Fre00096 あるネットワーカーの一日

#0000 sci1089  8808290013


N氏のネットワーカー・ライフ
 以下は、199X年のありふれたネットワーカーの一日を描いたものです。
まじめな話が好きなひとは次に進んで下さい。
("L"で読んでいても、"J"で次に飛べば、見ずにすみます。)
                    Martha
(以下はフィクションであり、登場する個人、団体、機関等は全て架空のものです。)




#0001 sci1089  8808290023


  1.朝、自宅で
 朝。N氏は、朝食を取りながらASAHI−NETの流すニュースの見出しを眺める
のを習慣にしている。TVと違って、読むニュースを自分で選べるのが特徴である。N
氏の場合は、ランク5以上のすべての記事と、職業柄関心の深い科学関係、化学産業関
係、そしてスポーツ関係の記事の見出しを表示させるように設定している。見出しを見
て関心を持ったら、カーソルをその見出しに合わせてマウスのボタンを押せば、記事の
内容が表示される。今日は、大したことは起こっていない。おや、「K化学、南米に新
工場建設」だと?財テクで投資している会社の動向を告げる見出しを見つけたN氏は、
「ダウンロード」キーを押した。これで、記事の中身はフロッピー・ディスクにそっく
りコピーされ、保存される。出勤時の車内で詳しく読むつもりで、N氏はさらに幾つか
の記事をコピーした。
 「あなたあてに若くて美しい女性からメイルが届いてるわよ。」隣でYUBIN−
NETに届いたメイルを整理していた妻が、ニヤニヤしながら言った。
「女性はともかく、なんで若くて美しいことまでわかるんだ?」とお決まりの質問でや
り返す。
「だって、「若くて美しいS子より」ってなってるわよ。」どうせそんなことだろうと
思った。
「どうせ親展にはなってないだろう?開けてびっくり、K社の原稿の催促さ。あそこの
編集は、飽きもせずにこの手の古くさいいたずらをやるんだから。みていいよ。」
 YUBIN−NETは、メイル中心のネットである。メイルは全世界ネットであるが、
BBSは区市町村毎に設定されていて、地方自治体や町内会、地域サークルの連絡など、
地域内のコミュニケーションを対象としてサービスのつもりで付けたらしいが、そこは
BBSの常、フリートークのボードがいつも盛況らしい。ここの特徴は、ファミリーI
Dと何段階ものセキュリティーシステムである。ファミリーIDは、個人ではなく家庭
毎に1つのIDを登録できるようにすることで、固定使用料の軽減をはかるものである
。ファミリー・パスワードの他に、2人以上10人までのハンドル名とこれに対応する
パスワードを、個人IDのわずか10%増しの料金で登録できる。16歳になる娘など、
男名と女名の2つのハンドルを登録して、言葉遣いまで使い分けている。おかげで、た
いていの人はわが家には息子が2人いると思っているらしい。個人パスワードは、親展な
どセキュリティーの保持のために使う。
 親展は2番目に低いセキュリティーレベルで、個人パスワードを入力しさえすればす
ぐに読みだせる。一番高いレベルは確かシークレットボックスと呼ばれていて、特別の
パスワードを入力しないとメイルの存在すらわからない。しかも、暗号で入力されてい
て、特別のキーワードを入力しないと意味の通る文章にならない。解読結果は、端末の
ディスクに直接書き込まれ、ホストのメモリー上にも画面にも残らない。等等、絶対の
機密保持を保証している。非公開の、さらに高レベルのセキュリティーシステムもある
という噂である。もちろん、セキュリティー・レベルが高いほど利用料金も高くつく。
  もう1つの特徴は、メイルの保管時間が長いほど使用料金が高くなる点である。特に、
保管時間が1日を超えると割高になる。だから、アクセス回数がある程度多い方が使用
料金が安いという奇妙な現象が起こる。旅行などでしばらくアクセスしない時は、メイル
受付停止コマンドを実行しておかないとひどい目に遭う。受付停止といっても、送信側
が希望すれば、安い定額料金で「送信待ち」扱いが可能であり、受付停止が解除される
と同時に自動送信してくれる。長い旅行から帰ってきたときなど、次から次へと送られ
て来るメイルの洪水に悲鳴を上げることも少なくない。
 「やっぱりあなたの言うとおりだわ。あなたみたいに締切を守らない人がいるから、
編集もたいへんなのね。」とあいかわらず手厳しい。
「単行本だぜ、締切はあってないようなものさ。」と逃げる。
「へえ、そういうものなの。ところで、「前著の増刷にともなう印税、過日ご指定の口
座あて振り込みました」って書いてあるけど、あたしそんな話一言も聞いてないわよ。」
しまった、と思ったときはもう遅かった。
「印税が入ったら、新しいコートを買ってくれる約束だったでしょ。どういうこと
なの?」
「だっていまはまだ夏だし...」と言って弁解したところで引っ込む相手ではない。
結局、シーズン始めに新しいコートを買うことになってしまった。やはり、自分宛のメ
イルは他人に開封させるもんじゃない。 

