kg/1rad=(4.0*10^10MeV)/60kg/(6.3*10^10MeV/kg)  
 4.0*10^10MeV/60kg=6.6*10^8MeV/kg
                  垂O.01rad=0.01rem  ・ 答栫@
                    (1rad=1remとしました。)
 30年間の内におよそ0.01rem(10mrem)の被曝をすることが予測され 
ます。
子供の被曝量は皆さんへの宿題にしましょう。
−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−− 

 この作業をまとめると、
1 体内の放射能の強さ(Bq)から放射される放射線の数を求め、
2 放射線のエネルギーから、放射された全エネルギーを求める。
3 これを線量当量(rem)に換算し、評価する。
ということになります。
 比較のために、自然放射線による被曝は1年間に0.1rem程度ですから、30年 
で3rem。つまり、どうしても避けられない被曝量がおよそ3%増えたと、考えられ 
ます。
(勿論、気をつければ食品からの摂取は減らせますし、その逆も十分あります。お茶・ 
紅茶の汚染が8000Bqでしたから。)
 自然放射線が原因だった病気・遺伝的影響は、3%以上の発生率増になると考えて差 
しつかえないでしょう。(この事故は地球の反対側のものですよ。)

物理編の最後に
 半減期の使い方を理解しました。また、データさえあれば、放出される放射線の個数 
も予測できるようになりました。(実は指数関数の単なる積分です。)
 ここではセシウムについてしか扱えませんでしたが、ぜひ他の様々な物質についても 
計算してみてください。 実際のデータは根暗さんのファイルに山の様にあります。
放射能汚染食品の実体が分かることでしょう。それが、根暗さんのファイルを本当に読 
んだことになるのですから。
 その上で、放射能は気にすべきか、する必要はないのか考えましょう。
Tosh

放射線の考え方 (6) Tosh <MSX
★内容
From MSX-NET Jiji Salon (confer.room4) Note 34 Res: 7/17
By msx03025 10:56  8/14/88 
 本編 1 放射線の考え方。           放射線の考え方 6/14

ここでは 次のことをお話しします。
 放射線の物質に対する効果
 ICRPの勧告
 内部被曝について

1 放射線の物質に対する効果
 放射線はには物質に対する透過性があります。どの程度透過されて、どの程度吸収さ 
れる(相手にエネルギー(損傷)を与える)ものでしょうか?
水に対する透過距離について
 β粒子(1MeV):5mm
 β粒子(3MeV):15mm
 α粒子(1MeV):− (透過性なし)
 α粒子(5MeV):0.07mm
従って体内で生じたα線、β線は外に出ずに自分の体を損傷させると考えてください。 
γ線は、ほぼ人体を透過しますが、その途中にある原子の内側の電子を弾き飛ばしてい 
き、高分子の一部を損傷します。
 この損傷がひどければ、細胞は代謝によって置き換えられます。
 DNAは分子が余りにも巨大なので、(原子数はおよそ5千万、分子量は10億)、 
たかだか数箇所が損傷しただけではチェックされずに、複製を作っていくことがありま 
す。遺伝情報が正しく伝わらない訳で、これが遺伝的影響や癌細胞の発生につながりま 
す。
 このような「晩発効果」は、まだ細部に渡っては化学的に解明されていません。

2 ICRPの勧告
 国際放射線防護委員会(ICRP)というのがあります。何ら法的拘束力はありませ 
んが、ここの勧告は放射線使用の法規の基礎になっています。
 放射線の人体に対する影響で、広く受け入れられている考え方はICRPに勧告され 
たものです。
1 放射線の影響が起こる確率は被曝線量に比例する。(どんなわずかな被曝でもそれ 
  なりの被害がでる。)
2 集団に対しては、100万人の社会全体で、合計100万remの被曝をすると、 
  125人分の致死性の癌が増加すると勧告しています。この程度の死亡率は、通常 
  の癌の死亡率の変動幅内に入り、測定は困難です。だからといって、無視して良い 
  性質のものではありません。
  125人といいましたが、男性100、女性(妊娠可能年齢)200、女性(全体)
  150の平均です。
3 内部被曝について〜預託線量
 直接的な外部被曝や局部被曝の評価は簡単です。が、放射性物質の吸入・摂取といっ 
た内部被曝は、放射線源体内にとどまる性質のものなら、被曝は長期間に及びます。
 この場合、全期間に渡って被曝量(実効線量)を足し合わせなければなりません。
(これを集積線量といいます。)ICRPは、この期間を50年と定め、その線量の合 
計を預託線量と呼びます。
(予習編、物理では、30年間のミルク中のセシウムを考えました。)
 しかし、半減期が余りにも長いものは(5000年以上)、結局人類が浴び続けるの 
で、それも考えなくてはなりません。これは線量預託(実効線量当量預託)と呼びます。
前述の預託線量が、ある個人の(一生涯50年の)被曝量なのに対し、線量預託は未来 
永劫にわたって合算された、人類(一人当たり)の被曝量です。
 集積線量についてもICRPは勧告していて、
   30才までの集積線量が50remを越えないように、
   また、1年間の線量を5rem以下にする。
   妊娠後、初めの2ケ月間に0.5remを越えないようにする。
   一般公衆に対しては、職業的被曝の1/10を限度とする
と、されています。 予習編での単純な計算ではミルク中のセシウムだけで30年間に 
1remの被曝になることが分かりました。
(大雑把な計算ですから誤差はでますが、考えたのはセシウムだけで、骨に沈着するス 
トロンチウムは考えていなかったこともお忘れなく。)
 では、ICRPは、放射線に、どんな考え方を持っているのでしょうか?
1 放射線被曝を伴うあらゆる行為は、損失を補って余りうるものでなければならない。
2 放射線被曝線量は、経済的および社会的な要因を考慮に入れながら合理的に達成で 
  きる限界まで、低く保たなければならない。
3 全ての放射線被曝線量は、勧告されている線量限度を越えないようにしなければ
  ならない。
 あなたは、これをどう思いますか?
Tosh
------------------------------------------------------------------------- 




#0003 sci1044  8810161250


★★★★★★★★★★★★ 放射線の考え方 7〜9 ★★★★★★★★★★★★
                          From:PC−VAN
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放射線の考え方 (7) Tosh <MSX
★内容
From MSX-NET Jiji Salon (confer.room4) Note 34 Res: 8/17
By msx03025 11:03  8/14/88 
本編2 基礎的な放射線生物学             放射線の考え方 7/14 

