Gen00305 88年7月科学面:「破断前漏えい」容認の方向

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* 「破断前漏えい」容認の方向 九電玄海原発事故で国と電力業界 *
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          88.07.19  夕刊 5頁 火曜科学 写図有 (全1762字)

 一昨年12月に米で大規模事故 専門家に疑問の声も

 九州電力の玄海原子力発電所1号機(佐賀県玄海町、加圧水型原子炉、出力5
5万9000キロワット)で6月6日に起きた1次冷却水漏れ事故は、非常にま
れな条件が重なり合って起こった配管の熱疲労が原因と断定され、14日には今
後の対策が明らかにされた。原子炉の安全面では以前から、未知の事象であって
も、破断の前には漏れが起こるから、その時点で気づけばよいとする「破断前漏
えい(LBB)」の概念が論議されてきた。今回の一連の処置は、国、電力業界
がこの概念を容認する方向にあることを示しているといえそうだ。

 ○亀裂の原因

 この事故は、原子炉と蒸気発生器などを結ぶ1次冷却水主配管から枝分かれし
た余熱除去系配管で起きた。亀裂が入ったのは、運転中に閉じる隔離弁の主配管
側。本来なら約80度の水がほぼよどんだ状態になっている場所だが、隔離弁の
調節具合とパッキンの状態が悪かったことから水漏れが起き、それに伴って1次
配管から約200度の水が管の上層へ流れ込む状態になった。このため、熱水が
入ると弁の熱膨張で水漏れが止まり、水温が下がると再び漏水が始まるという形
で、断続的に水流が生じた。

 水の温度が80度から200度まで変化、管が伸縮すると、溶接部にかかる力
は1平方ミリ当たり11キロ程度変化すると推定されている。これが水流の断続
で、約20分ごと、累計では10万回から100万回に及び、応力(ひずみ)を
受けやすい溶接部に亀裂が発達した、と断定された。こんな所に強い応力変化が
100万回近く起こることなど、原発では全く想定されず、安全面での設計上の
考慮はなされていなかった。

 配管外側の穴は1.5ミリだったが、内側には長さ8.5センチの亀裂が広が
っていた。隣の溶接部にも、貫通はしていないものの長さ10センチ、深さ17
ミリの亀裂が見つかった。

 ○まれな事象

 原発の1次冷却水配管に熱変動の応力で亀裂が発生し、水漏れが起きたのは、
国内ではこれが初めて。海外でも昨年12月に、米国のファーレー原発2号機の
緊急炉心冷却システム系配管で、報告があるだけだ。

 資源エネルギー庁原発運転管理室では、今回の事故を(1)1次冷却水の圧力
が及ぶ配管(2)水が停滞する構造(3)配管が水平(4)弁やパッキンの不具
合から水漏れが起きる(5)水漏れ量が変動して、断続的に水流が生じる――の
5条件が「すべて重ならないと起きないまれな事象」という。同様の事故がほか
の原発で発生する可能性はほとんどない、との見方だ。

 また、仮に同じことが起きても「今度のような微小な漏れで分かり、配管全面
に亀裂が進展して安全上問題となる事故には、ならない」と今永隆・同室長はL
BBの概念に基づいた説明をする。

 米国・サリー原発2号機の配管で「ギロチン破断」と呼ばれる大規模な破断事
故があった一昨年12月以降は、こうした考え方に対する疑問が専門家の一部に
は強まっていた。だが日本では、その後の検討から、同原発の水管理などに問題
点が指摘されるにつれ、再びLBBへの評価も聞かれるようになっている。

 矢川元基・東大教授(原子炉構造学)は「玄海原発の事故ではLBBがうまく
成立しており、論議の新しい契機になりうる」と話す。

 ○今後の検査対応

 定期検査後わずか1カ月で事故が起きたことから、反原発団体には検査体制の
見直しを求める声も強く、香月熊雄・佐賀県知事も「厳重な検査をしてほしい」
と九電に要請していた。

 水漏れした溶接部は10年に1回だけ検査する場所だ。3年前の検査の時には、
すでに亀裂が生じていたらしいのに、異常は見つからなかった。

 しかし九電は、事故の再発防止策として、水漏れ原因になった隔離弁の調整、
パッキンの取り換え、熱変動探知用の温度計の設置、を発表したものの検査につ
いては「機械は換えるが、やり方や頻度は変えない」との考えだ。LBBに自信
を深めたとも思える対応である。

 反原発団体がいうように検査を密にすれば、作業者被ばくの増加など、新たな
問題も生じる。

 痛しかゆし、ともいえる状況の中で、LBBもまだ十分な検討を受けたとは言
いがたい、という見方も根強い。だが、通産省からの事故報告に原子力安全委員
会も質疑を交わさず、状況だけはLBB概念の容認に向かっているように見える。




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No.305,306は、No.289でわたしから出したお願いに対する
No.292の狩野さんの要望に応えて、朝日のデータベースから引き出し
てきたものです。筆者は私ではありません。        (団藤)