                                                  Martha




#0002 sci1089  8809181721


 2.通勤の車内で
 N氏が最寄りの駅から乗った電車はすいていた。
「これも、在宅勤務とフレックスタイムの成果かな。」とN氏はつぶやいた。
 席に座ると、やおらカバンの中からラップトップを取り出した。約2kgと軽
いが、フロッピー・ディスクドライブを1台もち、エディター、プリントソフト、
通信ソフト等をROMカードで持っている。OSはもちろん、今や16ビット機
の世界的標準となったXXーDOSがROMカードサポートされている。何しろ、
オフィスや家庭にある32ビット機のOSとテキストもディスクフォーマットも
共通の上に、たいていのコマンドやプログラムも互換性があるのだから便利であ
る。この世界の常識に反して、32ビットOSの下位コンパチDOSを敢えて開
発したXX社の大ヒット作である。

  N氏は、朝方ダウンロードしたばかりのASAHI−NETの記事を読むこと
にした。NETに契約すると、検索、表示機能に優れた読み取りソフトが提供さ
れる。これを使えば、ダウンロードした記事の大小の見出しをキーにした高速検
索が容易にできるので、読みたい記事をすばやく捜して表示させることができる。
 しばらく記事を読んでいたN氏は、ふと回りを見回した。乗客の約1/3が
ラップトップを使っており、もう1/3はプリンター出力とおぼしい書類を見て
いる。どこかのニュースネットかマガジンネットの配信サービスを受けているの
だろう。高性能プリンターの普及で、活字とほとんど差のない印字が家庭用プリ
ンターでも高速で行えるようになったため、ニュースネット各社は、家庭毎に必
要な記事だけを毎朝メイル送信する配信サービスを始めた。タイマー起動するプ
リンターソフト(これもニュースネットの提供である)を使えば、朝起きたとき
にはきれいに印刷されたニュースが「届いて」いるのである。

 残りの1/3は本を読んでいた。いくらコンピューターが発達しても、上質の
紙にきれいに製本された本の軽さと、しおりによるアクセスの速さには勝てない。
というわけで、今なお、本は根強い人気を保っている。ネットワーク化のあおり
で、いくつかの出版社はつぶれ、いくつかはネットワーク出版に鞍替えしたが、
大部分はネットワーク出版と本出版の両方をやっている。ネットワークに流した
予告に対する反響や、購読予約の数等を参考にして部数を調整したり、時には出
版形態を本出版からネットワーク出版に、あるいはその逆に切り替えたりなどし
て、ある程度まとまった売行きの確保できたものをできるだけ確実に売りさばく
ことにより、返本や在庫の山をかかえずに済むようになっているという。そのた
め、出版部数は減っているのに昔より値段を下げても利益が増えるという奇妙な
現象が起こっているらしい。

 読み捨て型の本が姿を消したことで、本そのものに対するイメージも価値観も
高いものになってきているらしい。出版社に勤めているN氏の知人によれば、本
の地位の「向上」ではなく「回復」だという。「かつて、本は知識の象徴として
高い地位を得ていた。」というのを、その友人は口癖にしていた。「薄利多売に
より儲けようという誤った風潮が本の地位をおとしめたのだ。」という。