 ここではICRP勧告の基礎となっている放射線生物学を中心に確認します。
1 はじめに
2 人間への影響
3 遺伝的影響

1 はじめに
 放射線の影響は、診察すれば分かると思われた時期がありありました。しかし、今日 
では、観察不可能な低レベルの被曝でも、発がんが起こるという明らかな証拠がありま 
す。
 これは、悪性の変化を開始するということが、1個ないしほんのわずかな数の細胞で 
起こることが分かったからです。 このようなことが起こるのはDNAへの作用だから 
です。遺伝情報が放射線の影響で書き換えられたり、破壊されたからです。
 そのために注意すべき放射線の要因は
  放射線のエネルギー(の高さ)と
  放射線の質です。
 放射線が細胞に与える効果(損傷)は、照射したエネルギーに比例します。
 質についてはα線やβ線は透過距離(飛距離)が短く、そのエネルギーが一箇所に集 
中します。一方、γ線は飛距離が長く、少しずつあちこちにエネルギー(損傷)を与え 
ます。(remの換算でα線には10,β線には1を掛けましたね。それはこのことを 
意味します。また、ICRPはその勧告を現在、再検討しています。)
 従って、今では、照射を受けたいかなる個人も(どんな些細な被曝でも)、晩発性の 
影響を持つかも知れないことが分かってきました。

2 放射線の生物への影響

2.1 個体発生期(胎児の時代)の影響
 人間については分かっていませんが、妊娠中のマウスに放射線を照射して発生に対す 
る影響がRusselらによって研究されました。
 その結果、受精卵が卵割をはじめてから子宮に着床するまでの時期(第1の時期とし 
ます)、着床して各種の器官が形成されるまでの時期(第2)、胎児となってからの時 
期(第3)によって影響が変わります。
 第1の時期には初期に死亡してしまうことが多いが、第2の時期では、出生後まもな 
く死亡したり、種々の奇形を生じる。第3の時期には末梢的な尾や指などの奇形を生じ 
ることもあるが影響は比較的少ない。(それでも大した影響だ。)

2.2 放射線による晩発生障害
 放射線を低い線量で浴びた場合、急性の障害が一旦現われてもそれがおさまったり、 
あるいは気づくほどの障害が全く出現しなかったりしても、数ヵ月あるいは数年後に障 
害が現われることがあります。 代表的な例は発癌ですが、癌は他の様々な要因と絡み 
合っておこるので、癌の原因の放射線の影響を決定することは難しいです。
 通常晩発生障害とされているものは、発癌、水晶体の白濁、皮膚・毛細血管の繊維化 
などが挙げられます。また、遺伝的影響や、胎児被曝の影響なども低い線量率の被曝に 
よって長時間の後におこる変化です。

2.2.1 放射線による発癌
 発癌の実験には多数の動物と長い年月を要するので、大掛かりで信頼性の高いデータ 
は限られています。主としてマウスによって行なわれています。
 その結果、マウスではリンパ性白血病の他、肺、卵巣、乳腺、脳下垂体などで、腫瘍 
発芽円が著しい。
 低線量率での連続照射では、明らかに発生率が高くなり、特に卵巣は顕著でキ 。
また、照射は若い時期の方が有効です。(子供を被曝させてはならない。)
 発癌は外部被曝よりも、放射線源の取り込みによる内部被曝の方が起こりやすい。例 
えばリン32(32P)による白血病の誘発、ヨウソ131(131I)による甲状腺 
癌、ストロンチウム90(90Sr)やプルトニウム239(239Pu)など骨への 
取り込みの多い核種での骨肉種の発生などは顕著です。

2.2.2 放射線による寿命短縮
 放射線が、加齢を促進するとか、寿命を短縮するといった発想は、今日では多くの教 
科書で触れられています。 1930年から1954年までのアメリカでの医師8万人 
に対する調査では、放射線科の医師の平均寿命が60.5才だったのに対し、それ以外 
の医師の平均寿命が65.7才だったことから、この考えが生まれました。
(もっとも広島・長崎での被曝者で、急性死や悪性腫瘍(癌)を除いた人々の寿命短縮 
は、確認されていません。)
 加齢や老化のメカニズムが分かっていない現在では、この点に応えることはできませ 
ん。しかし、興味ある考え方があって、ちょっと紹介します。
 DNAのエラ−説:動物を作っているDNAは、常に傷がついている一方、常に修復 
  している。 しかし、この際にある程度のエラ−が生じる。 この結果に引き起こ 
  される(マクロな)現象が老化である。
   老化した細胞ではDNAの修復がうまく行かないとか、遺伝的早老症のヒトの細 
  胞は修復能力の低いものがあるなど、この説を支持するデ−タがある。 このよう 
  に、放射線生物学的に説明しやすいのですが、前述のとおり全ての疑問を説明し尽 
  くすものではありません。

2.2.3 その他の晩発生障害
 最も明らかなのは水晶体の白濁(白内症)です。 水晶体は透明な細胞で、細胞交代 
が起こらないので、放射線被曝により白濁するとなおらない。(移植といった荒っぽい 
方法をとれば何とかなるが。)
 このほか、被曝者の白血球を培養すると染色体異常が増加している。 この点に関し 
ては、まだ検討の余地がある。 いずれにしても、晩発性の影響の解明には(現在の、 
放射線照射−解剖といった方法では)限界があり、発癌や老化のメカニズムの(基礎) 
研究が必要です。

3 放射線の遺伝的影響

3.1 男性(雄動物)の場合
 放射線が生殖細胞のDNAに傷をあたえても、全て遺伝的障害を引き起こす訳ではな 
い。 精子形成の様々な段階で死滅するからです。 また、損傷DNAが受精しても発 
生しない(流産する)確率が高く遺伝的影響を及ぼさないこともある。(我ながら、恐 
ろしいことを言う。でもここは心を鬼にして・・・)このような現象は優性致死と呼ば 
れ、大量の被曝時に見られる。
 ヒトに体する影響としては35radの急性被曝で、「最初の2ー3ヵ月は明瞭な変 
化がない。 次第に精子数が減少し、12ヵ月頃に最小値を示し、その後2ー3年内に 
回復。」つまり、35radの被曝で2ー3年間、不稔の懸念があるわけです。 もっ 
とも、今問題にしている長期内部被曝では、どうなることか分かりません。

