Gen00325 核融合と次世代核燃料−ますますダーティに?

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核融合と次世代核燃料−ますますダーティに?
                     by 大阪科学部・団藤

 No.310でヘリカル理論を説明せよとの注文がありました。とてもB
BSで答えられる話ではありませんが、定性的な説明をしながら、標題の話
への導入にさせていただきます。

 核融合には、磁気閉じ込め方式と、慣性核融合があります。磁気閉じ込め
の代表が原研のJT−60などのトカマクであり、文部省系の次期大規模装
置として決まったヘリカル系(京大ではヘリオトロンと呼びます)です。慣
性方式はレーザー核融合です。

 トカマクは基本的には円形のコイルをいくつも組み合わせて、ドーナツ型
の核融合プラズマを宙に閉じ込めます。工学的に最も大規模装置が作り易い
形です。だから、最も進んでいるのです。しかし、致命的ともいえる弱点を
抱えています。磁場をつくるためにプラズマ自体に電流を流さなければなり
ません。そのために、誘導起電力で流す、つまりトランスと同じ原理ですか
ら、断続的な運転になり、容器の壁は強烈な熱輻射の上下変動にさらされま
す。炉壁は当然傷みます。

 ヘリカル系は同じドーナツ型ながら、コイルがドーナツをらせん状に、蛇
が巻き付くように巻いています。このコイルに電流を流すだけで、プラズマ
を炉壁から離すことが出来ます。だから、原理的に定常運転が可能です。こ
ちらの難点は立体的な、三次元のらせんコイルを超伝導でどう精度よく作る
かです。工学系の方ならお分かりでしょう。これがいかに難物であるか。現
在、らせんを部分的に分解してモジュール化するなどの試みが行われています。

 さて、現在、核融合の一番よく報道される話題は、臨界プラズマ条件の達
成です。しかし、一番の問題は、炉の材料をどうして見付けるかだと思いま
す。レーザー核融合(国内では阪大)を除いて、核融合実験装置は実は核融
合反応を起こしていません。直径1,2ミリの標的内の、重水素、三重水素
に反応を起こさせるレーザー方式と違って、大きなドーナツ型プラズマに核
融合を起こさせてしまうと、放出される膨大な中性子のおかげで、炉の壁は
もちろん、装置全体がたたかれて、放射化が起こります。ほんの瞬間の反応

で、放射線レベルが下がるまで、何週間も、誰も近寄れなくなります。実用
核融合炉は、この反応を連続して起こし続けるのです。たとえ、保守、運転
を完全に自動化したとしても、次には、中性子線でたたかれて1年もしない
うちに材料がぼろぼろになります。わたしが、材料が最大の問題とする訳は
お分かりいただけたでしょう。

 核融合は、死の灰を出さないクリーンエネルギーのように思われる方が、
多いのですが、実際には極めてダーティになる恐れが強いのです。そしてな
お、実現の可能性には多くの疑問符が打たれます。

 世界的には、プルトニウムを利用する高速増殖炉の時代は来ないかもしれ
ない。でも、来世紀の前半はともかく、やがてウラン資源には限りが来る。
核融合も実現しないかもしれない。でも、トリウムというウランよりはるか
に豊富な核燃料物質が残っているのです。そのままでは、なんということも
ない物質ですが、中性子を1個取り込むと、核分裂性のウランに変わります。
中性子をどうやって吸わせるか。実は、核融合が発電炉として実用にならな
くても、膨大な中性子を放出できる線源として、トリウムをウランに変える
手段にはなる−−とも考えられています。しかし、さきほどと同じ理由で、
あまりクリーンなものではありませんね。