 もう1つ確実なのは、マガジンネットで好評だった連載の単行本出版らしい。
 マガジンネットというのは、一昔前の週刊誌のようなものをネットワークサー
ビスで実現したものである。ダウンロードした記事の量によって価格が決まる仕
組みになっており、どの記事がどれだけダウンロードされたかがあらゆる面での
評価の基本になるので、各社とも内容の精選と独自性の確立に苦労している。玉
石混交でも売れた週刊誌と違い、人気の程がダウンロード数、従って収入にモロ
に現れて来るので、記者、編集者ともに必死である。いち早くネットワーク出版
に切り替えた週刊誌出版社の幾つかが倒産あるいは路線変更のうき目にあったの
は、そうした状況下で、方針の切り替えがうまくいかなかった場合がほとんどで
ある。

 N氏のラップトップが、突然小さなビープ音を立て始めた。窓から外を見ると、
降りる駅の一駅手前である。ソフトの起動と同時にセットされたアラーム機能が
働いたのである。この機能は、各駅毎に発せられる異なる周波数の電波を検知し
て作動するしくみになっている。ほとんどの人がするように、N氏は、一つ手前
の駅の周波数に合わせていたのである。
「さて、次か。」N氏はラップトップをしまい、降りる支度を始めた。

                                                Martha




#0003 reader   8810142259


§ あるネットワーカーの一日 §

目を覚ますと、まだ外は暗かった。時計をみると5時をさしていた。
不思議に思ってよく考えてみると、夕方であった。
仕方がないので、夕食をすばやくすませ、といってもパンをかじる程度だが。
早速、パソコンをブートさせて、通信ソフトを起動させる。馴染みのネットへ
つなぎ、新しいPDSがないか、嗅ぎ回り、あればダウンロードする。
自分では、まずプログラムをつくることはない。ネットで仕入れたPDSをも
とにあれこれ継ぎ足したりする程度である。人の批判は人一倍であるが、自分
自信のこととなると全くといっていいほど、無頓着である。人にいわれてやっ
と気がつくことが多い、いやほとんどそうである。
さて、PDSを仕入れて今度は批評、文句などをアップロードを行いやれやれ
と思っているともう真夜中である。バックではテレビはついているがBGVと
しておいてあるようだ。本人は雑音程度で受け取っているが、なぜか興味のあ
る話題になると知らず知らずのうちに体勢がテレビのほうへ向いているのであ
る。というのも、彼は、情報番組しか関心ないようで、アイドルはもちろん芸
能関係は疎い。そんなわけでドラマ、歌番組、バラエティーなど家族そろって
みるようなものには縁がない。自然に行動の時間帯が深夜へと移っていくので
ある。この時間帯(深夜)にいると、時間の流れに鈍感になるので、ふと気が
つくと朝なんてことがある。
                                                        by reader




#0004 sci1089  8810232049


わっ!レスポンスがきたとおもったら、同題並行だ。パラレルワールド小説かな。
 それにしても、3番の登場人物には身につまされるなあ。
家族からは、こんなふうに見られてるのかも...。
 で、私の第3回はそのうちアップしますが、readerさんのもまだまだ続きが
ありそうですね。私を追い越してどんどんいってくださって結構ですよ。
期待しています。
                Martha




#0005 匿名     8810280154


 陰気で単調な毎日を過ごしてますが、ネットに出るにはそれ相応の目的があっ
てそれは、″情報を得る″これにつきますね。情報を得るのには、他のメディア
からも吸収していますが、例えば、本あるいは雑誌だと一般の人たちの生の声が
届きにくいし、内容も専門家が取り仕切っているためほぼ一方通行に近いメディ
アになっている。ラジオ、テレビとなると一方的な情報の垂れ流しになっている。
 それに比べてネットだと、知りたい情報を探し求めることができる。その分、
コストがかかるが短時間で情報のやりとりができる。さらに、自分の書いた文字
が電話回線を通じてそれが、全くの見知らぬ人たちが活字となってあらわれる。
パソコン通信が始まる以前には一部の人たちしか味わえなかったことができるな
んてすばらしい。
少々、私見を書きましたが、まあ忘れてちょうだい。

最近の生活
規則正しい生活が戻ってきた。朝めざめ、近所の図書館へ出かける。まだ、ひと
がまばらで、居心地がいい。興味のある雑誌、週刊誌を一通り読み流す。しかし
翌日には、憶えている記事は二,三しか憶えていない。まだ、惚ける年でもない
し心当たりがない。集中力が足りなくなったのだろうか、いや違う、わからない
が何かが欠けている。それで、ふらふら本をむしゃぶりつくようにしてよむが、
読めば読むほど情緒が不安になっていくようだ。
                 あーあーもうかけなくなってきた。
【鋭い指摘を求む】