3.2 女性(雌動物)の場合
 卵巣中の卵母細胞も放射線感受性が高く、低い線量でも細胞死を起こします。とくに 
ラットやマウスの出生直後の卵細胞は、低線量(10rad程度)でも完全に死滅し、 
永久不稔となり、遺伝的影響を与えることはありません。
 成体の卵母細胞にはDNA修復のための酵素があって、DNAの傷を修復したり、D 
NAごと破壊(分解)したりして、遺伝的影響を避けようとしています。 しかし、そ 
れでも修復ミスが生じ、遺伝的な影響が出ます。

3.3 遺伝的影響の検出方法
 検出方法なんて関係ないね。と言いたくなるかも知れませんが、今から言うのは「検 
出にすら使える」明らかな影響です。
 優性致死:一人のヒトは2本で1組のDNAを持っています。このうち、どちらか1 
      本にでも混ざった場合、死に至る突然変異です。これは次代が死滅するの 
      で、後代に永く伝わることはありません。この優性致死の研究により、流 
      産の多くが遺伝的障害(優性致死)であったことが分かっています。
 優性可視:2本のDNAの内、1本でも混ざれば発現する「外から見て分かる突然変 
 突然変異:異」です。良く研究されているのは、雄マウスにX線を照射して、次代に 
      現われる骨格の異常や奇形についてです。これは後の代まで遺伝するもの 
      が大部分であり、遺伝子突然変異の指標にすらなっている。
 劣性致死:2本のDNAの内、2本ともこの遺伝子型を持った場合にのみ発現する。 
      劣性可視突然変異もある。
      いずれにしても、劣性のものは目に見えるような発現をしないので、検出 
      が困難である。従って、劣性形質が発現するころには、この遺伝子型が集 
      団に蔓延(マンエン)していて手遅れになっていることが考えられる。

3.4 集団に対する影響
 遺伝的影響は、被曝した世代でなく、後世代に現われる。しかも、優性の場合は次代 
に影響が現われるので、子供をつくらないことや、その子に対する教育で広がりを防げ 
るが(何を言わんとしているか)、劣性の場合、気づかれずに集団の中に広がり、しか 
も突然変異種は多かれ少なかれ、生存に不利なものが多く、気がついたときには手遅れ 
になっていることが予想されます。これを推定、評価するには集団遺伝学が有効です。 
 その結果、大切なのは、発現形質の良し悪しでなく、突然変異の発生率(つまり被曝 
量)が重大であることが分かりました。

3.4.1 遺伝有意線量
 それでは、どのようにこの影響を予想したら良いのでしょうか?
手段に対する放射線の遺伝的影響を考える場合には、個人個人の被曝量でなく、集団全 
体の被曝量が問題になります。このような計算をします。
 例えば、10人の人が毎日の食事に気を付けて、1年間の被曝量を1.3mremに 
抑えたとします。しかし、残りの90人が気を付けずに3mremの被曝をしたとする 
と、集団全体では
1.3mrem*10人+3mrem*90人=283mrem
で、一人当たりに換算すると2.83mremとなります。
放射能汚染に気づいたわずかな人だけでなく、全ての人が被曝を避けなければならない 
ことが分かります。また、子供を産むまでの年齢(ICRPでは30才とした)の人々 
の被曝が重要なことも想像されますね。

本編2の終わりに
 放射線の遺伝への影響は十分に解明されていない・とか、生物には突然変異を排除す 
る能力があるなどと言われますが、このファイルを読んだ皆さんはそういった種族保存 
の機構が、人の「死」によって支えられていることが分かったと思います。 自然淘汰 
とは、きれいごとではなく、冷酷な法則なのです。
 また、この様に、チェルノブイリの死の灰が世界中にばらまかれてしまった今、原発 
反対者・推進者構わず、私達全員が共同して将来のために、無用の被曝を避けなければ 
ならないことも理解して頂けたと思います。
Tosh

放射能の考え方 (8)改訂版 Tosh<MSX
★内容
From MSX-NET Jiji Salon (confer.room4)  Note 34 Res. 25 
By msx03025 14:09  8/16/88
            放射線の考え方 8/14(V1.1 ’88.8.16) 

 本編3 放射能が人に至るまでの経路
わずか30Bqの放射能でさえ(外部被曝なら何も怖いことはないのに)、食品に入れ 
ば、牛乳のセシウムだけで被曝量を3%アップさせます。
1 生体濃縮
2 代謝回転ー生物学的半減期
3 いくつかの放射性核種の重要な経路

1 生体濃縮
 私達は昔から一切を水に流すとか、川の水は3尺流れれば清められるといって、川の 
自浄作用に過度の信頼を寄せてきました。今日でも希釈さえすれば問題ないという考え 
が通用していて、産業廃棄物のたれ流しが最近まで行なわれてきました。
 しかし、人類の生産・消費規模は、自然の浄化能力の限界を越えるところまで来てい 
ます。 海は、大型化したタンカーや、石油備蓄基地からの事故による大量の油の流出 
や、日常的な仕事での油の投棄によって汚染が進行しています。さらに、原子力発電所 
や、その核燃料再処理工場、原子力潜水艦などから排出される放射性物質もおそらく回 
復し難い汚染を与えていることでしょう。
 水俣湾、神通川、阿賀野川の例からも分かる通り、これまでの希釈拡散処理論は誤り 
で、たとえ自然界に廃棄物を捨てて希釈拡散させても、廃棄物は生物によって濃縮され、
人間に戻ってきます。

