Gen00306 88年7月科学面:保護回路の配線図ミス見逃す

#0000 host     8807301825


******************************************************
* 島根原発2号機停止事故、保護回路の配線図ミス見逃す *
******************************************************
          88.07.20  夕刊 5頁 水曜科学 写図有 (全1632字)

 現場作業用を書き間違い 何重ものチェックは“素通り”

 試運転を始めた直後に突然発電機が止まり、運転停止に追い込まれた中国電力
島根原子力発電所2号機の事故原因は、配線図の書き間違いというごく初歩的な
ミスが原因だった。安全性が厳しく要求される原発では、人間の誤りを防ぐため
に何重ものチェック体制が敷かれているはずだったが、この事故ではチェック体
制が機能していなかったことも浮き彫りになった。

 11日の事故の原因になったのは、発電機とその先につながれている主変圧器
に異常があった場合、電流を止めて機械を保護する役割をしている比率差動継電
器というリレー装置だ。これは図1(略)のように送電線の2カ所の電流値を測
り、その差を調べる。もし違いが大きすぎるときには、途中でショートなど起こ
している可能性があるため、発電を止めるという仕組みだ。原子力発電所に限ら
ず、火力発電所にも水力発電所にもついている。

 原発を建設するときには、電気系統の設計図として、図1のような大まかな基
本図がまず作られる。例えば、送電線は本当は3本あるが、基本図では1本の線
として描かれる。

 もちろん基本図では実際の配線には使えないから、これをもとに現場での作業
に使う展開接続図といわれるものに作り替える(図2=略)。ここでは、線の1
本1本が実際にある電線と対応している。

 今回の事故のもともとの原因は、基本図から展開接続図を作るとき、図2のA
のように書くべきところを、Bのように書き誤ったことだった。送電線の電流を
検知する変流器という装置は、リレーに対して置く向きが決まっているため、B
のようにすれば正常には働かなくなる。この配線ミスのため、発電機が動き出す
と、電流の差が現実よりずっと大きく検知され、発電機を止める命令をリレーが
出したというわけだ。

 設計図は作りっぱなしというわけではない。設計施工者である日立製作所と、
中国電力の双方でチェックをしていたことになっている。日立側では、設計の担
当者である作図者、その審査をする技師、承認をする主任技師の3段階のチェッ
クをし、さらに中国電力の島根原子力発電所建設所の電気課の課長、副長らでチ
ェックをしていた。だから少なくとも5人の目は通されていたはずだ。ところが、
ミスは発見できなかった。

 さらに配線が終わってからの実際の機器に対するチェックもある。しかしこの
段階では、部品の1つひとつについては調べているが、実際に送電に異常があっ
た場合に、システムが正常に働くかどうかは調べていなかった。「システムが働
くだけの電流を流すには、発電機を回さなければできないんです。つまり原発を
動かす以前にはチェックできない」と中国電力原子力部の国清一敏課長。

 配線ミスから原発が止まった例は、86年6月に関西電力美浜原発2号機でも
起こった。定期検査で発電機の保護回路の配線を直したとき、配線図と逆に結線
してしまったのが原因だった。「作業ミスで起こった美浜の事故に比べると、島
根のほうが深刻ですね。現場では、設計図は絶対正しい、という前提でやってい
ますから、誤りのチェックのしようがない」と福井県の原子力安全対策課はいう。

 原発建設では一番最初の概念図から部品の設計図に至るまで万の単位の図が作
られる。「何重ものチェック体制を作っていても、膨大な作業量ゆえに目が行き
届かない所があるものです。なぜミスが出てしまったのか、設計者の心理的な問
題なのか、図に情報を詰め込み過ぎたのかなどいろいろなことが考えられる。コ
ンピュータの利用によるチェックなど、抜本的なものが必要なのかもしれない」
と原発の安全論に詳しい日本原子力研究所の佐藤一男・東海研究所副所長はいう。

 この事故の反省はどう生かされているか。日立製作所では社長室が「これまで
のチェック体制と独立した系統によるダブルチェック体制を作り、低出力試運転
時に回路の電流方向のチェックをします」とミスの原因には触れず、わずか数行
のコメントを出した。




#0001 dando    8807301836


No.305,306は、No.289でわたしから出したお願いに対する
No.292の狩野さんの要望に応えて、朝日のデータベースから引き出し
てきたものです。筆者は私ではありません。        (団藤)