#0006 reader   8810290035


Res #5
 パソ通の情報って、そんなに評価されるものがありますか。  ただ単に速報性が
あり、レスポンスがあるだけではないでしょうか。  私は割にあっちこっちのBBS
に出入りしていますが、これは凄い人生が変わったなんて思う所に出会ったことはあ
りませんね。  大体、どこも同じようなものです。  違いとは、自分に合ってい
るかどうかぐらいですね。   私にとってのパソ通とは、時間潰し以外の何もので
はないのではないのかと、ふと思ったりします。   まあ面白ければいいではない
かな。  パソコンとモデムと電話線で世界が変わるとしたら、余りに、人間を馬鹿
にしていますね。  もっとも、世界なんてそんなものかも知れませんが。
       由比峨




#0007 reader   8810300606


         ネットワークで得られる情報の価値
 現状ではパソコン通信で得られる情報にろくなものがないのはまあ確かですね.どこ
のネットへ行っても,ゴミまたゴミの山と言っても過言ではないかも知れませんね.ご
く稀に本物の情報が転がっていたとしても,ゴミの中に埋もれてしまっていて誰も気づ
いてやしなかったり.馬鹿な御高説やデマに掻き消されてしまったり.
  このサイエンスネットでも,価値ある情報がそのものずばりの形で転がっている訳で
は無いようですね.しかし,私はこのネットの中を散歩している内にクロスワードパズ
ルのキーを幾つか見つけましたよ.他では幾ら探しまわっても見つけることの出来なか
った重要なキーです.
  わざと一見ゴミの様な風を装って大事な情報をさり気なく転がしておくと言うのもま
た中々と高度な技法なのかも知れませんね.
  もちろん,こう言った技を可能とするのはパソコンとモデムと電話線とのコンビネー
ションではなくて,その向こうにいる熱い血が流れている人間の為せるものなのだろう
と思います.
                                                        LUM




#0008 sci1380  8811061332


パソコン通信は、免許の要らないアマチュア無線では?と思います。
見知らぬ人と話?が出来る。
遠く離れていても連絡出来る。
無線(有線)を通して友達が出来る。
漫画雑誌等でお馴染みの、「初級ハム」講座等のうたい文句が、そのままパソコン通信にも当てはまりそうなきがするのですが。
もっとも、パソ通も、ハムもそれだけではありませんけどね。
                        JH9ATX<ぺけろっぱ>




#0009 sci1089  8811062111


199X年のネットワーク社会――N氏の一日(3)
 自分の研究室に着き、机に向かうと、N氏は机の上のパソコンのスイッチを入
れた。この32ビットマシンは、朝最初に立ち上がると、まずUNIXホストに
アクセスし、メイルボックスからメイルを取って来るようになっている。
 メイルボックスには、昨日夜遅くまで仕事をしていたらしい、別の建物の同僚
から1通と、国内のバイオテクノロジー学会のネットから1通、バイオテクノロ
ジーの研究連絡用国際ネットから3通、業者から「受注確認」のメイルが1通、
そして経理部からの事務連絡が1通届いていた。
 すぐに返事を書く必要のあるものをピックアップしたあと接続を切ると、自動
的にスケジュールプログラムが立ち上がる。今日は、11時半より打ち合せ、3
時より会議である。特に締切の迫った仕事はなし。
 次に、ワープロソフトを立ち上げると、同僚への返事と海外からの海外からの
メイルの一つへの返事をかいた。
 N氏が書いたメイルは、国内のバイオテクノロジー学会のネットから、国際学
術メイル転送サービスのバイオテクノロジー部門を経由して、相手国のネットに
送られる。一方、N氏宛のメイルは、通常、相手国の物理学関係のネットにまず
転送され、そこから同じ国際サービスの物理学部門を経由して、国内の物理学関
係のネットからN氏に送られて来る。もともと物理学を専攻していて、次第次第
にバイオテクノロジーに転進し、現在ではバイオテクノロジー関係のネットワー
クを利用する頻度の方が圧倒的に大きいのだが、ネットワークアドレスは変えて
いない。
 同姓同名かどうかを識別するために、研究者仲間の暗黙のルールで、メイル受
信アドレスは一人が1つに統一するようになっている。変更はもちろんできるの
だが、あちこちに変更の通知を出すのを面倒がっているうちに、今日に至ってい
るのである。
 現在の国際サービスの前身である全米インターネットサービスの時代から、ア
メリカ物理学会のネットを経由して各国のバイオテクノロジーネットとコンタク
トしていたのである。国際サービスが運営を開始した時がアドレス変更のチャン
スだったのだが、あいにく国内でのネットワーク間のメイル転送サービスの整備
が遅れていて、バイオテクノロジーのネットと物理学のネット間で自動メイル転
送ができず、アドレスを変更するといろいろトラブルが予想されたため、思いと
どまったのである。当時は、国内のバイオテクノロジー仲間からのメイルが、国
際サービス経由でないと送れず、しばしばひんしゅくを買ったものである。今は、
国内でもログイン・ゲートウエイや自動メイル転送サービスが充実したため、逆
にわざわざ変更するメリットがなくなってしまっている。
(この項続く)
Martha