1.1 濃縮率
 生物による濃縮の程度を表すのに、濃縮率という値が用いられます。これは、生物体 
内の濃度と環境での濃度の比です。(体内濃度/環境(例えば水)の濃度)
 濃縮率は元素や生物によって異なりますが、海洋プランクトンでは、ほぼ1000〜 
10000程度の大きな値です。(プランクトンでさえこんなに大きい)
 また、身体の部分によって取り込み量が異なります。例えばストロンチウム(Sr) 
はカルシウム(Ca)と良く似た挙動を示して主に骨などの硬組織に蓄積し、セシウム 
(Cs)はカリウム(K)と同様に軟組織に多く濃縮されます。
 濃縮率とは最初、放射生態学の分野で発達した考え方です。未汚染海域に放射性物質 
が放出されたときの、環境や生物への影響を予測するために用いられました。
 原子力発電所を海岸に建設する際に、どの程度放射性廃液が放出されるかが、設計段 
階で計算できます。それが海に放出されたとき、どの様に希釈拡散し、放射線核種が海 
域でどの様に分布するかも、気象学・海洋学的にある程度予測されます。その濃度から 
生物がどの程度汚染されるのかを推定するために濃縮率が必要になるのです。

 表7.1 濃縮率   (参考文献5)
======================================
元素        濃縮率
    −−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−
         対土壌        対海水
−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−
炭素C      3.6       6430
窒素N      3.0          −
ケイ素Si    0.0075     750
アルミニウムAl 0.0029     400
ナトリウムNa  0.01         0.019
鉄Fe      0.025        1.2
カルシウムCa  0.02         0.25
カリウムK    0.07         1.8
リンP      0.088     7000
塩素Cl     0.4          0.021
硫黄S      1            0.22
−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−
 これを使えば、土や水の汚染状況からでも生体への影響を予測できます。

2 滞留量ー代謝回転
 細胞内でのある1個の物質の移動や分布、生成や分解といった代謝を正確に測り、追 
跡することが、放射生同位体の利用によって近年分かるようになりました。 これは放 
射線利用による大きな収穫でした。
 放射線から自分の身を守るために、この画期的な成果を利用しないテはありません。 
 今日食べた食品は、何日間私達の体を巡るのでしょうか?今日の食事は胃や腸で吸収 
され、血や肉となって身体の中を滞留して、いずれ老廃物として捨てられます。身体の 
中には何日分がたまっているのでしょうか?
 確かに、今日の食事の成分は(体から)徐々に捨てられて減っていきます。体内の残 
りが初めの半分になる時間を生物学的半減期と呼びます。(区別するために、実習編で 
扱ったものを物理的半減期と呼びます。)
 タンパク質の生物学的半減期はほぼ3日です。これによって減少する(排出される) 
量と新しく摂取する量は釣り合いが取れているはずです。この半減期と1日に摂取する 
量から、体内に蓄えられている量が逆算できます。(予習編での実習で使った式から逆 
算するのです。)、今回も結果だけを示します。
 体内の滞留量=1日の摂取量/(1−T*1.44*(1−0.5^(1/T))) 
  ただし、T:生物学的半減期、単位は「日」
       (有効半減期ではありません。詳しくご存じの方へ)
 蛋白質の生物学的半減期はおよそ1〜7日程度ですから、体内には1日の摂取量の
3.6〜20倍の量が蓄えられていることがわかります。
 一方骨に入った場合(カルシウムやストロンチウム)は、生物学的半減期が1〜10 
年ですから、体内の量は1日の摂取量の実に460〜500倍になります。
 また、各物質は体中に均一に分散するのではなく、ある特定の器官(肝臓・腎臓・脊 
髄など)に集中するので、そういった器官では実際の放射線核種量(被曝量)は相当に 
高くなっていると思われます。(つまり、実習5の結果から予測される影響よりも、大 
きな影響を受ける。)
 これを利用して、今度はストロンチウム90による被曝量を予測してみて下さい。
(要領は実習5と同じです。ストロンチウム90はβ線2.27MeVを放出し、物理 
的半減期は28年としてください。)

3 放射線源のヒトに至る経路
 ここでは簡単に表にまとめます。チェルノブイリによる死の灰は全世界にまき散ら
され、また様々な経路をたどってくるので、今や何が汚染されていないのか分かりま
せん。(汚染飼料を食べた家畜は、当然、汚染されています。)あちこちで発表され
るデータには気を付けていたいものです。

 表7.2 核種の特定のグループへの重要な経路(参考文献8)
======================================= 
放射線核種    重要な経路         被曝の型        被曝部位
−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−− 
137Cs  多様:海、海草、魚         食物摂取      全身
                その加工品など
 90Sr   同上               食物摂取・吸入   骨
106Ru   同上               食物摂取       胃腸管
 60Co   同上               同上             胃腸管・全身
239Pu   同上               同上             骨・肝臓
131I   大気ー地面ー家畜                         甲状腺
           大気ー地面ー野菜
133Xe  気中から吸入                              全身
  3H   同上                                      同上
 14C   多様                 吸入・食物摂取  全身
−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−− 
 この中には(チェルノブイリ事故について)既に十分被曝してしまったもの(131I)
や、被曝を避けられないものがあることに、気づかれると思います。 避けられる被曝 
は、出来るだけ避けるのが賢明だと思います。もうこれ以上、こんなことはゴメンです 
ね。
Tosh

放射線の考え方 (9)改訂版 Tosh<MSX
★内容
From MSX-NET Jiji Salon (confer.room4)  Note 34 Res. 26 
By msx03025 14:15  8/16/88
            放射線の考え方 9/14(V1.1 ’88.8.16) 

 本編の最後に
 もう言いたいことは全て言い尽した感があります。
 ここでは、これまでのまとめと復習を示して皆さんの協力を得たいと思います。
 放射性物質がどんな毒であるのかは、もうお分かりでしょう。
 では、どうしたら、その毒を避けられるのでしょうか?

実習6:=================================== 
 幸いなことに、放射能には半減期があります。つまり、その時間だけ待てば毒の力が 
半減するわけです。原発の事故からどの程度時間稼ぎをすれば、安全でしょうか?
* この値を参考にしてください。(付録1の表から抜き出しました。)
 リン32  ・・・24日
 硫黄35  ・・・88日
 ヨウ素131・・・ 8日
作業:−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−− 
 初めの1000分の1? 生体濃縮が1000〜100万倍でしたね。 と・すると 
100万分の1になるまで待てば良い。安全のためにもうちょっと待ってもいいけど、 
簡単のために100万分の1にしましょう。
 予習編の実習を思い出してください。100万分の1になるのは20半減期でしたね。
 リン32は事故から480日(=20*24)、つまり1年4ヵ月
 硫黄35は事故から1760日(=88*20)、つまり4年10ヵ月
 ヨウ素131は事故から160日(=8*20)、つまり5ヵ月
この期間は注意して放射能汚染を受けた食品を避ければ良いのです。
−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−
 体全体での集積線量(30年間の被曝量)を予習編で試算しました。これと、親和性 
臓器を知れば、危険性がより良くわかります。(放射性物質とて身体全体に平均してば 
らまかれるのでなく、親和性臓器に集中する。)

実習7:==================================
不幸にもリンや硫黄、ヨウ素は体に必要で、どうしても食べなければなりません。
これを食べて、もし、病気になるとすると、どこでしょうか?
作業:−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−
 付録2の表を見てください。親和性臓器が載っています。そこが危ない。
 リン・・・骨や肺・消化管、
 硫黄・・・睾丸・肺・消化管
 ヨウ素・・甲状腺・肺・消化管
−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−
ここからはセシウム137とストロンチウム90について考えます。
 次の値を参考にしてください。

 表9.1主な放射性核種
======================================
   核種           半減期   放射線のエネルギー(MeV)
                       β(最大)  γ
−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−− 
 90Sr*ストロンチウム90   28年  0.54    なし
 90Y *イットリウム90    64時  2.27   ほとんどなし
137Cs セシウム137     30年  0.51    0.662
−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−− 
注1 90Yと90Srは放射平衡状態にある。(すなわち、90Yと90Srの放射 
能が等しくなる様に、90Srがβ壊変して90Yに調整されている。:90Yは90 
Srの嬢核種とも言う。)

 表7.2 核種の特定のグループへの重要な経路
======================================= 
放射線核種    重要な経路       被曝の型    被曝部位
−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−− 
137Cs  多様:海、海草、魚     食物摂取    全身
        その加工品など
 90Sr   〃            食物摂取・吸入 骨
−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−− 

実習8:=================================== 
 セシウムやストロンチウムについては、何年間避ければ良いのでしょうか?
作業:−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−− 
 これも20半減期だけ待つことにします。(これは予習編でやりましたね。)
セシウム137については600年(=30*20)
ストロンチウム90は580年(=28*20)
−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−− 

実習9:=================================== 
不幸にもセシウム137やストロンチウム90を体に取り込んでしまいました。
病気になるとすると、どの部位でしょうか?
作業:−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−− 
「親和性臓器」を見てください。そこに、セシウムやストロンチウムがたまるのです。 
セシウム137・・・全身(蛋白質)
ストロンチウム90・・・骨
−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−− 
 核実験の放射性降下物(フォールアウト)のピーク時(1965年)に、アルゼンチ 
ンでは、食品1kg中にセシウム137が0.71Bq、ストロンチウム90が0.1 
3Bq含まれていたそうです。
 同じ割合なら、チェルノブイリ事故で食品1kg中に20Bqのセシウム137が含 
まれているなら、ストロンチウム90は3.7Bq含まれていると予想できます。

実習10:================================== 
事故後のピーク時に1日の食品(1.5kg)にストロンチウム90が5.5Bq(1 
kg当たり3.7Bq)含まれているなら、今後30年間の被曝量はどの程度になるで 
しょうか?
体内の滞留量はストロンチウムについて、1日の摂取量の500倍とします。
作業:−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−− 
 体内には1日の摂取量の500倍、すなわち2750Bqがあります。
 予習編の成果を思い出しましょう。
放射能Cの単位がBq(ベクレル)、τとtの単位が「年」の場合について、時間を
「年」で合わせた式は
  ==================================
   壊変回数=C*4.5*10^7*τ*(1−0.5^(t/τ))
  ==================================
でしたね。(あ〜ワープロは切り貼りが楽だ。)
 セシウム137の30年間の壊変回数は、この式を使って
  2,750 * 4.5 * 10^7 * 28 * ( 1 - 0.5^(30/28) ) 
 =1.82*10^12(回)
表を見ると、1回の壊変でβ線で0.54MeVを放出します。従って、30年間では 
 9.81*10^11MeV (=1.82*10^12回*0.54MeV)
の放出(被曝)になります。
ここで、単位を換算します。こんな記述が予習編にありました。
−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−− 
 C:吸収線量(体重1kgが受け取ったエネルギーの量、破壊力にほぼ比例する。) 
 ラド(rad) 0.01J/kg(=6.3*10^10MeV/kg)
 グレイ(Gy) 1J/kg(=100rad)
−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−− 
 体重1kgの被曝量が欲しいので、この人の体重を60kgにしておきましょう。
すると、1kgあたり1.63*10^10MeV(=9.81*10^11/60) 
ですから、これは0.26rad(=1.63*10^10/(6.3*10^10))
になります。
ここで、答え0.26radと言いたいところですが、ちょっと気になることが表の下に
書いてあります。
−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−− 
注1 90Yと90Srは放射平衡状態にある。(すなわち、90Yと90Srの放射 
能が等しくなる様に、90Srがβ壊変して90Yに調整されている。:90Yは90 
Srの嬢核種とも言う。)
−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−− 
ストロンチウム90はβ線を出して、イットリウム90になります。このイットリウム 
90もβ線を出すのです。(これを忘れる所だった。)
 イットリウム90の放射能がどれくらいかというと、ストロンチウム90と同じだと 
言う。だから、被曝量もその分を考慮して、5.2倍の1.3rad  (!)
1rem=1radとしておけば、1.3remです。(ICRPはこの点についてど 
んな勧告をしていたでしょうか?)
  *5.2倍=(イットリウムとストロンチウム放射線のエネルギー)/(ストロンチ 
ウム放射線のエネルギー)
−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−− 
Tosh




#0004 sci1044  8810161259


★★★★★★★★★★★★ 放射線の考え方 10〜14
                       From:PC−VAN
------------------------------------------------------------------------
放射線の考え方 (10) Tosh <MSX
★内容
From MSX-NET Jiji Salon (confer.room4) Note 34 Res:11/17
By msx03025 11:18  8/14/88 
 おわりに                     放射線の考え方 10/14 