#0010 sci1089  8811062117


 書き上げたメイルを発送していると、チャットコールがあった。調べてみると
経理部からだった。メイルが読まれたのを確認し、私がアクセスしているのに気
付いたらしい。さっきのメイルの件だろうが、やけに急いでいる様子だ。請求書
を早く回して欲しいというだけの内容だったが、どうしたのだろう。
 どんなに電子メイルが発達しても、この種の書類だけは、郵便で送られたオリ
ジナルでないと通用しない。だから、研究室に届いた書類は誰かが経理部に各種
持って以下なくてはならない。また、そのあと行われる各種
の確認あるいは照会のため
の操作もすべて手作業である。「安全と確実性」のためだそうだが、事実関係の
確認はすべて人間がコンピューターにアクセスして行っている。請求の確認、支
払いなどわざわざ書類を介する必要はないと思うのだが、彼らはそうは思わない
らしい。
 しばらくは無視していてもいいが、あいにくこのシステムはこの種のコールや
メイル到着のアナウンスがあると、ログアウトコマンドがブロックされる仕組み
になっている。そのまま姿をくらますわけにはいかない。端末の電源を切れば強
制ログアウトにはなるが、そうなるとシステム管理部から原因調査が来るので、
かえって後が面倒である。何度も何度も、電源コードを足で引っかけるわけには
いかない。
 「しかたないか」とつぶやくと、N氏はネットワークを音声モードに切り替え、
付属の受話器を取り、合図のボタンをおした。
 「おはようございます。N先生...」
キャリアフィルターを通ってややひずんではいるが、聞き違えようのない経理部
の担当者のかん高い声が受話器から響いてきた。
Martha 




#0011 sci2088  8902070601

続きはどうなったんでしょうかぁ??????

by たぬき

#0012 sci1089  8902121453

↑
別に誰が書いてもいいのではないでしょうか?
最近、N氏の日常に紹介するほどのことが起こっていないのですが、そのうち
何か起こるかも知れません。
 N氏以外の人の生活をどなたか紹介して下さい。
 Martha
 (無責任かな)