 さて、随分長いファイルでしたが、最後まで読み通して頂き、ありがとうございます。
 心残りの点は多々ありますが、言い残した点、誤ってしまった点は、是非皆さんに補 
って頂きたいと思います。
 もう、お分かりの通り、この一連のファイルは、既に発表されたデ−タしか使ってい 
ません。 この様な推論を可能にするデ−タは、私や根暗さんなどの様々なファイルや 
本にちりばめられています。
 私個人ではそれほど大量なことができないので、是非皆さん自身で応用して頂きたい 
と思います。(特に、主題でありながら食品中の放射能の危険性は充分に扱うことが出 
来ませんでした。)その様な応用ができた場合は、どんな小量でも構いませんからアッ 
プロ−ドして頂きたいと思います。3人寄れば文殊の知恵と言うではないですか。
    Tosh

        msx03025(アスキ−ネットMSX)
        PBB00556(NIFTY−SERVE)
放射線の考え方 (11) Tosh <MSX・再アップ
★内容
From MSX-NET Jiji Salon (confer.room4) Note 34 Res:12/17
By msx03025 11:20  8/14/88 
 参考文献                      放射線の考え方 11/14 

   特に引用箇所は明示しませんでしたが、以下の文献を参考にしました。

1 I.フレミング著/福井謙一監修/竹内敬人・友田修司訳、フロンティア軌道法
   入門−有機化学への応用−、1986、講談社
2 David O.Cooney/権藤晋一郎訳、医工学、1984、アイピ−シ− 
3 江上信雄、放射線生物学、1985、岩波書店
4 館野之男・山崎統四郎、核医学概論、1983、東京大学出版会
5 藤田昌彦・井村伸正・早津彦哉・武田寧・山田隆・渡部烈、生体濃縮、1985、 
  講談社サイエンティフィック
6 松平寛通、生物科学のためのアイソト−プ実験法、1978、東京大学出版会
7 国連環境計画(UNEP)編、放射線:その線量・影響・リスク、1988、
  同文書院
8 W.マ−シャル編・加藤和明監訳、放射線とその応用(上・下)、1987、
  筑摩書房 原沢進、改訂原子力の基礎、1972、コロナ
9 石原健彦,核燃料 対話:原子力入門、1983、共立出版
10 萩原敏雄、発電工学概論、1983、技法堂
11 田村正紀・木畠博・兵頭幸雄・野藤泰昇、エネルギー施設の立地をめぐる紛争の 
   研究、1981、日本統計センタ−
   (NRS−80−6総合研究開発機構助成研究)
12 松原望・鈴木重夫、米国・フランスの原子力政策の形成−−その政治社会学的考 
   察、1985、応用システム研究所(NRS−83−24総合研究開発機構助成 
   研究)
その他に高校の教科書、食品成分表、理化学辞典、生化学辞典などを参考にしました。 
孫引きが多いのは許して下さい。
Tosh

放射線の考え方 (12) Tosh <MSX
★内容
From MSX-NET Jiji Salon (confer.room4) Note 34 Res:13/17
By msx03025 11:24  8/14/88 
 付録1 基本デ−タ集                放射線の考え方12/14 

 表9.1主な放射性核種
======================================= 
   核種          半減期   放射線のエネルギー(MeV)
                      β(最大)  γ
−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−− 
  3H  トリチウム     12年  0.019   なし
 14C  炭素14    5700年  0.16    なし
 32P  リン32      14日  1.69    なし
 35S  硫黄35      88日  0.17    なし
 45Ca カルシウム45   64日  0.25   ほとんどなし
 60Co コバルト60     5年  0.31   1.17,1.33
 90Sr*ストロンチウム90 28年  0.54    なし
 90Y *イットリウム90  64時  2.27   ほとんどなし
131I  ヨウ素131     8日  0.6    ほとんどなし
137Cs セシウム137   30年  0.51    0.662
222Rn*ラドン222     4日  5.5 *α ほとんどなし
226Ra*ラジウム226 1600年  4.8 *α ほとんどなし
−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−− 
注1 90Yと90Srは放射平衡状態にある。(すなわち、90Yと90Srの放射 
能が等しくなる様に、90Srがβ壊変して90Yに調整されている。:90Yは90 
Srの嬢核種とも言う。)
注2:  222Rn−  226Raも放射平衡状態にある。
注3:  222Rn、  226Raはβ壊変ではなく、α壊変です。rad→re
算には20を掛けて下さい。
注4:「ほとんどなし」は、10%以下の核種しかγ線を放出していないことを示しま 
す。

表9.2 環境中の放射性同位元素の(法的な)許容濃度(およその値)
======================================= 
  同位元素          許容濃度 (Bq/リットル  )
                空気中    水中
−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−− 
  3H  トリチウム    74      1110000
 14C  炭素14     37       296000
 32P  リン32      0.74      7400
 35S  硫黄35      3.3      22200
 45Ca カルシウム45   0.37     11100
 60Co コバルト60    0.11     11100
 90Sr ストロンチウム90 0.015      148
 90Y  イットリウム90  1.1       7400
131I  ヨウ素131    0.11       740
137Cs セシウム137   0.19      7400
222Rn ラドン222    0.37
226Ra ラジウム226   0.00037      3.7
−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−− 
 * 放射線を放射する同位元素の数量等を定める科学技術庁告示第22号別表から作 
 成しました。(抜粋して、単位を換算しました。)
(別表第1:(障害防止法第6条関係)種類が明らかで1種類である放射性同位元素の 
場合の濃度)
 ストロンチウムやセシウムに(法が)注意していることが分かります。
 また、これは実験室などのための許容量です。 (実験室=一時的な入室、扱う人= 
実験者:被曝経路は、経呼吸、経皮膚等。)
(つまり、無関係な人、毎日の食品を対象にする場合は当然、この基準は厳格にならざ 
るを得ない。)

 表9.3 種類が明らかでない場合の許容濃度(水中)
===================================
 核種が全く不明の場合           3.7(Bq/リットル)
 226Ra等が含まれていない場合       37 ( 〃  )
 さらに90Sr等が含まれていない場合    260 ( 〃  )
 さらに131I等が含まれていない場合    370 ( 〃  )
−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−− 
 * 出典、換算は表2に同じです。 食品、無関係者への注意事項も同じです。
 さて、根暗さんの情報が正しいなら、あなたの今日の夕食は、基準に合格しています 
か?
 ちょっとした勘繰りをします。 もし、食品からヨウ素131(131I)が検出さ 
れたら、基準は少なくとも260Bq/リットルに引き下げねばなりません。 ストロ 
ンチウムが検出されれば37Bqです。 政府の安全宣言は、食品に死の灰が混入する 
前に出されましたね。
基準もそれ以前のものを使用していますね。
 何か、思い当たる節がありませんか?
Tosh

#133/155 ミニコミ・スクラップブック
★タイトル (CFF72586)  88/ 8/15  19:38  ( 80) 
放射線の考え方 (13) Tosh <MSX
★内容
From MSX-NET Jiji Salon (confer.room4) Note 34 Res:14/17
By msx03025 11:28  8/14/88 
 付録 2                     放射線の考え方 13/14 

 放射性同位元素の取り扱い方
 これは、実生活には全く無意味ですが、参考になるかと思います。
 「放射性同位元素等による放射線障害の防止に関する法律」には、放射線の被曝を制 
御して、放射線障害の発生を防ぐために、普通の研究施設とは異なった構造と機能が規 
定されています。
 放射性同位元素(以後ラジオアイソト−プ:RI)を使用する施設、設備は3つに分 
けられます。 RIを使用する施設(場所)、RIを貯蔵する施設、RIを廃棄する施 
設です。
 また、放射線管理の立場から、管理区域と非管理区域に分けられます。管理区域は非 
密封RIや、あるいは非密封RIを生じる恐れのある区域と、RIを生じる恐れはない 
が、X線発生装置などがある区域が指定されます。
管理区域は、
 地崩れや浸水の恐れがない場所に設置され、
 管理区域には人の出入りが自由にできないようにしておくこと、
 所定の標識(例の、黄色と黒の3つの扇型)をつけること、
 施設の主要構造部(壁、柱、床)は耐火構造ないし、不燃材で作ること。
* どうですか? 結構、RIってのは気を使うものですね。

汚染除去の方法
 汚染を生じた場合は、汚染が他の部分に広がらないようにし、除去に使用したペーパ 
ータオル、脱脂綿、ブラシ、ガーゼ等は廃棄する。

1 人体に汚染があった場合
 手足の皮膚が汚染した場合には、他の部分に汚染を広げないようにペ−パ−タオルで 
押さえ、大量の水で洗う。
 顔面の皮膚の場合には特に目、唇に汚染が広がらない様にする。
 目及び唇も汚染した場合には、目、唇の内部に汚染を侵入させない様にする。
 傷口が汚染した場合は、大量の水で洗う。 出血していても止血しない。
 口に含んだ場合は、大量の水でよくすすぐ。 飲み込んだ場合は、指をのどまで押し 
入れて、胃の内容物を吐き、水を飲んで繰り返し吐く。 吸い込んだときは、何度もせ 
き上げてうがいする。

2 皮膚が汚染した場合。
 中性洗剤を使用し、ぬるま湯でよく泡立てて数分間洗う。 傷口のある時は、その部 
分を保護して洗い、ペ−パ−タオルで完全に水分を拭い、観察する。

 表10.1 RIの性質と親和性臓器(参考文献6)
======================================= 
  核種  半減期 崩壊形式 エネルギー(MeV) 親和性臓器
−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−− 
  3H   12年  β  0.018      全身
 14C 5700年  β  0.155      脂肪・全身
 32P   14日  β  1.71       骨・肺・消化管
 35S   87日  β  0.167      こう丸・肺・消化管
 45Ca 165日  β  0.25       骨・肺・消化管
131I    8日  β  0.25〜0.81  甲状腺
            γ  0.08〜0.72  肺・消化管
−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−− 
親和性臓器については表7.2を再掲します。

 表7.2 核種の特定のグル−プへの重要な経路(参考文献8)
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放射線核種    重要な経路       被曝の型    被曝部位
−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−− 
137Cs  多様:海、海草、魚     食物摂取    全身
        その加工品など
 90Sr   〃            食物摂取・吸入 骨
106Ru   〃            食物摂取    胃腸管
 60Co   〃            〃       胃腸管・全身
239Pu   〃            〃       骨・肝臓
131I   大気−地面−家畜              甲状腺
       大気−地面−野菜
133Xe  気中から吸入                全身
  3H   〃                     〃
 14C   多様           吸入・食物摂取  全身
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Tosh

放射線の考え方 (14) Tosh <MSX
★内容
From MSX-NET Jiji Salon (confer.room4) Note 34 Res:15/17
By msx03025 11:35  8/14/88 
番外編 火力発電と原子力               放射線の考え方14/14 

はじめに
 これら一連のファイルはもともと、食品の放射能汚染の実体を捉えるために計画した 
ものでした。 しかし、アスキ−MSXネットの状況を見ていて、原子力発電の意義な 
るものを再確認するのも価値があることと思い、この編を付けます。
 原子力発電の存在意義は二つあります。 一つは、火力発電に代わるあらたなエネル 
ギ−源です。 言ってみれば、現在の社会的な存在意義です。 もう一つは、核燃料サ 
イクルの、一部分という捉えかたです。 将来の社会で存在すべきものです。

1 発電
 現代文明の基盤であるエネルギーの確保は、重要な問題です。
 このエネルギーの主要な担い手として、電力はその地位を不動の物にしています。
2000年には、総エネルギー需要の40%を占めるとすら言われております。この様 
な中では電力の確保は特に大切な条件であるのは間違いがない様に思われます。
2 火力発電
火力発電は御存知の通り、石油など化石燃料を燃やすことによって、その熱を電力とし 
て取り出すものです。
 主な発電方式を挙げます。

 1 汽力発電
 石油、石炭、ガス等をボイラで燃焼して水を沸騰させ、その蒸気の圧力で(タ−ビン 
につながった)発電機をまわすものです。 火力発電と言うと、この汽力発電を指すこ 
とが多い。

 2 内燃力発電
 重油、ガソリンなどを直接ディ−ゼル機関、ガソリン機関の内部で燃焼させるもので 
す。出力の割には小型軽量で、始動性も良く、熱効率も高い。 発電所、工場、病院、 
ビル等の非常用電源や、離島での発電に用いられる。

 3 ガスタ−ビン発電
 軽油、灯油、ガス等の燃焼ガスでガスタ−ビンを回すものです。 構造が簡単で建設 
費も安く、始動性も高く、負荷の急変動にも対応できるので、ピ−ク電源として用いら 
れます。
立地計画や開発については表にしましょう。