#0013 sci1089  8903211251

[出版社からの電話]
 昼食後のコーヒータイムを過ごしていると電話がなった。外線からである。最
近は、電話で話をする必要がある場合にも、大抵電子メイルでアポイントメント
を取る人がほとんどであり、いきなり電話をかけてくるのはよほどの急用か、さ
もなければ...。
 N氏の予感は当たった。A出版社の担当編集員のS氏からだった。いつの時代
になっても、新聞とか出版とかの担当者だけはいきなり電話をかけてくる場合が
多い。
 最近のメイルシステムは、たいてい、端末機のスイッチを切ってあってもメイ
ルが届くとホストが自動的にスイッチを入れる仕組みになっている。スイッチが
入ると自動的に通信ソフトが立ち上がり、立ち上がればまっさきにメイルを受け
付ける。新しいメイルが届くと、必ず例のアラーム音が10秒にわたって鳴り響
くし、画面に表示されるお知らせの中の”メイルボックス欄”は、終始、メイル
の到着を知らせるメッセージを表示し続けるようになっている。要するに、対応
できる状態であれば、すぐにメイルその他の方法でコンタクトが可能なはずであ
る。
 それにもかかわらず、電話でコンタクトしようとするのは、1つは習慣のせい
かもしれない。しかし、別の理由があるのかも...。そういえば、A社の雑誌
に寄稿した記事のゲラがそろそろ出来上がるころである。
 やはりそうだった。ゲラを送るから、原稿受渡し用の通信ソフトを立ち上げて
ほしいというのである。
 ほとんどの通信は、汎用の通信ソフトがサポートしている通信手順で間に合う
が、中にはその業種専用にカスタマイズされた通信ソフトを利用している場合も
ある。出版業もその1つである。ネットワークの利用と言っても、かつては、文
書原稿だけを無手順あるいはプリミティブなエラーチェック手順のもとで、作者
から出版社へ送るなど、一方通行でしか利用されていなかった。挿絵も入れてレ
イアウトされたページのイメージを送るのは、当時の技術では難しかったのであ
る。
 CGの発展と共に、挿絵自体がCGで描かれることが多くなるにつれて、描い
た絵を専用プリンターに出力して編集者に郵送し、コンピュータ−が確保した空
白に貼り込むことの不合理さが認識されるようになってきた。高性能なイメージ
スキャナーをサポートしたDTP(卓上編集)ツールの普及がこれに輪をかけた。
CGで描かれ、出力された絵を、イメージスキャナーで取り込むという、現在で
は考えられないような無駄手間が、どうしてもこれに伴う画質の低下にもかかわ
らず行われていたのである。
 もうそのころには、ソフトハウス毎に独自に開発してきた画像データ取扱環境
の統一など到底望むべくもない状態だった。出版社は、自社のDTPツールと互
換性のあるCGツールをグラフィックアーチスト(GA)達に提供することでこ
れを乗り切ろうとした。ソフトハウスと協力して自分に合ったツール作りに努め
てきたGA達は、当然これを受け入れなかった。すったもんだのあげくに登場し
た妥協案が、画像データ相互変換ツールだった。各ソフトハウスも、それぞれが
開発した画像データ処理方式を公開し、互換ツールを作成することでは協力し、
また競争もした。いくつかの、機能的に難のある、あるいはソフトは姿を消した
が、大部分のソフトは生き残り、互いに他のソフトの長所を取り入れてさらに進
化し続けているらしい。
 話を戻そう。要するに校正用の原稿を図版も含めてやりとりするのは、専用通
信ソフトでしか出来ない。専用ソフトで出版社のホストにアクセスしてはじめて
受け取ることが出来る。その代わり、専用ソフトに付属した表示・編集機能で原
稿ファイルを開くと、テキストだけでなく、グラフィックもページイメージとし
て表示される。校正やレイアウトチェックには大変便利である。それだけではな
い。「校正」モードで編集を行うと、画面上では修正箇所が赤字で表示される。
実に有難い。聞くところによると、これは画面上での表示だけの問題らしい。校
正内容は、実はファイル内の別の場所に保管されていて、校正前の記録にはまっ
たく手をつけてないのだという。こうすれば、校正前がどうなっていたかも簡単
にわかるし、変更内容だけを取り出すことも簡単にできるからだそうだ。
 それにしても、メイルで「校正を送ったのでよろしく」と伝えるだけで済みそ
うなものなのに、どうして電話などかけてきたのだろう。改めて電話で打ち合せ
なくてはならない問題などないはずなのに。例によって、発行日を先に決めてカ
ウントダウンで仕事を進めているのだろうか?
 こうした疑問をS氏に伝えると、彼は答えた。「だって先生、おととい校正依
頼のメイルを出したのに、今日になってもうちにアクセスしてこないんだから。
明日が締切だし、電話でもするしか仕方ないでしょう。いったいどうしたんです
か?」
 こういわれては、こちらも返す言葉がない。ファイルが送られたのを確認する
までは電話を切らないというS氏の言葉に従い、彼からもらった専用端末ソフト
を立ち上げるためにコンソールに向かった。
 環境は変わっても、編集者魂というやつはそう簡単には変わるものではないら
しい。
−−−−−−−−−−
 Martha

 久しぶりです。