表11.1 火力発電立地点の選定基準(参考文献10)
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項目    内容                      目的
−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−− 
位置    付近の状況、将来の計画             発電用地の確保
土地    地形、所有者、地価、地目、補償物件       〃
地盤    地質、支持力                  〃
土地造成  切り崩し、埋め立て、台風、津波、地震などの災害 〃
陸海の交通 道路、鉄道、港湾、燃料受け入れ施設       燃料、機器の搬入
ボイラ用水 工業用水、上水、地下水             用水確保
復水冷却水 水質、水温、貝類、くらげの発生、漁業状況、流況 〃
送電線   付近の送変電系統、送電ル−ト          送電線引出し
気象、海象 風向、風速、波浪、潮位、水深、流況など     環境対策、護岸など 
生態    動植物の種類と分布               環境対策
漁業    漁業、漁期、漁獲量               〃
−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−− 

表11.2 供給特性(参考文献10)
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供給力    運用特性         経済特性
−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−− 
ベ−ス供給力 利用率が高い       文字通り発電の土台なので燃料費が重要視 
                    される。
       高い信頼性が必要     当然、効率が重要視される。
中間供給力  利用率はあまり高くない  部分負荷に効率が良いこと。
       中間負荷時に全力運転
       従って、始動、停止が迅
       速・簡便
       負荷の変動に対応できる
       ことが必要
ピ−ク供給力 利用率は低い      通常は運転しないので燃料費は小さいが
       需要のピ−ク時、逼迫時 固定費が大きい。
       に運転
       始動時間が短くなければ
       いけない。
       負荷即応力が大きい
−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−- 
* 負荷とは、要するに、私達が使用する電力のことです。
ここまでのまとめ
 将来は電力が今以上に重要になる。
 発電所を作るには様々な条件がある。
 発電所には3つのタイプ(ベ−ス、中間、ピ−ク)があって、使い分けられている。 

3 原子力発電
 これも、グロ−バルな視点からその存在意義を考えていきます。
 代替エネルギーとしての利点は3つあります。
1 燃料の輸送効率が高い。(小質量でありながら大出力)
2 長期の継続運転が可能。(燃料の交換がいらない)
3 燃料費がかからない。
さて、特徴は表にします。

表 原子力発電の特徴(参考文献10)
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設備    火力発電のボイラに当たる部分が、原子炉および熱交換機になる
蒸気条件  火力に比べて悪い。(効率が低い)従って、逆に施設が大きくなりプラン 
      ト効率も低い。
放射能対策 放射性廃棄物処理設備が必要
燃料    火力とは根本的に異なる。核燃料取り扱い装置、冷却装置、使用済み燃料 
      の再処理施設も必要
運転保守  出力調整は制御棒に依ってしか調節できない。
安全性   核燃料が使用されており、多重の安全設備が必要になる。
−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−− 
* 根本的な、放射性廃棄物処理、再処理技術は開発されていない。
  核分裂反応の調節は不可能(制御棒は核分裂の制御そのもののはできない。連鎖反 
  応の触媒量(中性子数)をへらすだけ。)
立地条件
 立地条件については広瀬隆の著作があまりにも有名になり、かえって誤解が生じてい 
るので、少々詳しく書きます。
 原子力発電所の立地条件は、火力発電所の場合と共通する部分もかなりありますが、 
主な相違点は、発電所周辺の公衆の安全を確保するために必要な条件を考慮しなければ 
ならないことです。この考え方に基づいた敷地選定基準として、
 周辺の人口密度
 地質・地盤
 設計用地振動
に対して規制があります。

1)周辺の人口密度
 原子力発電所は、安全設備が期待通りに働かないという場合も考慮して、安全確保の 
最後の砦として“遠隔距離”がとられています。 このような見地から、原子力委員会 
の「原子炉立地審査指針およびその適用に関するめやす」には次の3つの基本的なこと 
が示されています。
 1 原子炉からある距離の範囲は、非居住区域とする
 2 非居住区域の外側は、低人口密度帯であること
 3 原子力発電所の敷地は、人口密集帯から一定距離だけ離れていること
 この3つの条件は重大事故を想定して設けた基準です。(注:これなら、そんな重大 
事故でも、私達が即死することはない(確かに生命を守られた)。しかし、私達の心配 
はそれだけではないはず。)

2)地質・地盤
 1 立地点およびその周辺が過去において自然災害(地震、津波、台風、洪水、地滑 
べり、陥没など)によって大きな被害を受けたことがなく、またこれらの災害が将来に 
おいても起こる可能性が少ないこと。

 2 発電所の主要構造物は、直接基盤に据えるか、または、確実な地盤によってこれ 
を支えなければならない。

 3 設計用地振動
(これは、かなり難しくなる(基準地振動の説明から始めなくちゃいけない)ので、簡 
単に言います。)
 地震、原発稼働時の振動に対する影響の評価です。

おわりに
 さて、賢明な皆さんなら、御気づきでしょうが、ベ−ス火力発電所が原子力発電所に 
替り得るのだということです。 つまり、中間、ピ−ク発電所はやはり、原発にはでき 
ません。 将来のエネルギー需要の40%が電力として、その内のベ−ス電力(これは 
深夜の発電量にしか相当しない)のみが、原子力によって替り得ることになる訳です。 
 全てのエネルギーを原発でできるのではないかという、夢を抱いておられた幸福な方 
々、ご苦労さまでした。 やはり、それは夢です。

追伸:原発は本当に(十分に)安全でしょうか?
   事故の確率が0でない以上、どの程度なら許せるかを暗算してみます。
  1 放射能が十分に減衰するまでに、600年かかるとする。(予習編・実習)
  2 600年に1回の事故なら人類が存続できる。
  3 全世界に500基の原子炉があるとすると、(現在はおよそ400基)
    1基あたり30万年(=500*600)に1回だけ大事故を起こしても良い。
    (事故の確率が30万分の1回/年以下ということ)
  4 事故が(600年以内に)連続することもあるので、安全係数をとって、30 
    0万年に1回だけ事故が許される。(事故確率300万分の1回/年まで)
 この(人類が存続できる)基準すら満足にクリアされないうちは危険なシロモノであ 
ることに間違いはないでしょう。 「数百年間運転しても事故を起こしません。 安全 
です。」・と・言われたら300万年もちますか?と・聞き返しましょう。
Tosh
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